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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
三章

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最悪の可能性

私は自分の頭をポコポコと叩きたくなった。


「さて、手紙と?」

『ふむ、手紙とな?』


私は手紙の包みをテーブルの上に出した。


「日付は…ないか」


「亡くなった母宛の手紙です。封は切られていませんでした」


所長は手紙を持って、私に一度、手紙を向け、私が頷くと手紙を声に出して読んだ。


「『スカーレット様、ヴィオレッタ・アントン様からの相続が完了致しました事をここに報告させて頂きます。何かありましたらご連絡を下さい』……か。スカーレットというのが御令嬢の母上のことか。この、ヴィオレッタ・アントンとは?他には?」


「これだけです。母の伯母に当たる人のようですが、私も父も会った事はありません。亡くなったのも知りませんでしたし、母が何か遺産を相続していると言うのも知りませんでした。この方は母の母、私の祖母の血筋の方の様ですが、その家系は皆亡くなっています。遠い血筋の方が爵位を継いだようでしたが詳しい事は何も。貴族名鑑にもヴィオレッタ・アントンという貴族はいませんでした。おそらく、祖母の方の家名でもありません。きっと何年も前に除籍された後に名乗ったか、結婚したか。ここから調べようがなく、困っています」


「御令嬢の母上が亡くなり、内情を知る者は誰もいないと。貴族名鑑にも載っておらず、調べる手立てはない。で、どのような遺産を相続したのかが分からないって事か。成程。王宮の方に手続きをしておらず、名義だけ変更している状態…既に亡くなられたお母様の口座等は?」


「口座に何も変わりはなかったかと」


「ふむ。という事は、相続手続きは済んだが、その相続したものは口座に動く物ではないということだな、もしくは別の口座があるのか……」


「面倒だな」と、所長は言いながらも顎をポリポリと掻いて、ぶつぶつと考えこんでいた。


「ギルドや銀行からの手紙は?」


「ありません」


「では、おそらく相続されたのは現金ではないだろうな」


「えええ!そんな!」


せっかくここまできたのに!!!



お母様が譲り受けた遺産は現金ではないのか。


ああ、カエルがゲコゲコと近づいてくる。ペタン、ペタンと足音が迫ってくるではないか。


『ぐふふ。赤いーパンティー。ゲコゲコ。穿いてー。バージンロードをー。歩くのだー。ゲコゲコ、ぐふふ』


ああ。どうしよう。ぐふふパンティーが近づいて来る。いや、違った、カエル伯爵だった。いや、バンシー伯爵だ。


話しを聞いてがっくりと肩を落とした私に、所長は手紙を見ながら教えてくれた。


「…現金の移動があった時は銀行がすぐに手紙を出す。少なくとも一ヵ月後には連絡が来る。そうだな、可能性が無くなったのは毎月収入がありそうな店舗などの相続でもないと言う事か。入出金の知らせも貴族の家には銀行が一ヵ月に一度は知らせるのが一般的だ」


「ぐぬぬ」


会った事も見た事もない金持ちのおば様が、亡くなる際に可愛い姪のお母様を思い出し、『このお金をあの子に残しましょう……』とかだと思ったのに……。世の中上手い具合に行かないのか。


現金でも収入元でもないとは。肩を落としそうになった。


『ぐふふ、フレイヤ、こっちだ、こっちだ』と、カエル親父が私に向かって手を招いている姿が目に浮かんでしまった。


ひいいいい。


あ!閃いたぞ!


「あの、そもそもこの手紙はここから出したものですよね?という事は、所長様はお母様が相続した物を知っているのでは?」


こんな回りくどい説明をうけなくても、すぐに分かるじゃないか!


「あいにく私にスカーレット・スペンサー夫人との面識はない。私がここの所長になったのは七か月前からでね。この手紙は前所長の婆さんが出した物だと思う。婆さんは引退して半年前に亡くなった」


「え」


「そして、仕事の引継ぎにその手紙の事は無かった。おそらく、婆さんが個人的な知り合いから受けた事だと思う。だから俺には、詳しい事は分からないんだ。だから、ここから出した手紙であっても、婆さんが出した手紙に、こう、憶測を話すしかないってことだ」


そんな。



「スペンサー令嬢、落ち込んでいる所悪いが、最悪なのは、この、アントンさんの負の遺産の場合があると言う事だ」


「ふ?」


「負。マイナスと言う事だな。早い話が借金だ。遺産は現金や土地だけではない。借金も含まれる。アントンさんが借金があった場合、その借金をスカーレット・スペンサー様が相続した可能性がある」


「ひいい!!!!」



借金を減らす為にここまで来たのに増えるというのか!!!


「借金が……増える……そんな‥‥‥」


私は目の前が真っ暗になりそうになった。ソファーから立ち上がり、ふらふらと膝をついてしまった。


「お、おい。大丈夫か?」


「いえ、大丈夫では……。借金が増える……」


最悪ではないか!!


「カエル…ああ、そんな…」


そんな事があってたまるか。お母様が相続した謎のモノ。それを当てにしてわざわざ王都迄やって来たのだ。


私に似合いもしないセクシーパンティーを回避する為に。ゴトゴト馬車に揺られてはるばる領地から王都迄やって来たというのに!


盗賊に会い、殺人事件にも会いながらもどうにかここまでたどり着いたあげくに、借金が増えて領地に帰る羽目になるというのか。


知らなかった事にしようか。


……。


よし、今更だけど、知らないふりをして、遺産手続きをしないという選択をするのはどうだろうか。幸い、王都に出てきて少しずつだが借金は減っている、領地のお父様も奔走しているだろうし、このまま帰ってもどうにかなるかもしれない。


「所長。相続の件はなかった事に……」


「ま、出来ないだろう。アントン様からの相続はスカーレット・スペンサー様がもう既に完了しているとこの手紙も書いてある。そして、これ以外の領地のスカーレット様の相続は終わらせているという事は、この相続だけをしないということが、王宮にあとあとバレたらもっと厄介な事になる。追徴課税の率が増える」


「はう!!」


なんてことだ!!


やっとたどり着いたというのに、私は早々に頭を抱える事になってしまった。



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