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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
二章

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幽霊お姉さんのお願い

リンダさんは上品にしゃべれないので、砕けて喋るともう、フレイヤの事をあんた呼びしています。

私は無視をするか、返事をするか迷った。


幽霊にかかわると碌な事はない。今日の幽霊騎士様はたまたま運が良かったのだ。領地でも幽霊のせいで怖い思いも嫌な思いをした事もある。そりゃ、危ない事を教えてくれた優しい幽霊や、穏やかに女神様の元へ旅立っていく幽霊を見送った事もある。が、危険な事にわざわざ突っ込む事はない。


早くゴールド探偵事務所に行かなくてはならないのだ。私には時間が無い。


だから、私は無視をする事に決めた。


ゴロンと転がり幽霊お姉さんに背を向けると、慌てた声で話し掛けられた。



『ねえ、さっきオゥルソ兄さんに話してた話。私も聞いたけど、お金が必要なんでしょう?私の頼みを聞いてくれたら私のお金、あげるって言ったら聞いてくれる?』


「……」


お金?今、あげるって言った?私に?


『私、結構貯めてて。でも、使わず、死んじゃったの。だからそのお金、私の願いをかなえてくれたらあん……貴女にあげるわ』


成程。確かに死んだらお金は使えない。それを私にくれるというのか。


「…いくらですか?」


私がギギギっと首を向けると、お姉さんはうふふと言って『よかった、話、聞いてくれるんだ』と言って片手をパッと開いて見せた。


「五万?」


『残念』


「ああ、五千ですか?」


じゃあ、断ろうかな。時間ももったいない。いや、でも、五千あれば宿代になる。やはり受けるか。聞くだけ聞いた方がいいのか。いや、どうしようか、うーん。


私が迷っていると、バインバインお姉さんは「うっふっふ」と笑った。


『五千なワケないでしょ。五十万ルーンよ。どうすごいでしょう?』


五十万?


五十万って?


十万の報奨金の五倍。


「本当に?」


『うふふん。一生懸命貯めたんだから。使わずに死んじゃったけど。誰かに盗られるくらいなら、パッと使いたいじゃない。ね?引き受けてくれる?』


く、五十万……。遺産が現金では無いかもしれない……。五十万は大きい。


「引き受けましょう……」


『やった!有難う』


お姉さんは私の前のグラグラ椅子にチョコンと座ると、話をしだした。



『あのね。私、死んでるでしょ?それって、私、殺されちゃったのよ』


「は?危険な事は聞かない事にしているんです!」


危険な事に首を突っ込むのは無理だ。早まったかもしれない。しまった!


『まあまあ、話だけでも聞いてよ。五十万よ?それにもう、聞いてくれるって言ったわよね?』


「っく。確かに……」


やはり甘い話には裏があるのか。私が諦めて頷くと、お姉さんの首元にジワっと手の痣が浮かんできた。


「首を……絞められたのですか?」


私はゾクッと寒気がして、自分の身体を抱きしめた。


『そ。悪い奴らが変な話をしてるところを偶然聞いちゃってね。口封じよ』


幽霊お姉さんはべーっと舌を出しながら、自分の首を指さしてくるりくるりと宙に浮いて回った。


「……」


赤黒く変色した手形は妙に生々しく、強い悪意を持ってお姉さんの命を奪った事が分かった。


苦しかっただろう。なんと声を掛けたらいいのか。お母様からは、『視える者に感情移入をしてはいけない。女神様に旅立つ者には扉を跨いで接するように』と言われた。


けれど。


心がギュッとなってしまう。私が言葉に詰まっていると、お姉さんは『せっかく幽霊になったんだから、私を殺した相手に仕返しもしたいと思ったけど。それよりも忘れないうちにあんた、あ、失礼だった?もう、お貴族様と話すの面倒。あんたでいいわよね?』と、首を竦めて笑った。


「好きにどうぞ」


私が答えると、幽霊お姉さんは「有難う」と言ってウインクした。


『仕返しよりも、大切な事をお願いしたくって。私のお願いは、ロズねえさん達に伝えて欲しい事があるの』


「ロズさん達に?何をですか?」


仕返しよりも大切な事。ハーパー様のように、伝えたい事があったのか。


そうか。だからこの人は堕ちなかったのか。


『うん、姉さん達に危険が迫ってるって言ってくれない?あ、私の名前?リンリン。本当の名前はリンダなんだけど。宿ではリンリンって呼ばれてる』


「リンダさん」


『その名前、久しぶり。あのね、姉さんに気をつけてって伝えて欲しいの。ここ、左腕のここに傷がある、眼鏡をかけた男。その男が私を殺したんだけど、名前は分からないし、帽子を被ってたから髪の色も分からない。色眼鏡をしてたから目の色も良く見えなかった。でも、私、さ、殺される時に抵抗して、近くにあった割れた瓶で思い切りその男の腕を刺したんだ』


