我が家の借金と蛙の花嫁
本日、二話目投稿します。
お父様の代わりに私が王都に行く理由。
それは亡くなったお母様の代理。
我が家は一人娘のお母様が伯爵家当主だったのだが、闘病の末、九か月前にお母様が亡くなった。そしてお父様が当主代理となったのだが次の当主は弟のマシュー。家を継ぐのは男が優先され男がいない場合に限り女が継ぐ。
我が家では男のマシューが跡継ぎと決まっている。お母様が亡くなり十三歳のマシューはまだ成人前。そこでマシューが継ぐまでの代理を父であるお父様が勤める事になる。
ここ数年、我が領地は逼迫していた。度重なる天災に闘病の末のお母様の旅立ち。さらに、お父様が一ヵ月前に水害の視察に行き、橋の事故に巻き込まれ足に怪我を負った。悪い事はこんなに重なるのかと、ここ数年で借金が膨れ上がってしまった。
命があっただけ良かったと思ったのだが、お父様が怪我をしたと知った隣の領のバンシー伯爵家が急に借金の返済を一括で求めてきたのだ。
「一年に六十万ルーンずつ返していく約束だったではありませんか!今迄支払いに遅れた事も無いでしょう!何故急に一括で返済などと!」
「ああ、そうだったかな?だがなあ、ほら、ここ。書類には当主とサインしているだろう?当主が亡くなれば状況も変わる。伯爵代理では領地もどうなるかこの先分からんではないか。それならば、私も借金を早くに返して貰った方が損をしなくていい」
「そうは言われましても、来月までに一括で約一千万ルーンを返せというのは、あまりにも!せめて…二百万、二百万ルーンならばすぐに用意します!」
「いやいや、一括でないとなあ。ああ、そうだ。前当主の喪が明けるのは三ヵ月後だったかな?惜しい人を亡くした。美しい人であったが」
「…ええ。そうです」
「ふむ、じゃあ、三ヵ月だけ待とう」
「三ヵ月では、とても!」
「よく書類を見てくれ。『当主が変更になった時は半年以内に契約を見直す。その変更届が無かった場合はすぐに借金を返済する義務がある』。どうだね?何かおかしいかな?半年の猶予があったのに、何も動かなかったのはそちらだ」
「半年以上バンシー伯爵は私が何度伺っても代理の方としか話が出来ませんでした!」
「おや?まあ、私も忙しいからなあ」
「手紙を何度も送り、何度も伺ったではないですか!しかし、その返事も頂いてない!」
ぐふふ、とバンシー伯爵は笑い、何かを思い出したようにニヤリと笑った。
「三ヵ月。いいな。三ヵ月待ってやろう。もし、三ヵ月後に借金を用意出来ない時は、ご息女、フレイヤを我妻に貰い受けたい」
「は?なんと?」
「いい話であろう?借金の代わりにご息女との結婚で手を打つと言っているのだ。持参金もいらん。借金は無しにしてやる。ぐふふ。ご息女は丁度十八になったかな?成人して、喪も明け、本人の意思で婚姻も結べるだろう?」
「私は…、スペンサー家伯爵代理として認めません!」
「当主代理では、本人の意思が優先されるだろうな。フレイヤ嬢は前伯爵程ではないが磨けば光るモノを持っておるからなあ。ぐふふ」
スペンサー伯爵の顔はサーっと顔が青くなった。
「まあ、三ヵ月。三ヵ月あるんだ。フレイヤ嬢とゆっくり話し合ってくれ。借金を一括でちゃんと返してくれれば、私は何も言わんよ。まあ、出来れば、だがな。ぐふぐふ。ぐっふっふっふ!!」
「っく……」
*****
お父様は、薄らハゲデブ蛙親父(心の声で呼んでいる)のバンシー伯爵と話を終えると、すぐに執事のセバスと話し合ったが、二人共青い顔は戻らず、色々な書類を見直してはぐったりとしてしまい、次の日の夜に私はこの話を聞いた。
「結婚の申し込み?私に?バンジー伯爵家からですか?嫡男のボイロイ様も次男のブリリアント様も確かご結婚されてましたよね?ああ、やっぱりもう離婚されたのですね、成程、私を後妻にと?」
名前を呼んだ二人の顔を思い出して顔を顰めてしまった。五つと三つそれぞれ私と年は離れていたはずだが、「フレイヤ、お前、ブスだな」「おい、残念女。スカーレット様に似てないな。弟の方が美人だな」と、意地悪を言っては口を曲げて笑う所が嫌いなのだ。
「鏡を見てこい、性格最悪ブス男共」と私も言い返したらすごい剣幕で追いかけ回された思い出が蘇った。
「あんなに私の事をブスブスと言ってたくせに。ははん、さては私の事が好きだったのですね。まあ、私は好きではないですが。ぷぷぷ」
