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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
三章

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リンドール幽霊侯爵の憂い

『すまない』


私がチラリと前侯爵を見ると、前侯爵は深く頷いた。


『大丈夫だ。これはアンディと儂にとって、特別な合言葉だ。この言葉でお嬢さんを疑う事は無くなるはずだ』


侯爵、その言葉、信じますよ。


この合言葉に私がカエル伯爵夫人になってしまうかもしれない未来がかかっているのだから。ジェローム様も私達の話に口を挟むことなく黙っている。アンディ様は脚を組みかえると、私と目を合わせ口を開いた。


「スペンサー令嬢、君には感謝している。しかし、お爺様と金の約束など信じがたい話だな。謝礼金が希望ならば私から謝礼金は渡そう。君が今回、多大な貢献をしてくれた事は分かっている。だが、亡くなったお爺様の事を出されるのは気分がよくない」


「私の約束はリンドール前侯爵との約束です。新侯爵と約束はしていませんので貴方からお金を頂く義理はありません」


「ならば私も、ここにいないお爺様の約束を聞く義理はないな」


『お嬢さん、言葉は…』と私は、リンドール侯爵から聞いた言葉を、すーっと息を吸い込むと、一気にアンディ様を真っすぐ見たまま言った。


「自由に勝る責任無し、愛に勝る不条理は無し、夢に勝る孤独も無し、それでも我が歩みを止める事は無い」


私がそう言ってアンディ様を見ると、アンディ様ははっと顔を上げ驚いた顔をして、不意にまん丸の目から涙がポロリと落ちた。


そして、自分が泣いているのを分かっていないかの様に、固まったまま私を見続けた。


『お嬢さん、この言葉はアンディが学園の寮に入る時に儂が送った言葉だ。アンディが辛い時にはいかなることを差し置いても何処にいても儂が駆け付ける。しかし、儂が困った時にはアンディが力になって欲しい、と頼んだのだ。次にこの言葉をアンディに使う時はきっとアンディが立派に侯爵家を支える人間になっているだろうな、とな。儂はアンディを信じているし、アンディも儂を信じて欲しいと言い、学園に送り出した。あの時はまだ頬がふっくらしていたな。目に涙を溜めて頷いてくれた。アンディが覚えているのならば、儂の願いを叶えてくれるはずだ』


私は侯爵の言葉に願いを駆けた。頼みますよ、アンディ様の記憶力。


アンディ様が忘れっぽくて、「あれ?それ?なんだっけ?」とか、なりませんように。


『この合言葉の意味は、自由には重い責任が生じる事を知らなければならない。そして愛する者が出来た時、そこには時に不条理な辛さが生じる。また、夢を叶える時には一人、孤独と戦わなければならない』


「辛いですね」


思わずポツリと呟いた言葉にアンディ様が小さく頷いた。


『筆頭侯爵家を背負うと言うのはそういう物だ。筆頭侯爵家と言うのは王家とも時に対立をする覚悟がいる。王を正しく導く者、そして、何よりもこの国に忠誠を誓う家で無いとはいけないのだ。全てを王家にこの国に、そして貴族の筆頭として己の全てを捧げる覚悟がいる。それは時に非道にもなり、冷血にならなければならい。しかし、私もアンディも「どんなに辛い苦しい道であっても、それでも歩みを止める事はない」そういう言葉だ、お嬢さん』


「とても良い、言葉です」


私がまた小さく言うと、アンディ様の丸い目からポロリとまた涙がこぼれた。


『アンディには今迄辛い事が多かっただったろう。筆頭侯爵家に産まれながらも、不憫な幼少期をすごさせた。安全やこれからの将来を考え、早々に学園へと入学もさせ、家族の愛を知らずに過ごさせたのかもしれない。そして今、若き侯爵家当主として、一人大変な道を歩む事を背負わせてしまった。アンディ、今迄泣く事も出来なかったのだな。無理をさせすぎた』


