閑話 王太子視点7 婚約者は誰にも渡しません
俺たちは完全に油断していたのだ。
侯爵夫人が大使館で暴れている間に、ブルーノが学園に潜入してくるなんて思ってもいなかった。
学園でアンがブルーノに襲撃されたと聞いて俺は慌てて帰還した。
帰還した時にはすべてが終わっていた。アンは、なんとあのブルーノの襲撃を撃退したのだ。さすがガーブリエルの一番弟子ということか。
でも、アンは傷だらけだった。
直ちに教会にアンの怪我を治すように申し出たが、聖女が嫌がっていると言う。俺は完全にキレた。もう教会は許さない。苦しむアンを救わないとは、あの聖女は絶対に許さないと。
どうしようかと画策している時に、泣き叫ぶ聖女を連れてクリスティーンが来臨したのだ。
さすがクリスティーンだ。容赦はなかった。
嫌がる聖女を脅したクリスティーンは、無理やりアンに向けてヒールを出させていた。
それから小一時間してアンが意識を取り戻して俺はホッとした。ちょっとはしゃぎすぎてルンド先生に怒られはしたが・・・・。
アンが元気になるまで、3日ほど、保健室にいたのだが、アンはとても人気者だった。いつもクラスメートが次々に見舞いに来ていた。そして、その中には男性陣も結構いるのだ。
それでなくても、俺との間は、アンは平民だからとか、スカンディーナの仲を考えると俺との婚約は破棄した方がいいとかいう奴がいるのだ。
そんな奴らに俺とアンの仲を邪魔されて、他の奴にアンを取られたらたまらない。
もう俺はなりふり構っていられなかった。
俺は早速、いろんな出版社に今までのアンと俺の情報を流したのだ。
両親を殺されたアンがいかに健気に生きてきたか、そして、そのいなくなった婚約者を俺がどれだけ探したか等々。
そして、一斉に出版させたのだ。
それと並行して芝居でも上演させた。
それはあっという間にベストセラーになったし、興行も大成功だった。
これで、うるさ型の貴族たちを黙らせるのだ。元々、オールソン公爵家もバーマン侯爵家もカールソン公爵家もアンの味方だ。こうなったらこっちのものだった。
世論を味方につけて王妃も黙らせて、婚約の続行を渋々、承認させた。
そして、今日はサマーパーティーだ。
俺はアンの母に頼み込んで、俺の瞳の色のドレスに俺の髪の色の飾りをつけてもらったのだ。俺の衣装もアンの瞳の色にアンの髪の色のネクタイを付けた。
誰が見てもバリバリの相思相愛の衣装なのだ。
エルダは生暖かい視線でこちらを見てくるし、イングリッドなんて
「フィル、ちょっと、アンを囲い過ぎなんじゃない」
と文句を言われたが、がそんなのは知ったことではない。
1曲目をアンと無事に踊りだすのに成功した俺だが、曲の終わりとともに、アンに男どもが群がって来たのだ。何故だ?ここまでしているのに!
しかし、俺はアンを渡すつもりなんてサラサラ無かった。
強引にアンと2曲目を踊りだす。
男どもの失望した様子にざまあみろだ。アンは皆に人気がありすぎるのだ。
俺は周りの者達を牽制するためにその日はずうーーーっとアンとくっついていた。
そして、今、疲れたアンを椅子に座らせて、俺は給仕からソフトドリンクのグラスを2つ取る。それをアンに渡して、そして、もう一人からはアイスクリームのカップを一つ取った。
そして、アイスクリームをすくう。アンはそれを見ていた。
「ごめん、手が塞がっているよね」
俺はそう言うとアイスクリームの載ったスプーンをアンの口の前に自然に持っていったのだ。
「はい、アン」
そう、アンに飲み物を2つ手に持ってもらって手が使えないようにして、自然とそうなように持っていったのだ。
アンは何も考えずにそれを食べてくれた。やった!
黄色い悲鳴が聞こえるが、知ったことではない。
アンも流石に食べさせられたと気付いたみたいだ。真っ赤になっていたが、
「婚約者なんだからこういうのは普通だよ」
俺はそう言い切ったのだ。
「えっ、フィル様それは本当ですか?」
アンは疑い深そうにしていて、それ以来食べてくれないので、仕方なしに、手に持つものを交換する。
アンは美味しそうにアイスクリームを食べていた。
そのアンの前で口を開けてみたのだ。
アンがそれを見て固まったが、
「あれえええ、俺も一度食べさせてあげたんだから、アンもしてくれてもいいじゃない」
と言うとアンは真っ赤になった。
でも、おずおずとスプーンにアイスクリームを入れると俺の口に運んでくれた。
周りの黄色い声が大きくなるがそんなのは無視だ。
俺はアンの差し出したスプーンに思いっきりぱくついた。
そのアイスクリームの美味しかったことと言ったら無かった。
これで相思相愛のバカップルの誕生だ。
これで俺たちの間を邪魔しようなんて不届き者はいないはずだ!
俺たちの周りを生暖かい風が吹いていた。
その中俺たちは俺たちはお互いに食べさせ合いをしていたのだ。
それは呆れきったクリスティーン達が突撃してくるまで続けられたのだ。
俺はとても幸せだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
王太子視点でラストの部分を上げてみました。
楽しんで頂けたら幸いです。
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