成程、好きな女の子をいじめる心理か。
ふん、残念な男共め。しかし、私を後妻にとは。まったく、イヤな話だ。
「フレイヤ…。ボイロイ君でもブリリアント君でもない。伯爵が、お前を嫁にと申し込まれたのだ」
「え?かえ、(危うく蛙と言いそうになってしまった)バンシー伯爵の後妻に?お父様よりも年上ですよ?」
ぐふっと笑う蛙伯爵を想像して私はぶるっと震えてお父様に訊ねるが、間違いではなかった。
息子二人も嫌だけど、父親のバンシー伯爵だなんて。四天王と戦う前に魔王がやって来た気持ちだ。
勝てる気がしない。
「分かっている。が、バンシー伯爵がお前との結婚を申し込んで来たのだ。借金の返済の代わりにと」
何度も言うがバンシー伯爵はイケオジでもない蛙顔の髪の薄い、脂ぎった四十八歳。貴族の世界でも悪い意味での有名人である。
突然耳の調子が悪くなった可能性に賭け、お父様に聞き直してみた。
「あー。あー。うん?耳の調子がおかしくなったのですかね?お父様、バンシー伯爵と聞こえましたが?確か…、バ…バーモント子爵家に何人か令息がいましたよね?バ…バスク男爵の所にも私よりも年下の方がいたような…。他にバから始まる所で、イケメンがいた家はなかったかな…。いや、イケメンじゃなくてもいい。えっと、バ、バ、はいないか?……」
「フレイヤ。耳は正常だ。バンシー伯爵だ」
そんな。聞き間違いではなかった。
私はガクリと膝をついてしまった。
「か、蛙・・・」
「すまん。今のままでは、バンシー伯爵の言う通りにするしかない。とにかく、商人が明日来る。売れる物は売る。そこで、良い値がつけばよいが一千万は難しいだろう…」
「蛙からの申し込み?私とバンシー伯爵は三十歳程の年の差で?なぜ、十八の私が四十八のぐふふ蛙親父に嫁がなければならないのですか……。優しく、可愛いイケメン蛙なら私も好きになるかもしれませんが。相手はハゲデブ魔王蛙ですよ…」
「す、すまん」
「いえ、お父様を責めるつもりは…」
バンシー伯爵は悪者顔の蛙顔。私の顔を見ると、ぐっふっふと言いながら、舐めまわすように厭らしく目を細め笑うのだ。
毒蛙だ。ああ、ゾワゾワする。
しかし、しかしだ。貧乏な田舎者と言っても私も貴族の娘。お父様に命じられれば何処の蛙であろうと嫁ぐ覚悟はある。
が。
「どうせ年上ならば、もう少し素敵な人であったなら良かったのに。例えば、優しい年上の男性で、お金持ちで恰好良くて、『フレイヤ、君の家の借金は君との結婚で無しにしよう。持参金?そんなものは必要ない。ああ、三か月後に迎えに行く。母上の喪が明けたら結婚しよう』なんて言われたら、『え、ラッキー!イケオジ最高!』って飛びつくのに。だけど、現実は蛙親父?ああ、伯爵でした。『借金の代わりにご息女との結婚で手を打つと言っているのだ。持参金もいらん。借金は無しにしてやる。いい話ではないか。それにご息女は丁度十八だろう。ぐふふ』ですか…。あれ、でも、言ってる事は同じ?」
「す、すまん。バンシー伯爵はイケオジではないな?というか、フレイヤ、イケオジならいいのか?」
「お父様、お父様だって、お母様は絶世の美女って呼ばれていたじゃないですか。美女と結婚できて最高でしたでしょう?私だってどうせ結婚するならば美男子がいいです。年齢は問いません。年下、年上、どんとこいです」
「ああ、スカーレット……」
お母様を思い出させてしまってお父様がめんどくさい事になってしまった。
「まあ、美男子と結婚は無理でも、そこそこに素敵な人で優しくて思いやりがある人がいいです」
私が隅に控えていた執事のセバスの方を向いて「そう思うでしょ」と、言うと、セバスは「はい」と頷いた。
「とにかく状況は分かりました、お父様。蛙との結婚の覚悟はしておきます。私も、もう成人。家の為に蛙だろうが魚だろうが、嫁げます。お父様、私は『スペンサーの剣』と『深紅の薔薇』と例えられたお父様とお母様の娘です。大丈夫です。まあ嫌ですけど」
「フレイヤ…。すまん」
ぐったりとしたお父様を残して私は部屋に戻った。お父様はそれから我が家の急いで売れる物を売ったが、五百万ルーンにしかならなかった。
三ヵ月後までに支払う借金約1000万ー500万=残り約500万ルーン。




