侯爵令嬢の作ってきた脚本はやっぱり私を主人公にしたものでした。
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翌朝、目に隈を作ったイングリッドがエルダと一緒に訪ねてきた。でも、なんだかイングリッドの表情はやりきったという満足感がにじみ出ていた。
「見て見て! アン、やっと脚本が出来たの!」
喜んだイングリッドが手に持った脚本を渡してくれた。
でも、私はその表紙を見て固まったのだ。
題名は『セカンディーナの赤いバラ』と書かれていた。
えっ、いきなり題名からして、なんか変だ。セカンディーナって母国のスカンディーナを少しもじっただけだし、赤いってひょっとして私の髪の毛のこと言っていないよね。
何か不吉な予感がそのまま的中したような感じがするんだけど。
私は脚本をパラパラめくると、隣国を追放された赤毛の元王女のヒロインが、隣国の学園に留学してきてクラスの皆に虐められるが、なんとか仲直りをして最後は攻撃してきた簒奪者を倒して自分の国に復帰するというものだった。
「ちょっと、イングリッド、このヒロインってこれってどう見ても私じゃないの?」
私が脚本を手に持って言うと、
「あああら、アンって自意識過剰ね。決してそんな事ないわよ」
イングリッドはとぼけてくれるんだけど。
「でも、赤毛じゃない!」
「髪はたまたまよ」
「セカンディーナって、スカンディーナのスの文字を一文字後ろにずらしただけじゃないの?」
「それもたまたまよ。名前を考えるのが面倒くさくて」
「それにベルーノも一文字ずらしただけじゃない」
「それもたまたま」
「そんなの通用するわけないじゃないでしょ」
私が言うが、
「もう、アンは何言っているか判らないけど、絶対に皆に受けるに違いないわ」
イングリッドは自信に満ちて言うんだけど。
「今度こそ、3年A組に勝って学園一位になるんだから」
目を怒らせて、希望に満ちた表情でイングリッドは言うんだけど。
今回の学園祭の出し物の演劇も全学年クラス対抗戦だ。一学期の球技大会で3年A組に負けた屈辱がイングリッドにまだ残っているらしい。
まあ、でも、あれは魔力量の多い3年生に負けるのも仕方がないんじゃないかと私は思うんだけど。
「ふんっ、この演劇は魔力量は関係ないのよ。それにいま巷で大流行しているのはアンを主人公にした演劇じゃない。こちらは何しろ本人が演じるんだから絶対に3年生にも負けないって」
「ちょっと、イングリッド、やっぱり私のことじゃない!」
「アンは煩いわね。そんなの見ただけでわかるでしょ。でも、巷もそうなんだから良いじゃない」
イングリッドは今度は開き直って言ってくれた。
「アンには悪いけど、両親を殺された可哀想な可憐な王女様が主人公って受けるよね」
エルダまで言うんだけど。
「そうよ、ここで憎き敵国の意地悪王女を撃退して、その父親をもやっつけるのよ。もう受けること間違いなしよ。それも演じるのは実際に本人だし。これで優勝出来ないと嘘でしょう」
イングリッドが応じる。
「いや、私演技なんてしたことないし」
「あんたはいるだけで十分に面白いわよ」
はあああ! それって演技となんにも関係ないわよね。エルダもそこ頷くな。絶対に変!
それよりも、こんなの絶対に外交問題になるだろう。
クラスの皆も反対するに違いないわ。
私はそう思ったんだけど、クラスの反応は違った。
「いや、これいいんじゃない」
「本当に良いと思うわ」
「あの、憎たらしい王女をギャフンっといわしてやるのよ」
アルフを筆頭にドーソンもメリーも賛成するんだけど。
「いやでも、これは流石に国際問題になるのでは」
私は皆に言うんだけど、皆、全く賛成してくれないんだけど。
「いや、絶対にまずいって」
私がそう言うんだけど、皆聞いてくれない。
「そうだ、これは良くない」
後から来たフィル様がやっと賛成してくれた。そうだ。さすが王太子殿下。これは国際問題ですよね。
「イングリッド、この、最後! 何故、王女が王子を捨てて、自分の騎士を選ぶんだ」
ええええ! そこが問題なの。私はフィル様を見た。
「仕方がないでしょ。だって傲慢王女からの決闘の申し出をアンの代わりに受けたのは、フィルでなくてメルケルなんだから」
さも当然のようにイングリッドが言うんだけど。
「何だと、いつまでその事を根に持つんだよ」
「あーーら、殿下ともあろうものが、一度失敗したら、二度目はないんですのよ」
イングリッドは腰に手を当ててフィル様を見下して言い切ったのだった。
フィル様が唇を噛んで両拳を握って耐えているんだけど。
その横では赤くなってメルケルが立っているし、何なのだ、これは。
いやいやいやいや、今悩むところはそこなの?
私の心配を無視してそのまま役決めのホームルームに突入したのだった。





