男子会議 最初
某月某日、とある会議室にて。
空山夜闇「俺だ。空山夜闇だ」
百留堅谷「(緊張中)」
岡地友空「(緊張中)」
宇賀地池戸「(緊張中)」
夜闇「君たちには今日から、プロジェクトベストキュンキュンに参加してもらう。なおこのプロジェクトは現在極秘事項だ。このプロジェクトが成功するまでの間、決して内容を外部に漏らしてはならない。いいな?」
堅谷「はいっ」
友空「はいっ」
池戸「はいっ」
夜闇「よろしい。では、早速ベストキュンキュンとは何か、説明する。ベストキュンキュン、それは、最も異性がキュンする言葉を選び、決める、一大プロジェクトだ。俺たち声優が、魂をこめたセリフでどれだけレディー達の心をつかめるか試される場というわけだ。だが、このベストキュンキュンを成功させるためには、言うべきキュンキュンセリフが必要だ。なのでまず、君たちにはこれから、全国のレディー達にキュンキュンしてもらえそうなキュンキュンセリフを考え、集めてもらう。ここまでは、いいか?」
堅谷「はいっ」
友空「はいっ」
池戸「あの、そのキュンキュンセリフって、俺たちも言うんですか?」
堅谷「!」
友空「!」
夜闇「一応今のところ、事前にレディー達からの投票で多かった、上位8名がスタジオに呼ばれて、観客として来てもらったレディー達に向けて言うことになっている。なので、声優なら誰にでもチャンスがある。更に、君達にはベストキュンキュンの関係者として、本番でも少し働いてもらう。その際テレビに出ることもあるだろう。今のところ俺が言えることは、それくらいだ」
池戸「はいっ、俺、がんばります!」
堅谷「お、俺もがんばります!」
友空「俺もがんばります!」
夜闇「そうか。ありがとう、皆。それでは、今後この会議室で、三人でキュンキュンセリフを考えて集めてくれ。そして決まったキュンキュンセリフは、このキュンキュンセリフノートに書きまとめてくれ。それでは俺は、他に用事がある。後日またここに来た時、君たちの成果を見せてもらう」
堅谷「はいっ」
友空「はいっ」
池戸「はいっ」
夜闇「なお、このベストキュンキュンでは、レディー達も別会議室で、男性がキュンとくるセリフを考えている。なので、決して彼女たちにキュン度で負けるなよ」
堅谷「はいっ」
友空「はいっ」
池戸「はいっ」
夜闇「では、俺はここで去る。お前たちも、頃合いを見て自由に帰ってもらってかまわない。ただし、明日以降もこの会議は行ってもらうし、絶対成果は残せよ。いいな?」
夜闇、帰る。がちゃん、ばたり。
堅谷「キュンキュンセリフってなんだよ」
堅谷、いきなりだれる。
友空「俺も、正直あんまりわからない」
池戸「とにかく、男が言って、それで女性がキュンってする言葉を考えるんだよ。更にこの時間は、明日以降もあるらしい。だから最初から真面目にやろうぜ」
堅谷「頼みます、池戸さん。正直俺には、何をどうすればいいのかわかりません。他人だけが頼りです」
池戸「まさかいきなり自己申告による戦力外報告とは」
友空「たぶん俺も、同じだと思う」
池戸「その前にさ。まずは、俺たち名前を呼び捨てしあおうぜ。口調もフランクに。その方が一致団結できると思うんだよね」
堅谷「あー、そうか。なんの力にもなれないとは思うが、俺はそれでいいぞ」
友空「俺も、それでいい」
池戸「よし。それじゃあ、堅谷、友空。誰か彼女いる?」
堅谷「いない」
友空「いない」
池戸、うなだれる。
池戸「俺もいない。くそー、全滅かー」
堅谷「いや、池戸が言い出したんだろ。勝手に落ち込むなよ」
池戸「よし。それじゃあ皆、もし自分に彼女がいたらと仮定しよう。それは凄くむなしいことだけど、きっと今回はそれが鍵だ」
堅谷「なんだ、むなしいのが鍵か?」
