一仕事終えた後に
暫くの後、ジェローム様が「はあ」と息を吐き出して顔を上げると、スッキリとした顔になっていた。
「師匠、私は私を許して良いのでしょうか?」
『ああ、勿論だ。お前は優しいが弱い。だがなそれは悪い事ではない、が。優しいだけの男になるな。弱さを知る者は強くなれる。後悔に飲まれるな。人に優しく、しかし自分に厳しく、自分の器を計り間違える事ないようにな。そしてお前の事は儂が許す』
ハーパー様はジェローム様の横に立ち、ジェローム様の肩に手を置いて頷いた。
ジェローム様にはハーパー様が何処にいるかも、肩を触られている事も分からないはず。だけれど、不思議とジェローム様はハーパー様が触った肩に自分の手を重ね、ハーパー様の言葉に答えるように頷いていた。
私は出来るだけ正確に、間違えないように、ハーパー様の言葉をジェローム様に伝えていく。
「ハーパー様が、『勿論だ』と、そして『後悔に飲まれるな。弱さを知る者は強くなれると。人に優しく、自分に厳しく。自分の器を間違えるな、そしてお前の事は儂が許す』と言われています」
「ああ、師匠の言葉だ。ははは、私はいつまで経っても貴方の弟子です」
『決断を下すのは難しい。決断には大きな責任が伴う。しかしこの時までは儂が責任を取ろう。だが、これからはジェローム、お前が頼られるような存在になりなさい』
「『決断の責任はこの時まで儂が取る』と、『頼られるような存在になりなさい』と言われています」
「はい。必ず。最後まで甘えてしまい申し訳ありませんでした」
『うむ。良い。お嬢さん、有難う。良い顔になった。ジェローム、お前は立派な騎士になった。それにしてもお前は真面目だな。それはお前の長所であり、短所でもあるな。ああ、これで儂も女神様の御許へと旅立てる』
成程、ジェローム様はクソ真面目だと。
私が頷いてハーパー様の方を見ると、薄くなっていた。
「ジェローム様、最後に言いたい事があれば今のうちに。ハーパー様が女神様の元へと旅立たれます」
私が急いで騎士様の方へ言うと、ジェローム様はハッと顔を上げ辺りを見回したが、自分の胸を拳で一度叩き、ゆっくりと礼をしただけだった。
『うむ。良い騎士になれ。自分の力、忠誠を国に捧げ、弱き者を守り剣を振れ。ああ、お嬢さん、感謝する。君に多くの幸があるように祈ろう。本当に有難う。君のおかげで私は女神様の元へ騎士として逝ける』
「私からも、ハーパー様が無事に女神様の元へ旅立たれます様に祈りを捧げます」
『有難う。私はとても幸せな人生だった』
私が祈りを捧げると、嬉しそうにハーパー様はジェローム様に微笑みかけ、ジェローム様の頭にポンっと手を置くと、ふわっと浮き上がられた。
『さあ、時間だ』
そして、自分も同じように一度胸を叩くと、私へキラキラと光を撒きながらすーっと透明になりながら浮き上がっていき、消えてしまった。
ふうっと私が息を吐くと、ジェローム様も同じように息を吐いた。
よかった。無事に女神様の元へ旅立たれた。それにしても、『加護』の力が強くなっているのだろうか。
「……スペンサー令嬢、どうも有難うございました」
「いいえ、どうかこの事は内密にお願い致します」
「は。騎士の誇りにかけて。そして、あの、出来れば私が泣いた事も、内密にして頂ければ」
ゆっくりと胸に拳を置き、先程と同じ姿勢を取りながらも、顔を赤くして礼をしてくる。
「はい。墓場まで持って行きましょう。この事は女神様しか知られません」
私は女神様に祈りを捧げる仕草をした。
「感謝致します。胸のつかえがなくなりました」
