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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
三章

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トイレの話合いから

私は大きく頷きトイレから立ち上がると手を差し出した。


「やりましょう!!!そしてお金を頂きます!!!」


侯爵は私の手を優しく握るように手をかざすと、『頼もしいお嬢さんだ。はっきりしている分、気持ちが良い』と笑った。


『では、まず忘れないうちに金庫の暗証番号と孫との秘密を教えておこう……』


「それは大事ですね」


私はそれから侯爵様の話を詳しく聞き、トイレの中でうんうん唸りながらメモを取っていると、心配したダリアさんが一度声を掛けてきて、


「長いですが大丈夫ですか?あら、苦しそうですね。ゆっくりされて下さいね」と、変な誤解を与えてしまった。


「大丈夫です。もう、出ます!」


メモをしっかりしまうと、トイレを出て、所長室へと戻った。


「もう大丈夫なのか?」


「あ、はい。失礼しました。実は、先程、思い出したのですけど、侯爵様の話を二人で話している時に、侯爵様から『もし、何か自分に会ったら、銀行のダガンに会って欲しい』と言われていて、メモを取っているのを思い出したのです。メモは家に置いてあるかと思ったのですが、ポシェットに入れっぱなしでした。よかったよかった」


「なに?おいおい、待て?そんなことが?そんなに都合よい事があるのか?」


「あるんですね。よかったよかった」


私がメモを所長に渡すと、「これは……」と言って所長はガタンと音を立てて慌てて立ち上がった。



「貸金庫の番号はメモにはしていません。ダガン様に直接伝えようと思います」


「これは本当なのか?スペンサー令嬢、リンドール侯爵家の事についてまだ聞きたい。何か知っている事があれば教えて欲しい。しかし、こんなに都合よく話が進むとは……」


「私の相続の件、しっかり頼みました」


「ああ。とにかくそれはどうにかしよう。手続きを進める手続きの合間に、この仕事を終わらせよう。よし、もう少しリンドール侯爵家の詳しい話をして貰っていいか?」


私の腕を取り「頼む」と言った。その時、時計の音がボーンボーンと鳴った。


私が時計を見ると、もう時刻は夕方。


「力にはなりたいのですけど、私、今日の宿を取りにいかないと。また戻ってきますので、明日でも?」


「分かった。宿は事務所の上で寝ればいい。先程、仕事を手伝って欲しいと言っただろう?宿がないなら上を使えばタダだ。ダリアが前使ってた部屋がある。とにかく時間がないんだ。遺言書が偽物だとしたら、侯爵家の血筋に係わる事になる。確か、遺言書の偽装の罪はとてつもなく重いはずだ。俺がそれにかかわったとしたら、こんな探偵事務所、あっという間に潰れて、俺は鉱山送りにされるかもしれない」


「ん?は?鉱山?え?私も巻き込まれますか?」


「違う。もう巻き込んでいる。しかもスペンサー家ごと。すまん」


「ひええ!!既に巻き込まれていた!」


「まあまあ、スペンサー令嬢さまー。そんなに難しく考えなくても。とにかく、宿は決まりー。所長と私で、スペンサー令嬢のお困りごともお手伝いしますからー。上手くいけば、皆ハッピーですよ?」


「ま、そう言う事だ。頼む」


「ええ……」


「部屋は狭いが、自由に使っていい。夜はここはスペンサー令嬢だけだ。ゆっくり過ごす事は出来る。不安な事があれば、隣の家に俺がいるし、さらに一つ先の花屋の二階にダリアもいる」


考えている私は放っておかれ、所長はダリアさんに話し掛けた。


「ダリア。上は最近、掃除はしたのか?」


「んー。ちょっと見てみますけど、多分住めますよ。偶に空気の入れ替えもしていますし。シーツの替えもありますから。あーでも、お貴族様にはどうですかね?一人で着替えは出来ますか?」


