せっかくここまできたのに
「チリン」
ゴールド探偵事務所のドアを開け、ベルの音が軽やかに室内に響くと、奥からガタっと音がした。
「はーい。いらっしゃいませー。しょーしょーお待ち下さーい」
トントンと弾むように走ってくる音と共に少し高い可愛い声が聞こえた。カウンターの奥にある扉が開き、ぴょんっと女の子が飛びこんできた。
「御機嫌ようでございまーす。レディー。ゴールド探偵事務所へようこそ。探し物から尋ね人。ありとあらゆる悩みを綺麗に解決!さあ御用件はなんでしょー?」
そう言って、ニコニコしながら手を広げて女の子は私に挨拶をした。
「あの、所長様にお会い出来ませんか?私、スカーレット・スペンサー前伯爵の娘でフレイヤ・スペンサーと申します。私の母がゴールド探偵事務所からの手紙を持っていまして、その事でお尋ねしたい事があります」
私はワンピースの裾を持って挨拶をした。
「ほほー。ご丁寧にどうもー。手紙ですかー?この事務所からスペンサー御令嬢様のお母様から?では、そちらの騎士様はー?」
「私は第二騎士団所属にて第二班の班長をしております。アンソニー・ジェロームと申します。スペンサー伯爵令嬢の共として第二騎士団より参りました。では、私はここで失礼致します。スペンサー令嬢、何かあればすぐに第二騎士団にご連絡を」
「わざわざ、ここまで付き合って貰って助かりました」
「いえ、私はまだ、貴女に御恩をお返ししたと思っていません。なんなりと申し付け下さい。すぐに連絡をお願い致します」
ふむ。では、今後も遠慮なく頼らせて貰おう。手足の様に使わせて頂こうではないか。ジェローム様のせいで騎士団に足止めもされた事だし。
ジェローム様は受付の女の子の前で深々と私に礼をすると、もう一度「困った時はすぐにお教え下さい」と言って、壺を静かに下ろし、ドワーフの女の子にも静かに目礼をすると事務所を出て行った。
「ほほー。スペンサー令嬢様の護衛は凄いですねー、しかも第二騎士団の班長様を護衛にとは。実は影の権力者とかですかー?恰好良いですねー」
そう言って、「ほほー」と、感心する受付の女の子はドワーフ族だった。
何か妄想しているのか「むふふ。騎士団の制服、素敵ですねー。襟とか、ボダンとかいいですなあ。むふふ。年上の騎士を跪かせてこき使う、年下の女の子。むふふ、いいですねー」と言って、喜んでいる。
可愛い子がむふふと言うの。私の周りには変態が集まって来てしまうのだろうか?
ここは妄想を止めておかなければ。
「確かにジェローム様は護衛ですが、でも、王都に出てきてから偶然知り会いになっただけですよ。それにここまでの護衛は第二騎士団隊長のからの命令ですから。私の専属護衛ではないですよ」
「ほほー。第二団の隊長様が。それはそれは。隊長様と班長の三角関係……。第二団の隊長は人気ですよねえ。人気者との禁断の恋……。むふふ。専属従者…。良い響きですなあ…むふふ」
なんだか凄く勘違いされている気がするけど、もう、いいや。私に変態を止める事は出来ない。カエル伯爵も止める事は出来なかった。可愛い女の子でもムキムキでも変態になるのは自由なのだから。
ああ、狭い領地の事だけしか知らなかったな、広い世界には色んな人がいるな。まあ、無害の変態ならば好きに変態を謳歌して頂いて構わない。
私の話を噛み締め、なお、「ふむふむ、ほー。第二の団長は綺麗系なイケメンでしたよねー。私の好みとしては第三の団長の方が男臭くてなかなかですが。むふふ」とか、言い、流石ドワーフ族の女の子、ジェローム様が置いていった壺をひょいっと持つと、「ここだと蹴とばしちゃうかもしれないのでー。ここに置いておきますねー」と軽々と部屋の隅にある棚の上に置いた。
ドワーフ族は小柄だけれど手先が器用で、そして力持ちが多い。小柄な体型な為、人族と比べると年齢も分かり辛く、目の前にいる彼女は私より幼く見えるが、働いているのだからきっと私よりも年上だと思う。
と言う事は、この受付の女の子は、ドワーフ族で、可愛くて、変態要素を持った方と言う事だ。
全く、王都には情報が多い人が多いな。
「あ、所長に会いたいんでしたね。ここの責任者はカーディガン所長でーす。スペンサー様、少々お待ち下さーい」
「はい」
そんなやりとりの後、ドワーフの女の子は奥の方へ消え、暫くすると、また、ひょこっとカウンターから顔が覗いた。
「どうぞー。所長室へ案内しますね」
戻って来た女の子は私の前を歩きながら、奥の部屋へと案内してくれた。事務所廊下には物が品よく飾ってあった。
古びた時計。不思議な置物。よく分からない絵。
細い廊下を歩き、奥の部屋に入るとソファーに座っていた男の人が立ち上がった。所長と聞いたので年配の方を想像していたので、思ったよりも若くて驚いてしまった。
ジェローム様より年上位だろう。
「ようこそ、ゴールド探偵事務所へ。所長のミカエル・カーディガンだ。で、御令嬢はスペンサー伯爵夫人の代理で来られたとか?」
「はい。スカーレット・スペンサーの娘、フレイヤ・スペンサーと申します」
「散らかっててすまん。どうぞ」
そう言って、目の前にあった書類をバサバサと後ろの棚に突っ込むと、私に自分の向かいのソファーに手を差し出した。
「じゃあ、お客様もいないんで、私は事務所にいますねー」と言ってドワーフの女の子は部屋を出て行こうとした。
「え?」
「え?誰か来てました?鐘なりましたかねー?」
「今日はもう、予約は無かったろ?」
「ええっと、えへんえへん。ちょっと咳が出ただけです」
声に出してしまってから、いけない、しまった、と気づいたが、二人は私の方を向いていた。
変な咳をすると、二人は首を傾げたが、「では、何かあったら、呼んでくださーい。所長、奥にいますねー」と言って、出て行った。
「ああ。分かった」と所長が言った時には、先程いた、老紳士がスーッと部屋の中に入って来て、私が座っている横に立つと礼をした。
やっぱり、そう言う事だったか。なんだかおかしいとは思っていた。
『お嬢さん。お嬢さんは私が視えているんだね?』
ああ、またやってしまった。
第四章、やっと始まりました。
ゴールド探偵事務所に到着。どうなるフレイヤ!!!