『加護』は制約が多い。女神様から人々に贈られた『加護』。皆色々な『加護』を持ち、『制約』がある。『加護』も『制約』も人によって異なるが『加護』について嘘は言えないという制約は皆同じだ。女神様が嘘を嫌う為と言われているが、加護について嘘を言うと加護の力が弱くなったり、酷い時は加護が消滅してしまう。なので皆、自分から『加護』の事を話す事はしない。
私は伝え忘れが無いかと、思い出す限りの言葉をジェローム様に伝え、私の言葉をジェローム様は黙って聞いていた。ジェローム様は私に加護の事は何も聞かず、質問も何も言わなかった。
話を終えると私は荷物を手に取り席を立った。
「では」
「はい、お気をつけて」
さて今度こそ、『ゴールド探偵事務所』へと行かなくては。
お母様と女神様に感謝をささげ、私が部屋を出て行こうとすると、事務員の方がパタパタと慌てて入ってきた。
「すみません!スペンサー様はまだいらっしゃいますよね?」
ドアは少し開いていたとはいえ、ノックも無く慌てて事務員の方が入ってこられたので、ジェローム様は眉をしかめた。
「失礼、スペンサー令嬢、ハドソン、ノックもなしとは失礼では」
「す、すみません、すぐに書類をお持ちすれば、今日中に処理が出来ると聞いて、慌ててしまって。隊長が急ぐようにと言われたものですから」
青い顔をした事務員が小さくなってしまった。ジェローム様はもう、キリリとした表情に戻っている。
「ス、スペンサー様は手持ちのお金が無くなって困っていると聞いていましたので。すぐに処理ができればと」
私が気にしないで下さい、と手でジェローム様に合図をすると、ジェローム様は目礼をして、話の続きをハドソンと言われた事務員に促した。
「ああ、はい。あの、先程捕縛した者達について、スペンサー様に報奨金が支払われる事になったのですよ!」
「え?」
「本当に偶然なのですが、最近、スリや窃盗があまりにも多く、問題になっていまして!情報提供者や協力者に金銭を支払うという通達が昨夜出ていたのです。今迄も、殺人や、連続強盗や、山賊、等にはあるのですけどね。スペンサー様のおかげでスリのアジトを早急に特定し、犯罪者の逮捕に繋がりました。しかも!今回捕縛出来た中に、以前取り逃がした窃盗団のボスがいたのですよ!!この事を隊長が偶々視察に来ていた、王弟殿下に先程、話されまして、殿下が凄く喜ばれたらしくて。すぐにスペンサー様に報奨をと言われました!それで特別にすぐに支払う事になったのです!」
「へ……」
「成程それで、急いでいたのか。すぐに処理が出来るのだな?」
「ええ、勿論です!ということで、こちらが書類です!」
その後、受付の方の言う通りに報奨金を受け取れる手続きをした。多くは無いので、すぐに支払い可能と言われたが金額は十万ルーンだった。確かに貴族の価値観で言うと、十万ルーンは大金ではないだろう。が、五百ルーンとリンゴ一個が全財産だった私にとっては大金だ。
一般の平民であれば、一人で一年は生活出来る。つまり、私はつつましく生活すれば一年間生活が出来るお金を手に入れる事が出来たのである。
ええっと、五万ルーン盗られて、十万ルーン手に入れ、五万ルーンまた戻って来るかもしれない。ならば、すぐに五万ルーンは実家に送り返そう。
「スペンサー様、書類はもう一部あります」
「え?」
「王弟殿下に隊長がスペンサー令嬢の事を話したと言いましたよね?財布の中に入っていた、お金、すぐに返す事は難しいので、王弟殿下が個人的に謝礼金として五万ルーンお渡しするそうです」
「ええええ」
「これは五万ルーン戻ってきても返す必要なんてありませんからね?殿下からの謝礼金ですから」
そう言われ、もう一つ書類が出されて私は言われるがまま、サインをした。
フレイヤは報奨金を手に入れた。




