始業式の前に、クラスの留学生が私の代わりに王女と決闘することになりました
お忙しい中ここまで読んでいたただいてありがとうございます。
な、なんで親の仇がここにいるの?
ひょっとしてまた私を殺しに来たの?
私は本当にギクッとした。
「これは王太子殿下。またご挨拶ですわね。反体制派の者ばかり留学を許可されて、私を拒否されるなど酷いではないですか」
テレーサは妖艶な笑みを浮かべて言ってくれた。そうなんだ。フィル様はそうやって私を庇ってくれようとしたんだ。その事を知って、私はフィル様に手間を取らせて申し訳ないと思う反面、私のことをフィル様がそこまで大切に考えてくれている事を知ってとても嬉しかった。
「殿下。そのような不公平なことは外交問題なると、父が陛下に掛け合って許可していただいたのです」
横からB組の伯爵令息がしゃしゃり出てきた。確か外務卿の息子だ。前の球技大会の前に、私にわざとぶつかって来た奴だ。
「勝手なことを」
「どちらが勝手なのですか。殿下にも色々お有りかも知れませんが、今のスカンディーナの王女殿下はアンではなくて、テレーサ様なのです」
怒ったフィル様に外務卿の息子のマックス・ステニウスは言い切った。まあ、それは事実そうなのだ。
「何を勘違いして言うのか知らないが、テレーサ嬢を拒否したのは学力の最低ラインに達していなかったからだぞ」
「えっ」
テレーサが固まっていた。理由を知らなかったらしい。
「えっ、でも、聖女様も点数は達していなかったはずでは」
フィル様の氷のような言葉にマックスは必死で言い募った。
「その件は教会の大司教に聞いてくれ。俺からは何も言えん」
フィル様が口を濁した。
「ちょっと皆、何私を見てくれるのよ。私は聖女様よ。そちらのどこの骨ともわからない、王女と一緒にしないで」
何かピンク頭がとんでもないこと言っているんだけど。
「おいおい、隣国の王女にどこの馬の骨かわからないって言えるって、流石にピンク頭は凄いよね」
アルフとかは感心していっているんだけど。
「聖女は特別扱いで、隣国の王女殿下が認められないということはおかしいのではありませんか?」
「俺は別にかまわないが、お前は我が学園がいかに厳しいか判っているのか? 王女だからと言って入学したら手加減はされないのだぞ。聖女の場合は大司教とかが10人がかりでつきっきりで補講してやっと落第を逃れているのだ。隣国の姫様がそれに耐えられるのか? ちなみに物理の点数は0点だからな」
「いや、殿下。我が国の物理は難しいのでは」
「元々物理が出るのは募集要項にははっきり書かれている。ちなみに最低点数が取れるように募集要項に出ている例題がそのまま出ているのだぞ。それで0点なのだ。他の留学生は全員取れているのにもかかわらずだ」
「・・・・」
流石にマックスも何も反論出来なかったみたいだ。
「殿下、私の魔術の成績は学年一では無いのですか」
「編入試験に魔術は関係ない。我が学園はいかに魔術に優れていようと学力不足の者は入れないのだ」
王女が必死に言ってくるが、フィル様は即座に否定した。
「そんな、平民のアンが許されて王族の私が許されないなんて、差別ですわ」
目を吊り上げてテレーサが言っているんだけど。
「何かめちゃくちゃ美人だと思ったのに、アンと違って残念美人だったんだ」
アルフの言葉に男子の間ではテレーサのあだ名は残念美人になってしまった。
私達女子の間では魔術馬鹿になったのだ。学力からっきしだめで魔術しか出来ないからそうなってしまったのだけど。本人は知らないとは思うけど。
「何言っているか判らないが、アンが何故平民あつかいなのにA組か理解していないみたいだな」
「あなたの婚約者だったからでしょ」
「違う。入学の時はそもそも知らなかった。アンはお前と違って入学試験の成績がトップだったからだ」
「えっ」
私はフィル様の言葉に驚いた。
「そんな、同じ血が混じっているはずなのに」
テレーサは混乱していった。まあ、確かに従姉妹だけど、
「何を言う。お前にはアンネ様の血は一滴たりともまじっていないだろうが。アンネ様も学力はトップ入学だった。更には彼女はアンと違って礼儀作法も完璧だったそうだが」
ちょっとフィル様、余計なことを言わないでよと私は思わないでも無かった・・・・。
「ちなみにお前の父のブルーノ殿も入学試験の成績は下から2番めだった。お前は更に下だけどな」
冷酷にもフィル様はブルーノの過去もバラしてくれていた。
「な、何ですって。そ、そんな馬鹿な」
テレーサは手をわなわな震わした。事実を突きつけられて頭が混乱しているみたいだ。
「ふんっ、成績が良くても殺されて、娘に苦労させていたら何にもならないじゃない」
「な、なんだと。弑逆した犯人の娘がそれを言うのか」
そう言うテレーサをフィル様がきっとして睨みつけた。
「な、何ですって、私の父は暗君を正すためにやむを得ず、剣に手をかけたのよ。脳天気なそこのアンの両親のせいでね」
な、何ですって、そんな言い訳する? 私は完全にぷっつん切れた。もう許さない。
「勝手なこと言わないで。あなたの父親は私の母に横恋慕して、その頃あなたのお父様の愛人になっていた父の側妃のドロアーテに唆されて反逆に手を染めたんじゃない」
私は言い切った。
「何ですって。よくそんな嘘言うわね。自分の父が無能だからって言って良いことと悪いことがあるわ」
「勝手なことを言っているのはあなたでしょ。スカンディーナの人間なら誰でも知っていることよ」
「何、言うのよ。判ったわ、アン・シャーリー。これは決闘よ」
そう言うとテレーサは手袋を私に向けて投げてきたのだ。
古の決闘の申込みだった。
えっ、決闘ってまた古風なことを言ってきたものだ。私は驚いた。
それも女が言ってくるなんて信じられなかった。
私は一瞬躊躇した。負ける気はしなかったが、勝手に受けたものかどうか悩んでしまったのだ。
その間にフィル様がその手袋をつかもうとした時だ。
そのフィル様よりも先に男が手を伸ばして掴んでいた。
私は驚いてその男を見た。
学生服を着ているところを見るとこの学園の学生だが、私は見覚えがなかった。
「な、何するのよあなた」
テレーサは慌てて言った。
「テレーサ・カッチェイア、貴様の決闘、このメルケル・シーデーンが受けてやるぜ」
私の眼の前の男が名乗った。確か今月からスカンディーナから私達のAクラスに転入してきたクラスメートのはずだ。
「反逆者の娘、テレーサ、お前のことなど正当な王女殿下の手を煩わすまでもない」
「何ですって、あなた、アンを庇うなんて反逆勢力の仲間ね。良いわ。私がぼろぼろにしてやるわ」
「いや、ちょっと」
私が二人を止めようとした時だ。
「そこ、いつまで騒いでいるの。いい加減に席に付きなさい」
そこにルンド先生がやってきたのだ。
皆慌てて席についた。
でも、二学期はいきなり決闘から入ることになったんだけど、それも私が聞き流しておけば良かったのに、余計なことを言ったからだ。
でも、反省したがもう遅かったのだ。