球技大会1 母親が会いに来ました
ついに球技大会本番になった。
本日は晴天だ。雨でもカッパ着て出来るんだけど、それは晴れのほうが絶対に良い。
私は天気が晴れて嬉しかった。
学園長のつまらない挨拶の後は生徒会長の挨拶だった。
もう、イングリッドの会長を見る熱い視線が怖いんだけど。
「皆さんが精一杯、正々堂々と戦って頂けることを期待します」
と言って生徒会長の言葉が終わった。
「正々堂々って言ってるけど、良いの?」
私はミニアンちゃんのプレイ内容を正すためにイングリッドに言うと
「当然よ。正々堂々と蹴飛ばされるのよ」
イングリッドは何か酷いことを言ってくれるんだけど。
正々堂々と蹴飛ばされるって何よ?
そして、次は選手宣誓だ。
我がA組からフィル様がB組から聖女が生徒会長の前に進み出る。
「きゃーーー」
「フィル様!」
「殿下!」
「聖女様!」
女の歓声に男のどす黒い声が交じる。あの聖女も少しは人気あるみたい。最悪のパターンは聖女ファンに殺されるかもしれない・・・・。
「宣誓」
とフィル様
「我々生徒一同は」
聖女。
「正々堂々と力いっぱい戦うことを誓います」
二人で宣誓した。
「二人並ぶと本当にお似合いね」
嫌な声が聞こえてきた。
まあ、本来はヒロインの聖女と王太子のフィル様が仲睦まじく宣誓する場面なのだ。
聖女がなにかフィル様に話したみたいだが、フィル様は全く無視した。というか、フィル様は全く聖女と目を合わせていないんだけど。聖女はムッとしてフィル様を見ていた。
二人の間は既に臨戦態勢みたいだった。
まあ、B組と当たるのは2回戦だ。我がA組はまずE組とだ。基本的にDとEは成績順だ。成績が良いところが魔力が多いとは限らないけれど、魔力も成績に絡んでいる。順当ならば楽勝のはずだった。
でも、初戦は皆緊張したみたいで、なかなか動きが悪い。私のミニアンちゃんも他のクラスが作戦を熟知したみたいで、私が近くにいると動かないのだ。イングリッドの作戦も不発だ。
逆にこちら側の攻撃でファールを取られたりして、前半は6対10で負けていた。
やむを得ず、後半はフルメンバーで出た。
アルフ、フィル様ペア、イングリッド、エルダペアにバート、ドーソンの単独土人形に、ヨセフィーナ、キャロリーナ土人形ペア、ドグラス伯爵令息の火人形にルーカスが手袋だ。
これがベストなんだけど、ヨセフィーナ、キャロリーナペアとドグラスはハーフに出るのが精一杯なんだけど。次の戦いどうするんだろう?