池戸「違うよ。もし彼女がいたら言いたいこと。それを言ったら、彼女はますます俺にほれて、照れたりじゃれあったりしてくるの。そういうキュンセリフを、今から考えるの」
堅谷「うわ、キショ」
友空「彼女、彼女かあー」
池戸「とにかく、何か言わなきゃ何も進みません。まず俺が言うから、二人共、俺の後に続いてくれよ」
堅谷「いいや無理だ」
友空「努力はする」
池戸「よし。それじゃあ宇賀地池戸、キュンキュンセリフ、言います。お前のこと以外、考えられない!」
堅谷「こわっ!」
池戸「えっ。友空も、そう思う?」
友空「どちらかというと、たしかに思われようが怖いんじゃないかな」
池戸「うあー、ダメかー」
堅谷「きっとそんなこと女の子に言ったら、今後一生話しかけられないぞ」
池戸「そこまでダメかー」
堅谷「池戸は彼女作ったことないのか?」
池戸「しょ、小学生の時、2回だけ」
堅谷「それは男と女の関係じゃねえだろ。口説き文句もねえはずだ」
池戸「その通り、だ。参考にならず申し訳ない」
堅谷「言い方がダメなんだよ。そうだな。ずっとお前と、一緒にいたい。とか、どうだ?」
池戸「ん、おお。それ、いいんじゃない?」
堅谷「いいか。それじゃあ、これがキュンキュンセリフってやつか!」
池戸「俺は全然キュンしないけど、きっと彼女がいたら、そんなこと言ったら良い感じになれるぞ!」
堅谷「け、経験者じゃないからな。そう言われても微妙だ。けど、とりあえずはまずこれで一個決まりなんじゃねえか?」
池戸「そうだな。友空も、キュンキュンセリフってことでいいか?」
友空「うん。いいよ」
堅谷「そうか。それじゃあ、早速一つ決まりだ」
ずっとお前と、一緒にいたい。
キュンキュンセリフに決定!
池戸「これで一つ決まったな。なんだやれるぞ俺たち。この調子でどんどんいこう!」
堅谷「それじゃあ、これでもう全部いいんじゃねえか? 正直、俺はもう考えられねえぞ」
池戸「堅谷、そう言うなって。今のところ、キュンキュンセリフを考えられたのは堅谷一人だけなんだ。つまり、お前だけが頼りだ」
堅谷「めんどくせえことを俺におしつけるんじゃねえ」
池戸「これは俺たち三人が任されたことだ。やるからには、俺たち三人一丸となってやろう。もちろん俺だって、負けずに更に一個2個と、思いついてみせる」
堅谷「なら池戸だけ頑張ればいいだろうが」
池戸「はいはい、勝手に決めるな。それに、もしやる気がないのなら、俺は今度夜闇さんに会った時、そのことをチクる。堅谷も、一個だけ考えたからってそれが十分な活躍になるとは思ってないだろ?」
堅谷「くっ」
池戸「友空も、思いついたらなんでも発言してほしい。俺だってダメダメでも何かは言ったんだ。おんなじように気軽に挑戦してくれよな」
友空「わかった。じゃあ」
池戸「ん?」
友空「二人が案を言ったから、次は俺が言うよ」
池戸「ああ、是非そうしてくれ」
友空「自信は、ないけど。明日も、君と一緒にこの景色を見よう」
池戸「うーん。良いんじゃないか?」
堅谷「どこがだ。全然よくねえだろ」
友空「そう」
池戸「そうか。って堅谷、ちょっと言い過ぎじゃないか?」
堅谷「辛口審査の方があとあと良い時もあるだろ。俺たちが考えた案が全部ボツだった後、きっと俺はもう顔出さねえ。なあなあで甘えながら決めても意味ねえって」
池戸「そうかもしれないけど、もっと言い方があるだろう」
堅谷「悪いな。これが俺の素だ」
友空「(若干下を見ている)」
堅谷「ま、まあ、一個考えた俺が言うのもなんだけどよ。ええと、明日も君と一緒にこの景色を見よう。だっけか? それだとちょっと、場をつないでるだけって感じしねえか? 良い雰囲気出てるっぽいけど、きっと心に響く程じゃねえ。キュンキュンセリフって言うからには、もっと真正面から言ってガツンとハートに効くような決めゼリフが良いと思う」