「まあ、一人で王都に出てきているんだ。大丈夫だろ。よし。じゃあ、準備を頼む。シャワーやトイレも一人で大丈夫だよな?」


「水は出ますけど、お湯はどうかなー」


「まあ…そこもいいだろ。キッチンは問題ないよな」


私が返事をする前に所長はそこまでダリアさんと話してから、黙っている私の方を向いた。


「この仕事の間だけでも、そうだな、俺の秘書という肩書きで頼む」


「秘書?私に秘書なんて務まりませんよ。勉強はその、不得意でして。身体を動かす方が、私には向いていますので。家庭教師とかもどうも、無理のようでして、あはは」


「大丈夫ですよー。スペンサー令嬢様は伯爵令嬢ですよね?」


「そうだ、スペンサー伯爵家の御令嬢様だ、読み書き計算位は簡単にできるだろう?」


「読み書きは、まあ。その、計算は簡単であれば、ですね。なんとか、出来る、といいますか。しかしながら、ですね。私は刺繍よりもナイフ投げが得意ですし、ダンスよりも飛び蹴りが得意でして」


「……ナイフ投げ?に飛び蹴り?貴族では流行なのか?法律はどうだ?」


「法ですか?まあ、すこーし、勉強しましたが……」


「そうだろう?大丈夫だ。護身術が出来る秘書なんて最高だしな。じゃあ、頼むな」


悩んでいると所長の後ろからダリアさんがひょこっと顔を出した。


「今までは、前所長の秘書のバロック男爵家の方がいてくれたんですよ。でも、御年七十歳で、勇退致しましてー。今は、のーんびりと過ごされているようすその後、何人か後釜は紹介されたのですけど、働きたい貴族の方って難しいんですよねー。ご結婚前に花嫁修業として働きたい方かー、結婚相手を探した方かのどちらかが多くてですねえ、うちみたいなボロ探偵事務所、しかもこーんな所長に、ドワーフの女がいる所なんて、普通の貴族の方はいやがるんですよねえ」


「おい、ボロというな。歴史ある、と言え。しかもこーんなとはなんだ、ダリアのドワーフだって何が悪い。小さくて力持ちで器用なんて便利じゃないか」


「まあ、悪い人ではないんですけどー。所長も、取り繕ってはいるんですけどー、こんな感じで口も悪いですし、そんな感じでしてー」


『お嬢さん、その所長が言うようにこの仕事を手伝ってくれ。お嬢さんがいないと貸金庫を開けれず、下手をすればあの二人のどちらかが金庫を開ける事になるかもしれぬ。そうなってしまえばリンドール侯爵家は終わりだ』


「衣食住は保証する。ここの上に住み、昼は裏の店から食事を取っていい。朝と、夜は適当に食べて貰うが。服も制服がある。使ってない変装用の服は好きに来て貰っていい」


「所長ー、都合のいい事しか言わないのはダメですよー。部屋が狭いし掃除が必要なのは言っておかないと。それに昼ごはんは裏の食堂の日替わり定食って言うのも言っておいた方がいいですよ?貴族の方はコース料理でなかったらびっくりしますから。あ、でも、メイド服とか、治療師見習いの服とか、平民の流行の服とか、色々ありますよ?好きに来て貰っていいですよー」


「昼飯はダリアの言った通りだ。よし、朝飯は同じ食堂でパンを売っているからツケで買っていい。どうだ?少し使っていない部屋ならば掃除すれば、どうにか住めるだろう。掃除道具は備品として購入していい」


「おー。所長、太っ腹ですね。まあ、今回の仕事、本当に困りましたもんねえ。でも、大きな仕事ですしね!」


「ダリア、お前も引っ越したばかりで金欠といっていたろ?この契約がまとまったら大きな金になるんだぞ?ボーナスが出るぞ」


「スペンサー様、どうか、働いてくださいませー。今月、本や絵を買いすぎた上に引っ越しをして、最近、夜ごはんは人参齧ってばかりなのですー」


ダリアさんがぴょこんぴょこんと跳ねながらお願いをしてくる。人参をかじる日々なんて、シンシアやマシューだったら私は泣いてしまう。


「まったく、新刊の発売が被るのは困ってしまうのですー。お嬢様シリーズとイケオジシリーズはマストなのですよ。むふふ」


『お嬢さん、頼む』



私がチラリとリンドール様を見ると頷かれたので、私も頷いた。



そして、その日から私はゴールド探偵事務所の二階に住む事になった。

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