リンリンからの手紙 オゥルソ視点
「何?リンリンからだと?」
オゥルソが小屋から「宿、新月」の方に渡ると、宿娘のキャンディが分厚い手紙を持ってやって来た。
「うん。オゥルソ兄さん。リンリンからの手紙って言って肉屋のヴィットンが私に持ってきたんだけどね?この手紙、オゥルソ兄さんの分も入っているの」
「俺に?リンリンが?あいつ、今どこにいるんだ?」
「手紙には何も書いてなかったわ。私には急に田舎に帰る事になって、迷惑を掛けた。ドレスは好きに来てくれ。アクセサリーも皆で分けて欲しいってだけ。元気にしてるのかも分かんない。ただ、棚の上の荷物は袋に入れてヴィットンに渡してくれって書いてあったの」
「ヴィットンの手間賃か?」
「んー。ヴィットンが私宛の手紙はすぐに読んでくれって言うから読んだらそう書いてあったから、棚の上の物を袋に入れたんだけど、全部、下着だったのよね?手間賃が下着って変じゃない?しかもヴィットンは騎士様に頼まれたっていうの」
「……変だな」
「でね、リンリン、こんなに綺麗な字が書けないの。私達の多くは、書けても自分の名前か、愛してる、とか、またきてね。とか、そんな言葉しか知らないでしょ?私は偶々読み書き出来るから自分で読めたけど、こんなに長い手紙を送るのもなんだか変なの」
「成程な」
「ねえ?オゥルソ兄さんん、何か変じゃない?今日、騎士の人が来てたでしょう?何か関係があるのかしら」
「よく知らせてくれたな。キャンディ、俺が調べておく。ロズにも知らせるから気にしなくていいぞ」
「本当?良かった。なんだか気持ち悪くって。リンリン、いい子だったのに」
「ああ、そうだな」
首を傾げながら仕事に戻るキャンディを見送り、俺はキャンディから渡された手紙を開いた。そして、すぐに謎は解けた。
「オゥル伯父さん、フレイです。
こんな形で手紙を渡してごめんなさい。リンリンさんの事、不思議に思いましたよね?
騎士団の部屋にいると、小さな窓からリンリンって人が私に話し掛けて来ました。そして、「宿・新月」の者で手紙を書いて欲しいとお願いされました。細かい事はもう一枚の手紙に書いておきます。騎士様にも話したのですけど、歓楽街と騎士様の場所は警備の問題で対応が難しいらしいのです。そしてリンリンさんはもういなくなってしまって。
私はその事もあり、騎士団に保護される事になって動けなくなってしまいました。お願いです。変な話なのは分かっています。でも、気をつけて下さい。そして、リンリンさんが前の満月の夜にこっそり外出をした人がいないか調べて欲しいって。きっと様子がおかしいだろうから話を詳しく聞いてくれって。これがリンリンさんからの伝言です。あと、この手紙がリンリンさんからの伝言と言う証拠の為にリンリンさんがこう言ってました。
『オゥルソ兄さん、見てるだけじゃ、ダメよ。女は強引くらいがいいんだって。押せば行けると思うけどな』って。
ロズさんが信じてくれないかもしれないからロズさんにはこう言って欲しいと、
『ロズ姉さん、急にいなくなってごめんなさい。私の好きな人の好きな人はロズ姉さんの事が好きなのよ。私はロズ姉さんも大好きだから譲ってあげる』
オゥルソさん、どうか気をつけて。迷惑を掛けたのに挨拶もせずに出てきてしまってごめんなさい。そして、できればこの手紙はオゥルソさんとロズさんだけが読んで下さい。
フレイ」
二枚目の手紙まで急いで読むと、頭に血が上るのを感じて急いでロズの部屋へと駆けこんだ。
「ロズ!!」
「なんだい、オゥルソ。騒がしいね。また変なモノでも拾ったのかい?」
急いでドアを閉め、無言で辺りの気配を探り問題が無い事を確認している様子を見て、ロズは飲んでいた酒を置いた。
「厄介事だね?」
「ああ。話がある」
「お前が拾ってきたネコに関係あるのかい?」
「ああ。これを読んでくれ」
俺が手紙を手渡すと、ロズは黙って手紙を読み「リンリンがねえ」と言って、目を瞑った。