池戸「なるほど」
友空「(うなずく)」
堅谷「まあ、なんだ。もう一個は決まったんだ。焦らず考えりゃいいじゃねえか」
友空「わかった。そうだね」
池戸「よし、それじゃあ皆一回ずつ言ったな。ならもう一回、俺から言おう!」
堅谷「言うのはいいが、良さそうなの考えてからにしろよ」
五分後。ああでもないこうでもない。
十分後。ああでもないこうでもない。
二十分後。ああでもないこうでもない。
堅谷「いい加減飽きてきたなあ」
池戸「むう、思った以上に難しいなあ」
堅谷「やっぱ、こういうのはプロに任せた方がいいんじゃねえか?」
池戸「俺もそう思うが、これは部外秘のプロジェクトだぞ。今日ここで俺たちに教えられた以上、俺たちが頑張る必要があるんじゃないか?」
友空「あの、考えたんだけど」
池戸「ん?」
友空「キュンセリフの中身、一言一言を、まず考えてみればいいんじゃないかなって」
池戸「それだ!」
堅谷「めんどくせえなあ」
池戸「ナイスだ友空。その通りだ。堅谷も、今はこれを考える時間なんだから、最後まで頑張ってくれ」
堅谷「で、その一言っていうのは、例えばなんだ?」
友空「えっと、愛とか、恋とか」
池戸「なるほど。愛、恋。ホワイトボードに書いてみよう」
池戸がホワイトボードに大きく、愛、恋の二文字を書く。
池戸「次は、この愛か恋につながる言葉だな。例えば、愛してる。恋してる。愛が大事。恋の病」
池戸が愛と恋の下に縦線を書き、その二本線より左側に、が大事。真ん中に、してる。右側に、の病と書く。
堅谷「わけわかんねえな」
友空「たぶん、愛だけにつながる言葉、どっちにもつながる言葉、恋だけにつながる言葉の三種類に分けてるんだと思う」
池戸「友空、ナイス説明。まあそういうことだ。さあ、二人共。思いついた言葉をどんどん言ってくれ」
池戸はそう言いながら、真ん中に更に、本気で。を追加する。
堅谷「思いつくって言ったってよお。あー、じゃあ、初めての。とかどうだ?」
友空「永遠とか、真実とか?」
三人はそれぞれ意見を出し合っていく。そして。
池戸「ふむ。いろいろ考えた結果、君の全てを愛してると、君の全てに恋してる。この2つが最有力候補となったな」
三人はなんとか候補をしぼることに成功した。
堅谷「どっちもキュンセリフの候補でいいんじゃねえか?」
池戸「いいやそれはダメだ。どっちも愛か恋かが違うだけだろ。これを2つの案なんて言ったら、まず必ずダメ出しが返ってくる。ここはどっちかに決めよう」
友空「どちらかを選ぶなら、どちらが優れているか、比較する必要があるね」
池戸「そう。友空の言う通りだ。で、皆、どっちが良いと思う?」
堅谷「そもそも、愛と恋ってどう違うんだよ?」
池戸「言い方」
友空「(首を横に振る)」
堅谷「誰も愛と恋の違いがわからなかったら、優劣のつけようがねえぞ」
池戸「それならそれでいい。そもそも愛にも恋にも優劣の差はない!」
堅谷「じゃあこの話しはここまでじゃねえか」
友空「あ。ひょっとしたら、愛は与えるもの、恋は求めるものなのかも、しれない」
堅谷、池戸「!」
堅谷「そうか、そういう違いなのか」
池戸「ナイスだ友空。ひょっとしたらこの中で友空が一番恋愛がなんたるかをわかっているのかもな」
友空「そんなこと、ないよ」
堅谷「そういうことなら、決まりだな。きっと女は、求められるよりも与えられる方がキュンってくるだろ。だから、恋より愛だ」
池戸「ん、はたしてそうだろうか? 与えられるのが一方的で終わるなら、求める方が次の展開には相互になりたってないか? そこにひょっとしたらキュンの未知の力が隠されているかもしれないぞ?」
