殺された騎士の息子視点2 正当な王女の代わりに反逆者の娘と戦おうとしました
俺はオースティンとの国境の街、ヴァルドネル伯爵領に転移させられていた。
直ちに伯爵のことに連れて行かれたのだが、俺が正直に話すと、俺の父のことも伯爵は知っていたみたいで、最終的に俺のことは信じてくれた。
そして、伯爵は前国王と王妃の娘のアンネローゼがオースティン王国に生きていることが判明したと教えてくれた。そして、伯爵の息子の二クラスと一緒にアンネローゼのいるオースティンの王立学園に留学してアンネローゼ様と親しくするように言われたのだ。
俺としては前国王の娘が隣国で安穏と生活していたと聞いても、それがどうしたって感じだったのだが、伯爵としてはなんとしても反抗勢力の中核にアンネローゼが必要らしい。
まあ、ここにいてもすぐにどうしようということはないし、俺は素直に伯爵の言うことを聞くことにした。学園なんて生まれてこの方行ったことはなかったので、どんな所か興味があったのも事実だ。
スカンディーナはこのところの凶作と圧政で、国の中は悲惨な状況になっていたが、平和な状態が続いているオースティン王国は、豊かで人が溢れているのに驚いた。前国王の娘は俺たちが死にもの狂いで戦っている中で、こんなところでのうのうと生きていたのか!
俺は怒りで叫びたくなった。
どんな奴なんだろう? 俺たちが苦しんでいる間に何も苦労知らずに暮らしているとは!
俺はその娘を許せないと思っていたのだ。そう、その場面を見るまでは
早めに学園に来た、俺たち留学生は校内をぶらぶら歩いていた。訓練場の横に来た時だ。休み中にもかかわらず、使っているものがいるようだ。
「アン、反応が遅いぞ」
叱声と同時に、爆発音とともに虫けらのように女の子が吹き飛ぶのが見えた。
その赤毛の女の子はもうボロボロだった。服も黒焦げだらけ、顔中煤だらけだ。
王立学園は凄い。こんなに、死にそうになるまで訓練するんだ。それも女の子がだ。俺にはカルチャーショックだった。これに比べれば俺たち反乱勢力の訓練なんて幼年学校の演習に毛の生えた様なものだった。
更に次の老人の言葉に俺は唖然とした。
「どうしたのだ。そんなことではブルーノには勝てんぞ」
老人が言う言葉に
「すいません」
そう言うと女の子は立上ったのだ。
そう、赤毛にグレーの瞳、聞かされていたアンネローゼ様の特徴そのままだった。
俺は唖然とした。この豊かな国でのうのうと生活しているだ? 周りに傅かれて好い目をしているだ? 全然違うじゃないか。アンネローゼ様は訓練で今にも殺されそうだ!
「行くぞ」
老人がそういうと、爆裂魔術を次々と放つ。それをアンネローゼ様は必死に障壁で防ぐ。
しかし、少しでも遅いと、爆裂魔術がアンネローゼ様をかする。アンネローゼ様はもう、傷だらけになっていた。
その老人は俺たちが見てもとても能力の高い魔術師だった。四方八方から次々にアンネローゼ様に攻撃を仕掛けてくるのだ。
アンネローゼ様は必死にそれを躱し、障壁で防いでいた。
俺はそれをただただ柱の陰から見ていることしか出来なかった。
こんなにやられたら死ぬんじゃないか、と言うほどの攻撃を受けてもアンネローゼ様は耐えているのだ。それも俺らの敵のブルーノに対抗するために。
俺は自分の認識の甘さを思い知ったのだ。のほほんと暮らしていたのは俺達だったのだ。俺はブルーノに対抗するためにここまでの訓練なんてしていなかった。
俺はその後、周りに王女殿下のことを色々聞いた。
なんと、殿下は一度はスカンディーナの大使に攫われて、そして、もう一度はなんと最強の魔道士、ブルーノに襲われてたことがあるのだというのだ。それも、それを一人で防いだと言うではないか。俺だったら今頃は何度死体になっていただろう。
それを俺と同い年の少女がしているなんて、それも、俺たち以上の訓練しているなんて知りもしなかった。
俺はもっと必死に訓練しようと心に決めたのだ。アンネローゼ様に恥ずかしくないくらいには。
そして、始業式の前日俺は、ブルーノの娘がこの学園にやってきたことを知ったのだ。
何しに来たのだ?
そんなのは考えるまでもなかった。アンネローゼ様を潰すためだ。最悪殺そうとするだろう。何故オースティン王国がそれを許したかよく判らなかった。
俺はいざという時は王女殿下の盾になろうと思ったのだ。
まあ、所詮ブルーノの娘だ。本人と違って大したことはないだろう。
アンネローゼ様と違ってこいつはあまちゃんだ。そんな訓練もしていないに違いない。
始業式の前に、その娘とアンネローゼ様が対立した。
でも、この国の王太子殿下がアンネローゼ様を守ってくれているのだ。
そして、周りにはAクラスの面々が娘を睨みつけていた。俺の出番なんて無いのでは。
そして、娘がいかにあまちゃんなのかはテストの点数で判った。物理が0点だ? 例題くらいやっておけよ。こいつはバカ以外の何物でもないだろう。俺でもそれで取れたのに。スカンデーナの名を汚すために来ているのか?
平民の俺がA組にいるということはB組のこいつは余程馬鹿だったんだろう。王女で王宮でのほほんとしていたくせに。こんな奴らのために俺たち国民が苦労しているのか。
俺は本当にアンネローゼ様に帰ってきて欲しくなった。
この娘は何をトチ狂ったか、その父のブルーノが俺の父が守った国王陛下を暗君でそれに我慢できなくなって殺したとか言ってやがる。
元々陛下もアンネ様も名君になると言われていたんだよ。
愚かな貴様の父がアンネ様に横恋慕して、側妃に唆されて反逆起こす前まではな。スカンディーナでは小さい子供でも知っていることを何故知らないんだ!
愚かな娘はアンネローゼ様に決闘を申し込んできやがった。お前では勝てない。お前の父でも撃退されたのだから。
というか、こいつは俺の親の仇の娘だ。俺が仇をとってやる。
咄嗟に俺は娘が投げた手袋を掴んでいた。
「な、何するのよあなた」
娘は慌てて言った。
「テレーサ・カッチェイア、貴様の決闘、このメルケル・シーデーンが受けてやるぜ」
俺は言ってやった。
「反逆者の娘、テレーサ、お前のことなど正当な王女殿下の手を煩わすまでもない」
そう、俺は本当にそう信じていたのだ。
俺が勝てると。俺はこの女が魔術馬鹿だとは知らなかったのだ。