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フレイヤ・スペンサーの秘密の加護〜借金返済のために王都に来たのに、探偵事務所に辿り着けません〜  作者: サトウアラレ
第一章

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盗賊団アジト

詰所を出ると、幽霊騎士は裏通りを指さした。


『急ぐぞ。私の魔力追跡は時間が経つと難しくなる。死んでからは力も弱くなったからな。急がねば』


「む。こっちか。やはり裏通りに向かうのだな」



私は大通りを駆け抜け、幽霊騎士を見失わないように必死に走った。マシューの服を着ていて良かった。途中で大通りを右に曲がり、少し道が狭くなると今度は左に曲がり、もっと狭い道へと入ろうとした所で、ジェローム様から腕を取られた。



「ここからは特に治安が悪い。私達の間にいなさい。まさか、このような所まで追ってきていたとは」


「私、目がいいのです」


「成程。目、ですか」


そう言うと私の加護が『眼の加護』と思ったようで、頷き、残りの騎士達にも注意を促した。私が騎士達に挟まれると、ジェローム様たちは剣を抜いて、ゆっくりと進みだした。


「ジェローム班長。ここは以前、盗人のアジトが会った場所の近くです。もしかするとその周辺にまたアジトを作ったのでは?」


「うむ。調べが入った後に戻って来たのかもしれん。ではまず、元アジトを確認してみるか」


『いや、そこではない。近いが。ネックレスもポシェットも同じ場所にある。場所を教えるから、後はジェロームに任せればよかろう』


「スペンサー令嬢。何かの時はコリンズがスペンサー令嬢を逃がします。先程の詰所までコリンズと走って逃げるようにして下さい」


私はゴクリと頷くと、ジェローム様は壁に張り付き耳を澄ませていた。


『レディー、大丈夫だ。私が手助けをする。この辺りには浮浪者しかおらん』


幽霊騎士はふわふわと浮いて、先回りしながら、敵がいないか私に報告をしてくれた。


『お、あったぞ。目の前の建物だ。やはり元アジトではないな。地下から気配を感じる。ジェロームに伝えてくれ』


そう言って、幽霊騎士様は少し先の建物の前を指さした。



「え?伝えるってどうやって?」


ぼそぼそと返事をすると、幽霊騎士は『ふーむ』と言いながら私の横に戻って来て少し考え『見えたと言ったらいい』と言った。


『目が良いと先程言ったからな。そのビルに人影が見えたと。怪しい感じがした、とでも言ったらどうだ。きっと、「加護」と勘違いしてくれるだろう』


コクリと頷き、側にいるコリンズ様に話し掛けた。


「コリンズ様、目の前のあの、建物の窓に人影を見ました。犯人に似ていた気がします」


私がそう言うと、コリンズ様が驚いた。


「あの建物?茶色のドアの?」


「いえ、茶色のドアの横の汚れた建物の方です」


コリンズ様はまじまじと私を見てから、「ここを動かないで」と言って、ジェローム様に合流した。


「ジェローム班長、スペンサー令嬢が人影が見えたと。どうも、令嬢の『加護』ではないでしょうか。その建物はアジトの二つ隣ですね。こんなに近くにアジトを移したのですかね」


「ふむ。わざと近くにまた潜伏したのか」


ジェローム様たちに建物の影に連れて来られ、荷物置き場の隅に隠れるように言われた。


『お嬢さん、間違いない。その建物だ。中に敵は四人。入ってすぐに一人、上の階に二人、地下に一人だ。抜け道があるかまでは分からん』


地下にいるなんてどうやって伝えたらいいんだ。もう、適当に言ってみよう。


「ジェローム様。私が人影を見たのは二階に二つ。そして一階にも二つ。一つはドアの側。もう一つは動いて何処かに行ってました」


「なに?」


『うむ。お嬢さん、なかなか上手く伝えたな。人数は四人で間違いないようだ。敵数の把握が出来れば有利だ』


コリンズとモーリスと呼ばれた騎士達も隠れて建物を窺った。


「ジェローム班長」


「うむ。人の気配がするな」


「ええ。上手く隠れていますが。複数ですね。スペンサー令嬢が言ったのは間違いないかと」


「最低でも四人か…。コリンズ伝言を。至急増援を頼む」


「は」


「よし。では、スペンサー令嬢はこの裏に隠れておいてくれ。すぐに増援がくる。コリンズは裏に回って裏口で待機。モーリスは私と正面から突入の準備を。スペンサー嬢はこのまま、ここでジッと隠れていて欲しい。絶対に動かないように」