「私に侯爵様との約束を叶えさせて下さい」


私がそう言うと、アンディ様は頷いた。


『アンディ。これからも、妬みや羨望、若き侯爵を貶めてやろうと嫌がらせを受ける事もあるだろう。辛い裏切りを受ける事も信じていた人間に絶望する未来もあるやもしれぬ。しかし、ダガンもスミスも見守ってくれ、ジェローム家との繋がりも太くなった。そして、スペンサー令嬢、スペンサー伯爵家としても君個人としてもアンディを見守ってくれないだろうか』


「我が家は地方貧乏伯爵家ですよ?それに私は貴族ではなくなるかもしれないのですよ?」


『ああ、それでも。一人でも。アンディの力になってほしい。筆頭侯爵家は時に孤独。王家が間違いを犯した時、筆頭貴族として陛下に進言もしなければならない。それゆえ、アンディは常に孤独と戦う事になるだろう。今後、アンディが苦しい時、今の儂には何も出来ぬ。私は君という人間にアンディを守って貰いたい。君はただ美しい令嬢ではない。強さもあり、棘もある。しかしその棘は人を傷つける刃ではない。君は人を守る術を知っている。アンディの盾に、アンディの剣に、時にアンディを叱る棘になって欲しい』


侯爵はそう言って私の前で頭を下げた。


「私で出来る事ならば」


『ありがとう。本当に君とはもっと早く出会いたかった。しかし、死して、君と出会えた奇跡に女神様へ感謝を捧げなければ』


私が侯爵様と話していいると、アンディ様が執事を呼んだ。


暫く部屋が静かになり、執事が両手に抱えられるほどの金庫を持ってくると、アンディ様の前に置いた。


アンディ様は黙って金庫の鍵を開け、中のお金を取り出し、私の前に差し出してくれた。


ドン、っと置かれた金貨の袋。


「丁度三百万入っていた。お爺様は何もかもご存じだったようだ。スペンサー伯爵令嬢、持って行ってくれ。お爺様の言葉を届けてくれて有難う。間違いなく、私は君に助けられた。そして君の言葉は真実であると思う。これはお爺様からだ。私はお爺様から沢山守られ、沢山の物を与えて貰った。忘れていたお爺様との約束を私も叶える事が出来た。今後何かあれば、私は君に力を貸そう」


そして、さらさらと紙に何か書き、シグネットリングで印を押すと、ジェローム様に向けて、サインをお願いした。


「見届け人のサインが欲しい」


ジェローム様は表情を変えずに文面を読むと、眉毛をピクリと一度動かした後にアンディ様を見つめ、アンディ様が頷くと、黙ってサインをした。


「これを、君に」


受け取った紙には


『アンディ・ドゥ・リンドールは、フレイヤ・スペンサーの頼みを如何なる理由があろうとも叶える事を約束する』


と書いてあった。


「君には大変世話になった。私は君が困った時、そしてそれがどんな事でもあろうと、リンドール侯爵としても、一人のアンディとしても、君が助けを必要とした時に駆け付けよう」


そして隣に置かれた金貨を数えて欲しいと頼まれ、数えると大金貨三百枚。つまり三百万ルーンだった。


「有難うございます。しかし、私もこの紙を使わないように頑張ろうと思います」


「そうか。しかし、持っていて欲しい。君には感謝をいくらしても足りない様だ。お爺様が君を選んだ理由が分かったよ。私はこれからもお爺様のように生きよう。歩みを止める事はないよう、努力していこうと思う」


私の言葉に優しく微笑んだアンディ様は初めて年相応に見えた。


そうだ、領地でマシューも頑張っている。侯爵家を継いで苦しいアンディ様を頼る事はしないようにしなければ。


ちょっとカッコ良い所も、成年貴族として見せておきたいし。


『お嬢さん、有難う。光が見えてきた。ようやく女神様の所へいけるようだ。どうも私の憂いは侯爵家の事だけではなかったらしい。アンディに私の想いを伝えたかったようだ』


リンドール前侯爵がそう言った時、ふわっと光に包まれたかと思うと、『有難う。アンディ、強くあれ。お前は私の誇りだ』と言って笑いかけ、アンディ様を優しく抱きしめると消えた。


その瞬間窓を開けてない部屋に優しい風が吹き、アンディ様は一瞬驚いた顔をしたけれど、何も言わなかった。






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