ドレスアップは突然に
金庫の中身は私達に見せて貰えなかった。ダガン様が銀行の地位ある人と共に確認をして、金庫の中に遺言に関する事があれば、王宮に報告するらしい。所長が確認でき次第連絡が欲しい、とお願いをして店に戻り、私は部屋でゆっくりとリンドール侯爵と話をするとあっという間に一日が終わった。
次の日。朝から仕事もなく、私はゆっくりと領地に手紙を書いていた。
コンコン。
手紙を書き終わり掃除をしていると、所長が部屋にやって来て開けているドアをノックした。
「おい。フレイヤ、ちょっといいか?急ぎだ」
「なんですか?」
「すぐに下に来てくれ」
私は洗濯ばさみで止めていた袖を外し、急いで所長について下に降りて行った。
「あーあ。世も末だね。ダリア、貴族令嬢が袖をまくって床磨きをしていたぞ」
「お掃除は大切ですからねー。フレイヤさーん、騎士様がこられましてですねー。フレイヤさんの変わりが無いか教えて欲しいと聞かれたので、私が異常なしって返事してまーす」
「有難うございます、ダリアさん」
「いいえー。こちら、フレイヤさん宛のお菓子ですよー。こちら、有名店の新作ですねー」
「有名新作お菓子は嬉しいですけど…、ジェローム様、暇ですね。ダリアさんもどうぞ」
「えっとー、この間の方ではなくて、眼鏡の方でしたよ?班長様でしたよね?その方のお菓子を持って眼鏡の方が来られて。夕方また誰か来るようでーす。こちらはフレイヤさんに伝言ですね。隊長様からとー、班長と書かれてます。探偵事務所宛にもお菓子をいただきましたですよー。なのでフレイヤさんは全部食べてよいですよー」
「黒パンツのジョルジョさんだ」
「んー黒パンツ??あと、あと、夕方には魔導棟からも誰か来るみたいな事いわれてましたねー」
「ジャラジャラ殿下だ、逃亡の口実だ。間違いない」
ジェローム様がなんだか色々動いてそうだ。もう、面倒くさいことしてないといいけど。
「フレイヤは王都に知り会いが多いんだな。貴族は繋がりがあるんだな」
「いませんよ。学園も通っていませんから。ジョルジョさんもジェローム様も、魔導棟の主も王都に出てきて知り会いました」
「主?ま、まさかな。はあ、貴族ってすげえな。貴族以外の知り合いも出来たのか?」
「そうですね…歓楽街で『新月』って宿のオゥルソさんとロズさんにはお世話になりました」
「なに?夜の蝶のロズとあの鉄壁のオゥルソと?フレイヤ、お前、何もんだ?」
「私は貧乏底辺貴族で変態蛙の嫁候補です」
私が答えると、所長は首をひねって、ダリアさんに「貴族はカエルとも結婚するのか?ダリア、準備できたか?」と聞いた。
「はーい、所長。パーティーでは無いのですからー、派手さよりも上品さを出しましたー」
ダリアさんが所長に渡して見せたのはシックなドレスだった。
「うん、いいだろ」
「あとは靴さえ綺麗にしておけば、マナーは大丈夫なはずでーす」
華やかな、少しヒールのある靴が並んで行く。
「いいんじゃないのか。サイズはどうだ。履いて見ろ」
「え?私がですか?」
「お前以外誰がいるんだよ!急げ、時間が無いんだ」
「え?今からですか?ウェスト入るかなあ」
「フレイヤさーん、ウェストの心配はご無用!このダリアがどんなドレスにもぎゅぎゅっと、フレイヤさんを詰め込んであげますよー」
ダリアさんはギューッと紐を引っ張ると私に向かってニコニコしながら近づいてきた。
「ほら、いいから脱げ!!履け!!合わせろ!ドレスは一人で着れないんだろ?」
所長が私を見下しながら、靴とドレスを指さす。
「では奥で…」
「ダリア!!掛かれ!!」
「はーい。フレイヤさーん、失礼しますねー。あ、それ、ぽいぽいぽーい」
所長の掛け声と、ダリアさんの返事で私は小さなダリアさんに押さえつけられると、信じられない力でて、ワンピースをスポン!と脱がされ、次々と手際よく脱がされていった。
「ひいいいいいい!!!!きゃあああああ!!!!!!変態いいいいいいい!!!!」
私が騒いでいると、リンドール侯爵が現れた。
『なんと!おじょうさん!大丈夫か!これはどういうことだ!ああ、私はここにいていいのだろうか!困った、どうしたらよいのだ!助ける事ができないとは!!!』
所長は目を瞑り耳を押さえて、「うるせえ!!!!!!」と私より、大きな声を出した!!
