三つの金貨袋
……王族の人ってこんなにポンっとお金を出すのか。
五万ルーンって「ほら、お小遣いだよ」みたいな感じでポンっとお礼と一緒にあげる額?まあ、王族ならそうなのか。
金持ちは違うな。私の金銭感覚と桁が確実に一つ……二つは違うが、私達が収めた税が王宮に行くわけだし、そのお金が回りまわって私の元に戻ってきたと考えておこう。
あとから変な事お願いされたりとかないよね?と、余計な事を書いてないかと書類をしっかり読んでいると、受付の人は興奮気味に話し出した。
「スペンサー様!良かったですね!ポシェットもネックレスも戻って来て!幼い弟様達のプレゼントなんですよね?それに亡きお母様の形見……。若い伯爵令嬢が平民男性の恰好をして、一人、領地を離れて王都を訪れるなんて!!冒険の物語のようですよね!もう、隊長は殿下に話されながら、泣かれていましたよ!しかも、お母様はあの、『深紅の薔薇』のスカーレット様なんて!スペンサー様の髪もスカーレット様と同じ色なんですね!!とても素敵です!」
私は平民男性の恰好ではない。マシューの運動着のお古なのだが。隊長、泣いちゃダメでしょう。
ブロンさんから『お嬢、馬車の旅は砂埃も凄く、服は汚れるから、動きやすく汚れて良い服が良いですよ。風もあるので、ドレスは止めた方がいいですね。マシュー坊ちゃんの服で丁度いいのがあるならそれを着たらどうです?』と、勧めて貰ったのだ。けっして、平民男性の変装をしてのお忍び旅ではない。
新しく購入するのがもったいないと思っただけで。
私がチラリと横に立っているジェローム様を見ると、ジェローム様は咳払いをして頷かれた。
「その、スペンサー令嬢の恰好はやはり貴族女性としては大変珍しい事でして。そして、スペンサー前伯爵様は王都でも有名な方です。その御令嬢が変装してお付きもつけずに一人王都まで来られたので、隊長は気にかけていらっしゃったのだと思います」
男装であって、変装のつもりはなかったけれど。もう、訂正するのも面倒。お母様が有名人って事だけが分かった。そして、隊長、気にかけてくれて有難うございます。
「そこに偶然訪れた王弟殿下がこの件を知られまして。王弟殿下は隊長の幼馴染ですので、ここにもよく顔を出されます。スカーレット様は隊長達の憧れだと聞いた事もあるので、そのご息女とあれば王弟殿下も手助けをしたいと思われたのでは。ここは、有難く受け取っておいて問題ないと思います」
「お母様、凄いですね。本っ当に問題の無いお金なんですね?あとで何か言われたりは無いですね?」
「ええ。勿論です」
その言葉を信じよう。もし、もし仮に、蛙親父の嫁から王弟殿下の嫁にチェンジになったとて、我が家にはメリットしかないのだろうからそこは受け入れよう。
お母様を憧れというのならきっとお母様よりも年下だろうし、蛙よりも変態な事はないだろう。
怪しいが。怪しいけれど、貰っておこう。
私が頷くと受付事務さんはニコニコして話を続けた。
「報奨に着いては昨夜出ていたので、何も特別扱いではないですよ!謝礼金も殿下は時々騎士隊の詰所に差し入れをして下さったり、第三の方で捕り物に貢献した方に贈り物をしたと聞いた事もありますから。でも!よかったですね!女神様が見てくれているんですね!スペンサー様に女神の祝福が会ったのですよ!!」
いえ、私に祝福をくれたのはきっと幽霊騎士です。キラキラ振り撒いて旅立って逝きましたから。改めて、幽霊騎士に感謝を捧げておこう。
有難う、ハーパー様。もう、無事に女神様の元へ着きましたか。おかげでお金が手に入りました。
「では、全部でこちらになります」
受付の人は嬉しそうにお金を私の前に出してくれた。
ドン、ドン、ドン。
あっという間に私の前に十五万ルーンが積まれた。五万ルーンが入った袋が三つ。
王都、凄い。いや、王弟殿下、凄い。しかしもう、返しませんよ。これ、すぐに借金返済に使えないかな。
「騎士団詰所からは各領地のお金を送れますよね?」
「ええ、送金ですね。出来ますが、ちなみに何処にでしょう?」
「スペンサー領の父宛に。大金を持ってまた盗られたら困りますから」
「出来ますよ。手数料が二百ルーン掛かりますが宜しいですか?」
「はい。十万ルーン、お願い致します」
「かしこまりました。短い一文であればメッセージも添えられますが」
「では『窃盗団の報奨金を送ります』と」
「『フレイヤ様より』と付け加えさせて頂きます」
