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やっとやっとのゴールド探偵事務所

ジェローム様と銀行で送金を終えた後、無事に私はゴールド探偵事務所のある、ローズストリートに辿り着く事が出来た。


「この通りですか?」


「ええ。ここから少し歩いた所ですね」


馬車留めで降り、大通りから路地に入った先にあるローズストリートは、小さな馬車が通れるほどの通りだった。店の看板も大通りの物とは違って、ドアの横程の壁に小さくぶら下がっている。


「私から離れないようにしてください」


ジェローム様の言葉に私は素直に頷いた。


王都の小路と言うのは、華やかな大通りから一本入るだけで一気に雰囲気が変わる。高い建物が多いせいで、路地は昼間でも薄暗い。道が狭いのに、いくらも枝分かれしていって、明るい大通りから少し入っただけなのに、一気に暗くなってしまう。細く暗く見える通りの奥びその先はいくらも道が分かれていてアリの巣のようだ。


「スペンサー令嬢。ゴールド探偵事務所迄、お供しますのでご安心を」


私が不安に思っていると思ったのか、ジェローム様はそう言うと、私を守るように歩き出した。


歩き出した通りの先に人影はない。時折、建物の中からこちらを窺うような視線は感じるが、騎士服はなんと便利なことか。騎士の恰好をしたジェローム様が横にいるだけで、変な人は寄ってこないし、迷子になる心配も無いのだ。例え、空っぽの壺を持っていても。


うん、この騎士が不審者だな。


「ここは安全な所なんですか?」


「ここは貴族街の端に当たります。治安は割と良い方です。しかし、大通り以外は常に用心したほうが宜しいかと」


「これで、割と安全な道なんですか」


オゥルソさんの所よりも綺麗なのになんだか物騒な感じがする。王都は全体的に怖い所というのが凄く分かった。


そんな事を思いながらドアの中央や端に書かれている番号や、小さなストリート名が書かれた看板を目印に奥へ奥へと進んでいき、さらにその道を進んでいくと目の前にゴールド探偵事務所と書いた看板を見つける事が出来た。



「やっと、着いた……」



華やかな大通りから何本も小さな路地を入って行った先に会った、古い建物。そこにはちゃんと「ゴールド探偵事務所・180」と書いてあった。



「間違いない」



やった。領地をでて色々な事があったけれど、やっと着いた。


女神様の元にいるお母様。


フレイヤはやっとたどり着きました。すぐにお母様の遺産手続きをして貰い、カエルの花嫁から逃げる手続きをしますね。


バビュンと変態カエルから逃げきってやりますよ。


カエルカエルと考えていたせいで、『ぐふふ』と笑うカエル伯爵が頭に浮かんでしまった。


頭を振り、カエル伯爵を頭から捨て去りはやる気持ちを抑えてノッカーを叩こうと手を伸ばした所で、ガチャっとドアが内側から開かれ、私はドアにぶつかってしまった。


「ぎゃあ」


「スペンサー令嬢!大丈夫ですか?」


勢いよく開かれたドアに手がぶつかり、その勢いのままドンっとしりもちをついたが、大きな鞄のおかげでお尻の被害は最小限に止められた。


ジェローム様が慌てて手を貸してくれ、さらに、地面に手を突いた私にハンカチを差し出してくれた。


「いたた」


お尻をさすりながら立ち上がると、乱暴に開いたドアから二人の男女が大声で罵り合いながら出てきた。


転んだ私には見向きもせず、大声で二人で罵りあっている。


「くそ!すぐに手続き出来ないって何なんだ!何度足を運ばせれば気が済むんだ!評判と大違いじゃないか!こんな汚い店にわざわざ足を運んでやったのに!私を誰だと思ってるんだ!とんだ評判違いだな!!」


「なによ!それは私の台詞よ!あなたが余計な事をするから、時間が掛かるのよ!お父様の正統な後継者は私なのよ!余計な事をしないでさっさと出て行きなさいよ!!」


「なんだと!兄の俺が正当な後継者に決まっているだろう!お前なんかすぐに屋敷から追い出してやる!屋敷の物は全て俺の物だ!!今迄、俺をバカにしやがった奴もクビにしてやる!!」


「は!出来るものならやって見なさいよ!!無能が!なにが兄よ!偽物のくせに!!私があなたを追い出してやるわ!その時には1ルーンだって渡さないんだから!!」


「なんだと!!!女のくせに!」


「なによ偽物のくせに!!!」


「ぐぬぬぬ!」と睨み合っている男女は私を見向きもせずに、それぞれお付きの人を連れて歩いて行ってしまった。


二人引き止めようと声をあげようとしたジェローム様に「もう大丈夫ですから!」と、慌てて言うと、ジェローム様はしっかりと二人の後ろ姿を見てから頷かれた。


「はい、わざとではないようですので、私も口頭注意と言う事しか出来ませんが。しかし、知らないふりをして出て行こうとは。品が無いにも程があります」


「高位貴族の方でしょうか」


「ええ。おそらく。あのような態度を取るとは情けない事です」


平民はそもそも襟や袖に装飾をしない。低位貴族であれば刺繍などがある。高位貴族であれば、手間暇がかかるフリルに刺繍がされている。お付きの人達の恰好でもある程度貴族の身分は分かる。先程の二人のお付きの人は靴が綺麗だった。


身に着けているスカートやブラウスの襟、スーツやドレスの袖口を見ればある程度の貴族の地位が分かる。


カフスボタンや、宝石。それに飾り紐やレース。それらが多くあしらってあるのが襟、袖などだ。


自分よりも高位の貴族に注意するなんて、面倒事しか思い浮かばない。いくらジェローム様が横にいても、お父様に苦情が入りかもしれない。


「ケガもないので、もういいですよ。では、行きましょう」


騒がしい人達が通り過ぎると、私は服に着いた土ぼこりを叩き、先程のドアをゆっくりと開けた。


ビルの外見と同じくらい中も薄汚れているかと思いきや、中は天井窓から差し込む光で思ったよりも明るく綺麗だった。


「失礼致します」


怖々と顔をだして、中を覗き込みながら、呼びかけるが返事はなかった。


入ってすぐのソファーに老紳士が座っていて、私がペコリと挨拶をすると老紳士は何も言わずに静かに頷いた。お店の人ではなくお客さんのようだ。


老紳士がカウンターの方に目線を投げ、ベルを指さすので、ああ、これを鳴らすのか、と私も老紳士の方を振り向いて、黙って頷いた。


店内を進み、私はカウンターに置いてあるベルを鳴らした。




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