「破廉恥です!!丸見え!丸見えですよ!」
「安心しろ!俺はお前に興味は無い!俺の好みは年齢不詳の魅惑的なエルフの巨乳のお姉さんだ!ちんちくりんは守備範囲外だ!ダリア!」
「はーい、了解致しましたー。ウエストぎゅぎゅーっとふん!」
「ぐえ!!ひぎゃああ!!」
「そしてこっちはこうして、ふん!!」
「はが!!!」
ダリアさんにぐいぐいと身体を絞られ、私は潰れた蛙の声を出しながら、もう、なされるがまま、コロコロと転がされた。
侯爵は後ろを向き、私を見ないようにしているが心配してアワアワして浮かんでいる。
『お嬢さん、丸見えなのか!レディーになんという事を!』
「胸、ちょっと余りますね。もう少し詰めますか。ウェストはコレで大丈夫そうですね。ぎゅーっとぎゅーっと!ふん!」
『ドレスを合わせているのか?しかし、男性の所長がこの場にいる必要はないのでは?』
「これならまあ、貴族って感じだな」
わあわあと皆が騒ぎ、侯爵も少し落ち着いたが、私の自尊心は下がりっぱなしだ。
「くう!!!見られた上にこの仕打ち!!失礼すぎるのでは!!!私は貴族なんですよ!地位的には所長よりも上のハズ!!不敬です!」
「あ?この場では俺は上司だ。それならば俺の方が上だ。俺の言う事聞かないと領地が困るんじゃないのか?借金はいいのか?相続問題があるんだろ?いいのか?」
「く!借金の事を持ちだすなんて!」
「はい、もう少しだけ締めますよー。それ!!!はい、いきますよ!ふぬうううう!!!」
「はあがああああ。ぐえええええ」
口から何か出そう。もう、吐くとかではなく、大切な身体の中の臓器が思い切り上がってきた気がする。
「ふう、まあ、こんな感じですかねー」
「あー。まあまあか」
「失礼…、凄く失礼だ、この所長。ゲロームに言いつけてやろうか」
私は二人の前でスポンと脱がされ、その後も私の意見は無い物とされ、ダリアさんから綺麗に化粧をされて、鏡の前にポイっと立たされた。
「まあ、悪くはねえな。磨けば光るってこういう事か」
「フレイヤさーん綺麗ですよ。にじみ出る気品がありますねー。特にこの髪は美しいですねー。目も珍しい色ですし、とても美しい色です。ドワーフでも、この色はモテますよー。私、ムキムキもじゃもじゃドワーフの男性なら紹介できますがー」
「え?私、ドワーフにモテモテですか?お金持ちでしょうか?」
「お金持ちではないですねー。ドワーフの男性は毛深い女性が好きなので、髪の毛が多く長い女性は美しいとされますね。腕や足の筋肉があるとより良いですが。それに濃い髪の色や、珍しい目の色もとても美しいとされますよー」
「俺は淡いクリーム色の髪に、緑の目とかの胸の大きな儚げなエルフがいいけどな」
「所長の好みはどうでも宜しいのですー」
所長は私を眺めると、頷いた。
「腐っても貴族だな」
「腐ってないし…まだ、生きてるし…。なんならピチピチで、生きがいいし…。というか…見られた…」
「お前のなんて見たうちに入んねえよ。お前ももう、うちの社員だからな。取り繕う必要もないだろ?」
私がぽそっと言い返しに、ニヤッと口元をあげて言い返された。
「もう、犬に咬まれたと思うか。そうだ。所長に見られたくらい、どうってことないのか。そうだそうだ。こんなおじさんに足を突っ込んだ人に見られた所でどうってことないや。ダリアさんは可愛い女の子だし、見られても仲間だし。まあ、良しとしよう」
私も、気持ちを切り替えようとしていると、「お前も大概失礼な奴だな」と言われた。
「フレイヤ、ダンスは?」
「踊れます。空中で横にも縦にもジャンプも出来ますよ」
「……茶会の作法は?」
「下位貴族の集まりであれば問題なく。王族、他国のしきたり等はちんぷんかんぷんです」
「…ま、おかしくなければ、いいか。相手は高位貴族だ。不敬な事はすんなよ」
『お嬢さん、儂が分かる事は教える』
所長はうんうん、と頷いて、自分もいつの間にかフォーマルなスーツに着替えており、ジャケットを羽織った。
「ダガン取締役から連絡が入ってな。これから貴族街の端にある小さな屋敷で会う事になった。さあ、侯爵家の毒虫どもを食ってやるか」
ニタアと笑う所長は黒いフォーマルスーツが良く似合った。
「魔王降臨」
「うん?なんだ?」
「いいえ」
「さ、じゃあ、行くか。どうぞお嬢様」
そういうと、所長は私の方へ腕を差し出し、私は父以外の初めてのエスコートを受けて、路地裏に停めてあった馬車へと乗り込むと、貴族街の小さな屋敷の前に降り立った。




