王都からの手紙
お金だ。とにかくお金を用意出来ればパンティーだろうが、ブラジャーだろうが回避出来るのだ。
バンシー伯爵だって、色々言っていたが、『借金返済出来ればな!ぐふふふふ!!』と言っていたとお父様が言っていた。
そう、借金返済出来れば何の問題もないとバンシー伯爵は言っているのだ。
「ということは」
金だ。
暴れるお父様の部屋を出ると私はお母様の部屋に入った。
「お母様、人は生きていく限りお金は必要なのですよ。領地経営に衣食住、マシューとシンシアの学費に王宮に収める税。何でもお金が掛かります。なので、パパっと金目の物を探させて売り払わせて頂きますね」
売れるものはお母様の物だろうと売らせて頂こう。お父様に任せていては、この部屋は絶対手を付ける事はない。だから、私が容赦なく売らせて頂く。
まずは、と、宝石箱を開けると結婚指輪が目に入った。
「うーん。流石に結婚指輪を売るのはお父様に恨まれる…。うん、シンシアに取っておくのがいいのかな。こっちのブローチは婚約記念だったかな。これはマシューに。うーん。そうなるとアクセサリーは売ってもお金になりそうな物はない」
パタンと宝石箱を閉じ、次はドレスか、とクローゼットを漁った。
一番豪華なドレスはウェディングドレス。これも売ってもお金にはなりづらい。それならばシンシアに取っておけば手直しをしてシンシアの結婚式で来てくれるかもしれない。
「うーん。このドレスは売れそうね」
売れそうな宝石が付いているドレスを漁り何着か出していくが、傍からみると泥棒と変わりないだろう。
「お母様。『実はうちの領土には隠し財産があったんだ』とか『実は亡くなったおじい様が大金持ちだったのだ』とか『裏庭に金銀をこっそり埋めてある。掘っていい』、『あ、そう言えばうっかり五百万ルーンを棚に隠してた』なんて嬉しいサプライズがあれば喜んで受けますが」
『いや、それはない』と女神様の元にいるだろうお母様が嘆きそうな事を呟きながらクローゼットを漁り、靴やバッグが入っている箱を引っ張り出した。
お母様のドレスでは私にはサイズが全然合わないし、シンシアが切る頃には流行も大分変わっているだろう。流行を取り入れてない物だけ残して、あとは売ってしまおう。
靴やバッグは私でも使える物があるかもしれないので少し残しておく。
「一応、これくらいかな。お父様に確認取ると売らないって言いそうだから、マシューとセバスに頼んで売って貰う事にしよう。それでも全部で八十万…いや、売ると大分安くなるから良くて四十万…くらいか」
頭の中で計算しながら机の引き出しを開けると、封を開けていない手紙が一通見つかった。
「ラブレター?いや、なんだ普通の手紙か。『ゴールド探偵事務所』?」
差し出し人は王都にある『ゴールド探偵事務所』。特別な印は押して無く、家名も何もない。
王都の探偵事務所とお母様が知り合いだというのも私は聞いた事は無かった。
めぼしい物を見つける事が出来なかった私は手紙を持ってお父様の執務室をノックと同時に入ると、お父様もお爺様が使っていた箱を「ルーン…ルーン…」とブツブツいいながら漁っていた。
流石親子、考える事は同じである。
「ん?フレイヤ、どうした」
「お父様、『ゴールド探偵事務所』をご存じですか?お母様の部屋を漁っ…いや整理していたら手紙が出て来たのですけど」
「スカーレットの部屋の整理?手紙?封が開けられてないな。スカーレットが具合が悪い時に届いたのか?」
お父様は顔を上げて手紙を手に取ると裏、表と見て首を傾げた。
「読んでみましょう」
「うむ。スカーレット宛だが、許してくれるだろう。あ、もし、昔の恋人からの手紙とかだったら…」
「その時は私が慰めて差し上げます。あ、お父様、浮気なんてしてないですよね?お父様の浮気調査の可能性は?」
「し、してないぞ!え?疑われていたのか?私はスカーレット一筋だぞ!ま、まさか。スカーレットに想い人が?」
浮気と言われてむっとしたお父様はもしやお母様に恋人が、と思いつくと顔が青くなったり白くなったり忙しい事である。
「それはどうでもいいです。とにかく。早く読みましょう。お母様に恋人がいたのなら、私が慰めますから」
「う、うむ。そ、そうか。では、開けるぞ」
お父様は少しの間迷い、手紙の封を切った。そして、手紙を読み進めると息を吐いた。
「はあああーーー。よかったああああ」
「お父様、なんと書いてありましたか?恋人からの手紙でしたか?それともお母様が雇った浮気探偵ですか?」
「いや、そうではない。それは良かったのだが」
と言われ、私に渡された手紙の内容は、『スカーレット様、ヴィオレッタ・アントン様からの相続が完了致しました事をここに報告させて頂きます。何かありましたらご連絡を下さい』と書いて有った。
ヴィオレッタ・アントン?