堅谷「おま、終わる時のことを考えるなんて、ありえねえだろ。大体、女だってもらえるもんはもらえた方がうれしいだろ。俺だったら絶対そうだぞ」
池戸「そうか。つまり堅谷は愛派、俺は恋派ってことだな?」
堅谷「あ、ああ。そうなるかもな」
池戸「だとしたら、後は友空の一票で決めよう。何、どっちのセリフも同じくらいイケそうだと感じてるんだ。だったら後は多数決でもいいだろ?」
堅谷「まあ、そうだな。よし、友空。選べ」
友空「え、俺が決めるの?」
池戸「その通り。さあ、友空、選んでくれ」
堅谷「こういうのは直感でいいんだ。深く悩むことなんてないんだから、パッと決めろよ」
友空「うーん、うーん」
堅谷「友空って、あれか。なかなか自分で決められないタイプか」
池戸「みたいだな」
友空「よし。じゃあ、言ってみよう」
堅谷「お?」
池戸「お?」
友空「実際に声に出して言ってみて、どっちがいいか決める。直感で決めていいなら、それが良いと思って」
池戸「その通りだ。友空、俺達は声優だしな。自分の声を信じろ!」
堅谷「ここにキュンセリフか判定できる女は一人もいないけどな」
友空「うん。じゃあ、君の全てを愛してる。君の全てに恋してる」
数秒後。
堅谷「なんかさあ。愛の方って、一方的な通達みたいに聞こえねえか。ていうか、少し重い気がするんだが」
池戸「堅谷がそう感じたんなら、そうなんじゃないか?」
堅谷「例えば、彼女にどっちかの言葉を言うとして、まあ、今彼女がいない身としては悲しい妄想なんだが。とにかく、恋してるって言った方が、その後チューしやすくね?」
池戸「チュー?」
友空「チュー」
堅谷「チューしやすい雰囲気の方が、キュンセリフってやつになるんじゃねえか?」
池戸「なるほど。つまり、堅谷も今は恋を推すわけだな?」
堅谷「まあ、今となってはな」
池戸「よしわかった。じゃあこれで、恋に二票だな」
友空「あ、それじゃあ、多数決で終わり?」
池戸「いやあ、せっかくだから友空も意見を言ってくれ。理由によっては、まだ一考の余地があるだろ。ここまで皆で考えたんだ。最後まで一丸となって決めよう」
友空「うん。じゃあ、俺も恋してるで」
池戸「よし。それじゃあ決まり。の前に。友空も自分で言って決めたんだし、俺たちも自分で言ってみて、最後の確認としよう。じゃあまず俺から。ごほん。君の全てに恋してる」
堅谷「あー、いいんじゃね?」
池戸「次は堅谷が言うんだよ」
堅谷「俺も? 仕方ねえなあ。君の全てに恋してる」
池戸「よし、それじゃあ最後は友空!」
友空「え、俺もまた言うの?」
池戸「言って損はないだろ?」
友空「うん。それじゃあ、君の全てに恋してる」
池戸「よし、いけるな。これで女の子は、キュンキュンするな!」
堅谷「あー、そうだなー、たぶん」
友空「(うなずく)」
池戸「よし。それじゃあ決まり。2つ目のキュンキュンセリフは、君の全てに恋してるだ!」
君の全てに恋してる。
キュンキュンセリフに決定!
池戸「それじゃああと、ついでだから、ずっとお前と、一緒にいたい。も皆で言っておこう!」
堅谷「えー。いいんじゃねえか、別に」
池戸「いいや。念のために言っておくべきだ。ずっとお前と、一緒にいたい。ほら、堅谷も言って!」
堅谷「ちっ。仕方ねえなあ。ずっとお前と、一緒にいたい」
友空「ずっとお前と、一緒にいたい」
池戸「オッケー。友空もナイス!」
堅谷「これがこの後も続くのか」
友空「結構きついね」
池戸「そんなことないさ。最初はちょっとやりにくかったとしても、だんだん慣れてくるって!」
堅谷「それはそれで嫌だな」
友空「でも、できるだけは、頑張る」
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