ニコリと笑った受付の人に私はしっかりと頷いた。
送ってしまえば、「返して」と言われても、「え、送っちゃいましたし」と言える。うん、コレだ。
それにお父様達はきっと喜ぶだろう。
「お、フレイヤからか。すぐにお金を送って来たぞ、流石だな」
「流石お姉様、素晴らしいですね」
「フレイヤお嬢様、ご立派でございますな」
「すごーい。おねえさま、だいすき」
ふっ。それほどでも。
私は領地の家族の顔を思い出しながら、送金依頼にサインをした。
私は五万ルーンから一万ルーン取り出すと、それをポケットに入れて残りの四万ルーンを二つに分けて、ポシェットとバッグに入れた。これで次、盗られても被害は減る。何事も経験は大切なのだ。
あ、大事な事を忘れていた。
「あ、あの、一つお聞きしたいのですが」
「はい?なにか?」
私は受付の人に顔を寄せて小さな声で訊ねた。
「待っている時に出して頂いたお菓子。何処のお店の物か教えて頂いてもいいですか?妹に送りたいので」
「ふふふ。勿論です!」
私は受付の人から笑顔でメモを貰いゴールド事務所までの詳しい地図も書いて貰った。
手続きが終わり、詰所を出る時にジェローム様が扉を開けてくれ、『アンソニー・ジェローム』と名前が書かれ、第二騎士団第二班班長と続いた紙を貰った。
「貴女は私の恩人です。心の憂いが綺麗に晴れました。困った事や助けが必要な時はいつでもお呼び下さい。この恩は必ずお返し致します」
「ほう。望み…」
私の望みなんて、四百六十万ルーン貸して貰う事。あ、領地にお金を送ったから四五十万でいいか。
流石に今日あったばかりの騎士様に「お金貸して下さい(しかも大金)」とは言えない。流石にそれくらいの常識は私にもある。
考えこむ私に、ジェローム様は腰をかがめてもう一度聞いてきた。
「何か困った事が?」
やはり、言えない。うん。困らせるのも面倒だ。ここは何か別の事を聞いておこう。
「ウーピーって何ですか?」
私が聞くと、ジェローム様は、ふはっと笑われた。笑うと凄く若く見えて、私が思っているよりも年は若いのかもしれない。
騎士の人はキッチリとしているから大人に見える。もしくはジェローム様は老け顔なのだろうか。と、失礼な事を思っていると、小さな声でジェローム様が答えてくれた。
「ウーピーは犬のぬいぐるみです。ハーパー様が私が幼い時に贈ってくれたのです。夜、家を空ける事が多い父の代わりにと、ベッドの側に置いて寝ていました。ウーピーと名前を付けたのを知っているのは家族とハーパー様だけでした」
「ああ、それで。気になってしまったので」
「流石にもう一緒には寝ていませんよ。ああ、そうだ。忘れる所でした。宜しければ、これを」
そう言って私が丁寧に礼をしようとすると、ジェローム様は私の前に袋を差し出した。
「なんでしょう?」
「先程、美味しそうに食べていたので、お好きかと」
「え?」
袋の中を見ると、私が受付の人に聞いたお菓子が入っていた。
こ、これは先程聞いた口の中で溶けるお菓子!!!
「…いつのまに」
ジェローム様…。老け顔とかクソ真面目な騎士とか思ってしまってごめんなさい。とても親切な良い方だったのですね。ハーパー様も良い騎士だと言っていました、と急いで教えてあげよう。
「余りがあったので、頼んで分けて貰ったのです」
「有難うございます!!凄く嬉しいです!!」
リンゴもパンも嬉しいが、お菓子は特別に嬉しい!食べれるものは大好きだ!
私はニコリと微笑んで、貰った袋をギュッと抱きしめた。
「ごほん。滞在先が決まったらすぐに教えて下さい」
「はい!すぐに!」
私が改めて礼をすると、私よりも丁寧に礼をジェローム様は返してくれた。
お金をしっかりと入れたポシェットとバッグを背負い、お菓子を一つ口に入れ、ジェローム様に手を振り第二騎士団事務所を出て、今度こそ、ゴールド探偵事務所へと向かった。
こうしてフレイヤ・スペンサーは王都に出て来て一日で財布を無くし、盗賊団の根城を発見し、報奨金と謝礼金を手に入れ、領地に十万ルーン送る事が出来た。
第一章完結。
そして、まだゴールド探偵事務所へ辿りつけず。
借金残り四百六十万ーフレイヤが送ったお金報償金十万=借金の残り四五十万ルーン
手持ちのお金、王弟殿下から五万ルーンと三百ルーン。
フレイヤは借金を返せるのか、いや、そもそもゴールド探偵事務所に辿り着くのか。頑張れフレイヤ!
第二章に続く……。