「流石、『深紅の薔薇』の娘だよ。親子で私を助けてくれるんだね」
「ロズ」
「何度も言わなくても聞こえているよ。この似顔絵。そして、左手の怪我。様子のおかしな宿娘。リンリンの失踪…。オゥルソ?」
「ジェリーじゃないか。今日、騎士が来たと聞いた時、顔が白くなっていた。それに、最近元締めが変わったシマがある。そいつらがシマを関係なく荒らしていると聞いた。灯り持ちが一人、店に最近そいつらの一人が客として来ていると報告があった。客としては何も問題ない奴だった。が、左手に包帯を巻いているのを俺も見た。その客が来だしたのはリンリンがいなくなってからだな」
「リンリンは無事なのかねえ」
「分からん。フレイに伝言を頼んだんだ。無事だと信じたいが」
「…。分かった。ジェリーを呼んどくれ。それと、オゥルソ、戦だ。この店は私の城だ。宿の住人は皆私の子供だよ。リンリンを守ってやれなかったねえ。一人で逃げさせてしまった。その上で、こんな風に宿の心配もさせちまった。オゥルソ、あんたの手下を集めてくれ。男衆には武器を持たせて心の準備を。娘と子供は近くの「風月」に避難させておくれ」
「分かった。ロズ。一つ、聞いていいか?」
「なんだよ」
「お前の好きな奴って誰だ?」
「今、それが大事なのかい?」
「ああ」
「ふっ。知らなくていいよ。だけど、これは間違いなくリンリンが私に向けて書いた物だ。『薔薇の娘』の手を借りてね」
ロズはそう言うと、手紙をもう一度読み直しだし、俺の方に顔を上げる事は無かった。
なんだよ。ロズの好きな奴って。リンリンも好きな奴がいたのか。
ひょっとして、料理人のゾフか。じゃあ、ロズの好きな奴はゾフか?いや、ゾフはロズには年が下過ぎる。じゃあ、門番のウーチンか。いや、それじゃあリンリンには年上すぎるんじゃねえか。
うんうん、と考えながらロズの部屋を出て宿奥の娘達の部屋に顔を出した。
「おい、ジェリーは?」
「あ、オゥルソ兄さん、ジェリーはさっき水場に行きましたよ」
「そうか」
水場に行くと川の方をぼうっと眺めているジェリーがいた。
「おい、ジェリー」
声を掛けると真っ青な顔で振り向いた。
「あ…あ…」
なんかあったな。やっぱりな。これは隠し事をしているヤツの顔だ。しかも罪の意識がある。
俺は黙ってじっと見つめた。
「あ、あの。私……」
「……」
ジェリーが見ていた川の方を俺も見る。何も別にない。何を見ていたのか。
少し歩いて川を眺めていると、川辺でキラリと何かが光った。
「そこを動くな。待ってろ」
俺がジェリーの肩に手を置いてそう言うと、ビクッとジェリーは震えて、コクコクと頷いた。
なんだ?
光った辺りに下りて、見渡したが上手く見つからない。なんだ、気のせいか。服が濡れちまったな。
無性に気になったのにな。
俺は直感を信じている。気になった物は勘に頼る。意外とそれが生きるか死ぬかを分ける事になる。
今回も何か光が目に入り、気になったので川に下りた。それだけだ。
でも、何もなかった。
なんだったのか。
顔を上げてジェリーを見ると、ジェリーはポロポロと涙を流して座り込んでいた。
「おいおい、何してんだよ。汚れちまうだろ」
そう言って一歩足をを踏み出した時、光の反射が目に刺さった。
「これか」
パッと川に手を入れて、石の間を漁ると光るモノが手に触れた。それは安物の髪留めだった。
どこにでもある木を削って出来た髪留めに、ガラスやクズ石がついただけのもの。
「上手く光ったもんだな」
俺はそれをポケットに入れると、ジェリーの横に立って、無理やり立たせた。そして、ジェリーの目の前にさっき拾った髪留めを出した。
「ジェリー。お前、満月の夜に何を見た?これはリンリンの髪留めだ。なんでこれが川に落ちてんだ?」
「あ……。ひ……あ……」
「これは俺が昔、リンリンに買ってやったもんなんだよ。ジェリー。全部喋ってもらうぞ」
顔を白くさせたジェリーを無理やりロズの部屋へと連れて行き、そこではジェリーが信じられない事を話しだしたのだ。