こう、ブスっとね。と身振りを交えてリンダさんはしゃべる。


怖かっただろう。きつかっただろう。辛かっただろう。それなのにあっけらかんと話し続ける。


『やっぱり男の力には敵わなくてさ。結局殺されちゃったけど。でも、相手の左手の外側、この辺、思い切り刺したから怪我をしているはず』


「リンダさんは何処で……」


『ああ、私が殺された場所?この宿の裏だよ。所要で出かけて、遅くなってさ。バレる前にこっそり帰ろうとしたら男達が話してるのを聞いちゃってね。バレて、掴まって、コレ』


グッと自分の首を絞めるふりして舌を出した。


「ロズさんに気をつけてとは?」


『さっき私が言った男。ソイツ、ロズ姉さん騙して、この宿を奪うって言ってた。言う事を聞かない宿の子達は売り払うって。男衆も売れれば売って、ダメなら殺すって。上手くいかない時は薬を使うって言ってたんだ』


「……」


なんてことを。簡単に人を殺す事や、売ったりすることを話しているんなんて。


『ごめん。怖いだろうけど、お願い。ロズ姉さん達さんには何も恩を返さずに死んじゃったから。オゥルソ兄さんや宿の子達にも迷惑だけ掛けたんだよね。せめて、ソイツの事をロズ姉さんに伝えて欲しい。この宿と姉さん達を守って欲しいんだよ』


「分かりました。でも、どうやって伝えましょう」


『ん?あたしが視えるのはあんたの「加護」でしょ?姉さんに「加護」の力でって言ったらダメなの?』


「それは…。出来れば言いたくないのです。私の加護はとても特殊なので」


『そっか。ああ、バレたら売られるみたいな?じゃあ、うーん。あ、手紙、手紙を書いてくれない?リンリンに会って、姉さんに伝言を頼まれたって。で、私は田舎に帰ったって言ってくれればいいからさ』


「田舎に帰った?リンダさんはこの宿の裏で殺されたのでしょう?皆さんご存じなのでは?帰ったとは?」


『私、行方不明って事になってるのよ。殺された後、そこの川に捨てられて、流れていっちゃった。私の死体、まだ出てきてないんだ。だから、ロズ姉さんもオゥルソ兄さんも心配してくれてる』


「そんな」


『まあ、逃げ出したって思ってる子もいるけど。変には思ってるみたい。この宿はロズ姉さんが優しいから、他には移りたくないって皆言ってる。だから、おかしいって思ってくれていてね。オゥルソ兄さんのおかげで変な客は少ないし。こんな場所だけど、客は割とまともな奴ばかりだしさ。自分を見受けして出て行けるし。皆一生懸命頑張ってるんだ。私もそのつもりでお金を貯めてた』


話し出したお姉さんの首はもう、くっきりと手の跡が着いていた。首に大きな指の跡が巻き付く様に浮き出ている。


「リンダさんは自分の遺体の埋葬はいいのですか?」


『え?いいよいいよ。川に流されてどうしようもないもの。あんたがこうやって祈ってくれたら凄く気持ちが楽になったしね。全部終わったらまた祈ってくれる?そしたらこんな私でも女神様の元へ行けるかな』


「それは勿論。ただ、ロズさんもオゥルソさんも祈りを捧げたいはずです」


『あー、そんなもん?でも、姉さん達優しいから。私が宿の裏で殺されたって知ったら悲しみそうで。だから私が逃げ出してどっかで生きてるって思ってた方がいいよ。あんたが祈ってくれたらそれでいいや』


ネックレスを握りしめて、私は頷いた。


「リンダさん、リンダさんが安らかに女神様の元へ旅立てるように頑張ります」


『有難う、宜しく。あ、ねえあんたの事、フレイヤって呼んでいい?あんたお貴族様なら様付けないと駄目?』


「フレイヤで良いですよ」


『有難う、フレイヤ。これから宜しく!』


私が頷き、リンダさんが笑うと不思議そうな顔をしてオゥルソさんが小屋に戻ってきた。



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