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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
三章

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新たな金策の為に

所長の話を聞いてリンドール侯爵は顎に手をやった。


「そうだな。一年程前にスペンサー領の近くのドードンへと視察へ行った。そこで立ち寄ったカフェでお嬢さんと会った事にしてくれ。行きつけのカフェ、フローリーだ。花屋が横にある店だ。上手く会話が出来たのはお嬢さんの加護のおかげと言ったらいい。娘、息子の事は、その時聞いて、息子たちの話から推測したとか言ってはどうか?』


「お会いしたのは一年くらい前に、スペンサー領の近く、ドードン領のフローリーってカフェです。花屋さんが横にあって。侯爵と私は偶然お会いして、話をして。あの、私の加護のおかげか、お話が弾みました」


『そこで、家族の愚痴を君に漏らしたと、悩みの相談を受けたと言ったらいい。ここに入ってくる時に偶然、儂の名前も聞いたとか言って思い出したと言ったらどうだろうか』


「そ、そこで、侯爵が家族の愚痴を私に話されて、相談を受けまして。その話の中で、そう、言ってたのを家族の絵を見ていて先程の二人に似ていて、ふっと、思い出しまして…」


私がチラリチラリとリンドール侯爵を見ると、侯爵は『いいぞ、うん。完璧だ』と頷いていた。


「成程、そうか。侯爵の特徴を言えるか?」



私の話を聞いて、所長は少し考えた後、聞いてきた。


『まだ信じてはいないようだな』


「眼鏡をかけられていて、クリーム色をした髪の毛を後ろに流している優しそうですがキリっとした素敵な老紳士です」


『お嬢さん、照れるな。有難う』


「他には?」


「お洒落な方で上質なシンプルな物を好まれ、首元にお洒落な飾りが。紫の石に模様があるものです。多分家紋が彫ってあるのかな」と、私が言うと、所長は部屋の隅にいたダリアさんに声を掛けた。


『お嬢さんはなかなか見る目があるようだ』


「おい、ダリア、書類を持ってこい」


「はい、所長」



パタパタと部屋を出て行き、ダリアさんは書類を持ってきて所長に渡した。所長は私に三枚の紳士の絵を見せてきた「どの方がリンドール侯爵だ?」渡された書類をペラリとめくっていったが、どの絵も侯爵ではなかった。


「この中から?リンドール侯爵はこの三枚の中にはいませんね」


『用心深い男だ。お嬢さんを試している』


私が三枚の絵を返すと所長は頷いてもう二枚の絵を見せた。そしてそのうちの一枚がリンドール侯爵だった。


「この方ですね」


そこには先程の老紳士の絵と家紋のモチーフの紫の石も描いてあった。



「服装は違います」



私がうんうん、と頷くと、所長とダリアさんは顔を見合わせた。


「分かった。スペンサー令嬢が会ったのはリンドール侯爵で間違いないようだ」


侯爵は所長の言葉に『ようやく納得したか』と言って頷くと、『よし、次はそこの所長にこう言ってくれ』と続けた。


『王立銀行のダガン取締役に会いに行って欲しい。息子や娘がそこの所長に持って来た遺言書は偽物だと言っただろう?』


私は伝える事が次から次へと増えて行くようだ。


『遺言書よりも確かな物、それは王立銀行の金庫の中にある我が侯爵家に伝わる宝石だ』


「?」


私が黙って首を傾げると侯爵は話を続けた。


『ああ、半年ほど前に陛下と私的に酒を酌み交わしてな。跡継ぎの事で悩んでいるのを陛下も気にして下さっていて、その話になった。その時に陛下から、「宝石の受取人は孫のアンディと認める」と、その場でナプキンに一筆書いて下さったのだ。酒の席の事だったが、儂の気持ちは軽くなった。この宝石は数代前の陛下からリンドール家当主に恩賜された宝石。その時にこの先当主が代々受け継ぎ、陛下への当主挨拶の時に着けて行くのが礼儀になっておる。よって、儂がこの宝石の持ち主をアンディを指名したという事は跡継ぎはアンディと言う事であり、公的な証書ではないが陛下も認めているという事だ』