まあ、ここで負けたら次はないけれど。
しかし、さすがベストメンバーだ。
開始10秒で、ジャンプボールをアルフが叩くとそれをエルダとイングリッドがキャッチ、それをバートにパスしてシュートが決まった。
次にE組ボールもフリースローからのロングパスをアルフがジャンプしてカット、そのボールをドーソンがキャッチしてヨセフィーナ、キャロリーナペアにパス。そのままかけてきたアルフにパスして、フィル様がゴール。
「やったーーー。同点だ」
私は隣のディオーナと抱き合って喜んだ。
その調子でどんどん点数が入り、終わってみれば30対16で圧勝だった。
「やった!」
「凄いわ」
私達は皆、抱き合って喜んだ。
なんとか一回戦は勝てた。
で、次の1年生のB組戦までは休憩時間だ。
私たちは別れて観戦する予定だった。私の観戦先はイングリッドとエルダが強引に彼女らの兄のいる3年A組にしたのだ。そちらに行こうとした時に、母を見つけた。
「お母さん! 来てたんだ」
私は驚いて母に声をかけて近寄った。手紙では色々話しているが、合うのは約2ヶ月ぶりだ。
「そうなの。無理言って男爵様に連れてきていただいたのよ」
「これはこれは男爵様。お久しぶりでございます」
私が頭を下げた。
「ああ、アン、益々きれいになったね」
如才ない言葉を男爵様からかけて頂く。娘のカリーネと違って男爵は気さくだし、色々とアンの家に便宜も図ってくれている。今回は一人娘の活躍を見に来られたのだろう。C組はもうすぐだ。
「お隣にいらっしゃる方が、アンのお友達?」
「そう、エルダさんとイングリッドさん」
母の質問に私は紹介した。様と言わないところが味噌だ。言ったら二人に怒られそうだし、二人の身分がバレて呼び捨てにしていたら私が母から怒られそうだ。その点さん付けは、学園皆そう呼ぶようにと言われていると言えばなんとか通用するだろう。
「アンの母のグレタです。いつもアンがお世話になっています」
母が丁寧に頭を下げてくれる。二人がお貴族様だとも言っていないのに。
「いえいえ、こちらこそ、アンさんには本当にお世話になっています。エルダです」
「イングリッドです」
二人も頭を下げてくれた。
「外に出したこと無い娘なので、アンがご迷惑をおかけしているのではないかと心配していたんですが、お二方のような、きちんとしたお友達が出来たと聞いて、少し安心していたんです。学園の中では特に貴族の方も多い中で、アンはきちんとやっていますか? お二方にはご迷惑をおかけしていませんか」
心配性の母が聞いてきた。うーん、正直に話したら母の目が飛び出すかもしれない。この二人が高位貴族だとは一言も言っていないし・・・・。
「アンさんは、今のゲーム見ていただいても判るように皆とも仲良くしていますし、大丈夫ですよ」
「そうですよ。彼女は我がAクラスのクラス委員なんですから」
エルダとイングリッドが上手く言ってくれる。
クラスの構成比とか話していないから母さんはまだ私が高位貴族に囲まれているなんて知らないはずだ。
「そうなんですか。Aクラスは結構、貴族の方も多いのではないのですか? 男爵様も昔Aクラスにいらっしゃったと聞いて心配になったのですが」
「まあ、そこそこいますけど、基本学園は平民も貴族もありませんから」
エルダが言ってくれた。これは公爵令嬢のエルダだからこそ言える言葉だ。私が言ったら皆に殺されそう。
「そうかな。昔いた時は侯爵の娘のロヴィーサとか公爵の娘のユリアとかいう高位貴族の小娘に走り使いをさせられて大変だったよ」
男爵様。それってエルダとイングリッドの母のことなんだけど・・・・
「ああら、ヤーコブ、小娘って何よ」
「本当に。結構可愛がってあげたのに、その言葉はないんじゃない。あんたなんかアンネにずうーっとストーカーみたいに付きまとっていたくせに」
その私達の後ろからその話題のお二人が現れたのだ。
もう、男爵は口をパクパクさせて大変だった。
それよりも私は母の具合がとても気になった。
アンネと聞いた途端に顔が真っ青になったのだ。やっぱり何かあるんだろうか?
「母さん。どうしたの?」
「ごめんなさい。ちょっと立ちくらみがしたの」
「大丈夫?」
「少し座ったら問題ないから」
母は傍の席に座った。
「すいません。高位貴族の方々とお話したこともなくて緊張してしまって」
「そうだ。お前らがいきなり現れるからだ」
母はエルダの母らに謝った。それに対して男爵はいきなり元気になって二人に対峙した。
「ヤーコブは言うことが酷いわね」
「むかし、お前がアンネにしたことをもう少し話そうかしら」
「頼む止めてくれ」
いきなり男爵は懇願モードに変わった。イングリッドの母は相変わらずだ。
「アン、お母さんが気分が悪くなったんだって」
「お、王太子殿下!」
そこへ走ってきたフィル様を見て、男爵が唖然としていた。
そこにフィル様まで現れて母は完全に固まってしまったのだった。