「「は!!」」


「はい」


お願いされても動きません。危険地帯に足を踏み入れる気はない。


『大丈夫だ。危険が迫る前に私が教える。大通りまでの逃げ道は私が案内する』


「危険な場所に来させておいて……」


幽霊騎士を睨みつけると、『ジェローム達と一緒ならば問題はない。それに早く探索をしなければポシェットが何処にあるか分からなかったのだ』


「はいはい」


ふわふわと私の横に幽霊騎士は移動した。


『私はここにいる。ジェロームに着いて行っても役に立たないからな』


「騎士様達、大丈夫ですかね?」


『ああ。大丈夫だ。先程コリンズが伝言を飛ばした。コリンズは「伝達の加護」持ちだ。このくらいの距離ならばすぐに伝言を騎士団に送る事が出来る。すぐに援軍が来るだろう。十人は騎士が駆け付けるはずだ。援軍到着と同時に突入になる。今は逃げないように見張っているだけだ。少人数で危険な事は犯すまい。逃げられたら面倒だからな』


「ほうほう」


『うむ。お嬢さんは絶対に動かないように』


そうやって、話しながら隠れていると、大勢の騎士が静かに建物を取り囲んでいった。



『お嬢さん、援軍が辺りを取り囲んだ。突入するぞ』


幽霊騎士の言葉通り、ドアが破られる音がすると、一斉に騎士達は建物に踏み込んでいった。


建物の中から大勢の声、大きな音が聞こえた。


私は小さく蹲って、道に置かれた荷物の間に隠れた。


『よし、全員取り押さえられる。問題は抜け道と近くに仲間がいないかだが。大丈夫そうだな』


ふわふわと浮いて、私に状況を教えてくれた。


「畜生!!!」


「くそ!!」


そんな言葉が近くで聞こえてくると、見るからに悪そうな人と、私のネックレスを盗った人が縛られ、転がされていた。


『あの者だな』


「はい。ネックレスを盗ったのはそうです。ぷぷぷ転がされていて、情けないですね。私が一発頭突きするのはダメですか?」


『やめておきなさい。勇ましいのは良い事だが、どこで仲間が見ているか分からぬ。恨みの連鎖は早々と断ち切るのが賢い選択だ』


「頭突き一発で許してやろうというのは優しいと思うんですがね」


『そうか、お嬢さんはスペンサーと言っていたな。「薔薇と剣」の娘ならまあ、剣を使わないだけ優しいということか。あの者達は平民。貴族の娘の物に手を出したのだ。余罪もあろう。指を一本落とされる事になるだろうな』


「ほら。私のほうが優しい。仲間が三人もいたんですね」


『お嬢さんのネックレスを盗った時に、仲間が近くにいたようだ。お嬢さんの気を引きつけ、ネックレスを盗り、そのどさくさに紛れてポシェットを別の者が盗ったようだ』


「凄い。悪いのに賢い。なんでその賢さを他の事に使わないのか」


悪い事をこうも上手く考えるなんて。


「王都って綺麗で、キラキラした所と思っていました。でも、暗くて汚い所ですね」


転がった人達は騎士達に連行されていった。


『お嬢さん、どうか王都を嫌いにならないで欲しい。犯罪者が多いのも事実だが、王宮の城下街として栄え、陛下の御許で暮らす民たちには笑顔も多いのだ。光が多くある所には影も暗く出来てしまう。影を無くすことは難しい。我らはその影が少しでも薄まるようにしているのだ』


「いや、王都って勝手に憧れみたいなものを持ってたから、ちょっとがっかりしたっていう感じです」


幽霊騎士は私の前で王宮の方を見ていた。


『お嬢さん、王都を知って欲しい。嫌な部分だけじゃない。北部は治安が良い所が多い。そこには美味しいカフェや甘い物を出している店も多いだろう。南部の平民の街も賑やかで面白いが、貴族女性には向かないかもしれん。が、沢山、王都で好きな所を見つけて欲しい』


「騎士様達には感謝してますよ。おかげで悪者を捕まえられましたからね。王都を嫌いにはなってませんよ」


騎士様と共に女神様にも感謝の祈りを捧げておこう。無事に盗人を捕縛出来たのだから。


『有難う。私は死んでもこうやって感謝を言われた事がとても嬉しい。私は幸せな事が多かった人生だったと思う』


私が女神様に感謝の祈りを捧げゆっくりと顔を上げると幽霊騎士は優しく微笑んでいた。


私が頷くと、コリンズと呼ばれた騎士様が私の所へとやって来た。


「スペンサー令嬢、第二騎士団詰所へ戻りましょう。お供致します。壁を左に、そして私の左側を歩いて下さい」


「有難うございます」



『コリンズの父親は私と同期だった。こいつは私が肩車をした事もある。皆、立派になった』


優しい目でコリンズ様を見つめる幽霊騎士様はふよふよと私達の前を先に進んでいった。









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