一気に話し終わるとリンドール侯爵は空いているソファーに座ったが、今の話はちょっと長い。私が所長を見るとまだ、何か書類を探していた。


この人記憶の加護、大丈夫かな。


『王宮事務官長のスミス宛に陛下から恩寵された宝石と共に、陛下のサイン入りのナプキンと共に王立銀行の貸金庫に預けてある。金庫の番号は356だ。儂が死に、跡継ぎが決まっていない今、貸金庫はダガンが開けてくれるはずだ。お嬢さん、アンディがもし、侯爵家を継げない時、侯爵家は終わる。陛下は娘も息子も認めないだろうからな』


ちょっとそんな長い言葉、一気に覚えるのは無理だ。


どうしよう。


……。


そうだ!



「あの、化粧室は何処でしょうか?少し髪を直すのにちょっとお借りしても?」


「ああ?ダリア、案内してやってくれ」


「はーい。こちらですよ」


席を立つと私は侯爵の方を見て、ちょいちょいと、手で合図をすると、侯爵様はふわふわと着いてきた。


「ここです。ごゆっくりどうぞ。どうせ所長はまだ書類を探してますしー」


「有難うございます」


トイレの中まで侯爵様は流石に現れなかったので、小声でつぶやいてみた。


「侯爵様、出てきて下さい」


『急に花摘みに行きたいとは具合が悪いのでは?レディの化粧室に入る等、そんな事をしてもいいのだろうか?儂の事は気にせず、すませるといい』


「とにかく、侯爵様、こちらへ出て来て下さい」


『そこまで言われるのなら。おお、ここが婦人の化粧室か。産まれて初めて入ったな。お嬢さんは髪を直したり、手洗いをするのでは?まさか、他人に見せるのが好きなのだろうか?私は生憎そのような趣向は持ち合わせていないのだが』


侯爵様の声だけがドアの向こうから困った様子で聞こえてきた。辺りを見回している様だけれど、紳士的な態度で私と距離を置いてくれているはずなのに、人を変態扱いするのは止めて欲しい。


「ご心配は無用です。私もそのような趣味はありません。ちゃんと穿いてますからこちらへ来て話しましょう」


『ふむ、それは良かった。ほう。女性の手洗い場はこのような感じなのか。なんだか不思議な感じだな。死してなお、学ぶことがあるとは』


「初めてで良かったです。侯爵様とゆっくり話をしたくてここにきたのです。侯爵様、メモを取るのでもう一度先程の話をお願いします」


『お嬢さんの加護は「会話の加護」と言われたのだろう?会話の加護持ちであれば、ある程度会話の記憶も出来るのでは?』


「ええ。司祭に()()()()()()()()


『ああ、成程。()()()()という事か。分かった。メモを取って貰おう』


『その前に、お嬢さんへの報酬の話をしておこう』


「お金ですか?」


『もしうまくいった暁には三百万ルーンでどうだろうか?』


「さ!!!」


三百万!!


『少ないだろうか?確か、儂の部屋の金庫に入れていた額がその位だったと思ってな。その金であれば儂が好きに使っても孫にも何も影響せん』


流石侯爵家。ポンっと出せる、迷惑を掛けないお金が三百万。


やはり、お金はある所にはあるのだな。……。うん、深く考えるのはよそう。悲しくなってしまう。


『部屋の金庫にもう少しはあるかもしれぬが。それ以上の金であれば、勝手に動かすのは若干面倒な事になるのでな。……どうだろうか。孫への伝言も頼む、そうすればアンディがお嬢さんへ儂の金を渡してくれるはずだ』


お母様の遺産が現金ではない可能性が出て来た今、現金を貰えるのは魅力的だ!!!


はっはっは!カエル夫人にならずにすむ!


はっはっは、カエルがゲコゲコ言って悔しがる姿が目に浮かぶわ!!!


バーンとルーンを用意してやろうじゃないの。


思い出せ、確かカエルへの返済額は残り三百八十万ルーンだったはず。お母様の遺産が当てにできなくなった今、ここにいる幽霊侯爵のポケットマネーを頂かなくては!!!


私は手を上に突き出し、便座から勢いよく立ち上がると侯爵に力強く頷いた。

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