確かにお母様の恋人でも、お父様の浮気調査でもない。
お父様を慰めるのは面倒なので、これはこれでよかったのだが。
「お父様、ヴィオレッタ・アントン様とは?」
「アントンは義母上の生家であったか。…確か、ずいぶん前にスカーレットの伯母に当たる人がいると聞いた事はある。私はお会いした事はないが」
「お父様、相続って?何か聞いてないのですか?葬儀の時にそんな話は?」
「いやまったく。葬儀は災害もあり質素になってしまったが、スカーレットの知人からも何も聞かなかった。おそらくだが、ヴィオレッタ様はスカーレットの母方の最後の親族ではないかと思う…。義母上が一度『私の親族は姉意外、皆もういない』と言われた事がある。その姉がヴィオレッタ様ではないかと思うが…この話もお前が生まれる前の話だからなあ」
「はー。お父様、役に立ちませんね」
「フ、フレイヤ。そう言うな」
お父様は手紙を読み、何か思い出せないかと天井を見上げていたが、唸り声しか出てこなかった。
お婆様の親戚の事は私は聞いた事がない。お婆様は私が産まれた頃に亡くなったので私も覚えていない。
「スカーレットが亡くなり時間も経っている。王宮には既に諸々の手続きを終えてしまっているのだが…」
困った様に手紙を見つめるお父様。
確かにもう、色々な手続きは終えている。
しかし。
もし、何かお母様の資産が別にあったら?例えばそう、現金五百万ルーンとか。
よし。考えても仕方がない。動いた方が早い。
「お父様、セバスを呼んで下さい。あと、王宮からの伯爵家代理が認められた書類と、お母様の死亡届けを出した時の書類をすぐに用意して下さい」
「あ、ああ。分かった」
お父様はすぐにベルを鳴らしてセバスを呼ぶと、杖を突きながら執務室に書類を取りにいった。
「セバス、お母様宛の手紙を見つけたの。『ゴールド探偵事務所』『ヴィオレッタ・アントン伯母様』これを聞いて何か思い出す事はない?」
「スカーレット様宛のお手紙でございますか?『ヴィオレッタ・アントン様』『ゴールド探偵事務所』……」
私がお母様宛に届いた手紙を見せるとセバスは驚きながらも頷いた。
「スカーレット様がお元気な頃、王都と頻繁に手紙のやり取りをしている時期がございました。一年半程前が最期でしょうか?その頃にその手紙を見たような記憶がございます。私は相続に関しては何も存じません」
「セバス、王宮にお母様の死亡届や、相続届け出を出す時に、私と貴方でお父様の手伝いをした時に、猶予期間ってなかった?」
「猶予期間でございますか?確か当主が亡くなって、新しい当主もしくは当主代理が受け継ぐときに王宮に申請する期間でございますね?」
「そう、それを過ぎると罰金や没収になる。だから期間を守らなきゃって、言ってたけど、『我が家はそんなに資産がないから問題ないなあ』ってお父様が笑って言ってたわよね?」
「ええ。さようです。期間は問題なく全て完了致しました」
「でも、実はまだ届けていない遺産があったら?」
「猶予期間はその為の期間ですので、期間を過ぎていなければ手続き変更可能であると思います」
「そうよね。いける。うん、いける」
「ええ、ですが、手続きは王都で行われます」
私はセバスに書類の一文を指さした。
『代理人として認められるのは成人嫡子』
「な、成程?もしや、フレイヤお嬢様?」
「私は十八になった。成人したのよ。私が伯爵代理になれるってこと。まあ、この場合は伯爵代理の代理ね」
セバスは書類を集め、上から下まで色々読みだした。
「た、確かに。フレイヤお嬢様であれば、王都で変更手続きが認められますな」
「いける」
私は無い胸を張ってふんと頷いた。




