王太子視点3 聖女を断罪しましたが、想い人を送ろうとしたら掻っ攫われてしまいました
俺は学園の馬車溜の前でアンを待っていた。
この前、倒れたアンを助け起こしたときの事を思い出して少し顔がにやけている。上着を着せたアンが真っ赤になっているのも可愛かった。
しかし、昨日は溜まりに溜まっていた仕事を片付けるためにアンを迎えに行けなかったのだ。その隙をつくようにまさか聖女が大司教を使って、母に聖女がアンに虐められていると嘘の抗議をしてくるなんて思いもよらなかった。
爆発音で慌てて母の部屋に飛んでいくと、怒り狂ったガーブリエルがアンを助け出した後だった。
「どうなっているのです?」
俺は母を睨みつけた。母は部屋をガーブリエルに破壊されてあまりの事に話せないようだった。
「聖女様がアンとかいう小娘に虐められていると王妃様にご相談されたのです」
「はああああ、どう考えても、逆だろうが」
俺は女官長の言葉にブチギレて言った。アンがそんな事をするわけがない。アンは昨日も筆入れを壊されていたのだ。
「いや、殿下、私、アンさんに虐められて」
「そういうふざけたことを言って俺の貴重な時間をつぶすな」
「そんな」
「殿下、聖女様の言葉を信じられないのですか」
大司教までもが言ってくる。
「じゃあ、それをガーブリエルの前で言ってもらおうか。ガーブルエルの前で同じことを話してみろ」
「そ、そんな、私、怖いです」
なんかピンク頭がふざけたことを言っているのだが・・・・。
「それよりも、昨日、アンの筆入れが壊されていた件だが、メリー嬢が聖女に示唆されてやったと供述しているが」
俺は朝一番でメリー邸に行ってもらったイングリッドとクリストフから教えてもらっていたのだ。
「な、何ですって、大司教、どういうことなの」
母が我に返ったようでいきなり怒り出した。
「いや、そのような」
大司教は慌てて聖女を見た。
「そんな、嘘です。私、そのようなことをしていません。皆して私をはめようとしているのです」
「ではメリー嬢が嘘をついたと言うのだな」
「そ、そうです」
「メリー嬢は食堂で、皆の前でお前から、アンに虐められているから仕返しにしてほしいと言われたそうだ。女官長の娘子もそこにいたと聞いているが」
「・・・・」
聖女は黙ってしまった。
おいおい、ここで黙るのかよ。俺は白い目で大司教を見た。
「せ、聖女様。あ、あなた様がそのようなことを」
「わ、私、アンさんに虐められて、悔しくて」
聖女が泣き出した。
「じゃあ、お前が指示したのは認めるのだな」
「でも、殿下、アンさんに虐められたのは本当です」
「話にならんな。虐められたらやり返すのか。『全ての者を許せ』、それが教会の教えだと思ったのだが」
俺は呆れて大司教を見た。
大司教も下を向いている。こいつら何をしに来たのだ。
「そんな、やられても我慢しているしか無いのですか」
聖女がうるうる視線で見てくるのだが、こいつは本当に聖女なのか。
「大司教。俺は聖女様とは慈悲深いお方かと思っていたのだが。この聖女の発言だけで教会の威信は地に落ちるぞ」
俺は呆れて大司教を見た。
「私、アンさんに虐められて我慢できなくて・・・・」
なお言うか、俺は呆れてしまった。
「じゃあそのアンさんがお前をいじめた証拠を出してもらおうか」
「破かれた教科書は捨てました」
「違う。アンさんがやったという証拠だ。誰か見たものがいるのか」
「そ、それは・・・」
「大司教。証拠もないのに、教会は人を疑うのか。教会の教えは『隣人を信じよ。疑わしきは罰せず』だと思ったが」
俺は白い目を大司教に向けた。
「えっ、いや、殿下、そのような。聖女様、その娘がやったのを見なかったのですか」
「私、アンさんが教室から出ていくのを見て、その後に教科書が破られていたのでてっきりそうだと」
「パウラ嬢。そう言うすぐバレそうな嘘はをつくのは聖女としての品格を疑われるぞ」
「嘘じゃありません」
聖女はあくまでもアンのせいにしたいようだ。
「じゃあいつだ。何月何日の何時頃だ」
「いや、それは・・・・」
「大司教。こんないい加減なことで人を犯人呼ばわりさせるな」
「いや、そんな・・・・」
聖女はそれからもグチグチ色々言ったが、結局、証拠らしきものはなく、大司教が謝って終わらせた。
聖女は謹慎1週間、その間、教会のトイレ掃除もさせるようにはっきりと申し入れした。
聖女は嫌そうな顔をしていたが、パウラ嬢でもやっていると俺の一言で黙らせたのだ。
その報告も兼ねて、アンを待っているのだが、なかなか来ない。どうしたんだろう?
「殿下どうしてここに?」
後ろから魔道士団長にいきなり声をかけられたのだ。
「何って師団長こそどうしたのだ」
「いや、ガーブリエル様から、昨日のようなことのないように絶対に時間通りにアン嬢を連れてくるようにと命じられまして、お迎えです」
「えっ、そうなのか」
俺が驚いているとそこに話しながらアンとイングリッドが出てきたのだ。
横にクリストフを連れている。
「あっ、フィル様、ヴィルマル様、おはようございます」
アンが挨拶してきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「お二人でどうされたのですか」
イングリッドが聞いてきた。
「いや、王城に帰るのでついでにアン嬢を連れて行こうと思って」
「えっ?」
俺の言葉に他の者達が声を出した。
「いや、殿下、母から昨日のようなことがあってはいけないからと私達がアン嬢をガーブリエル様のところに連れて行くように言われているんですが」
「あのう、私はそのガーブリエル様からの命令でここにいるのですが」
クリストフとヴィルマルと3人で顔を見合わせた。
「いいや、あの、そのようなことをしてもらわなくても。私、平民ですし、乗合馬車で・・・・」
「いやいや、昨日のようなことがあってはいけませんから」
「そうだ。ここはクラスメートとして」
俺たちは必死に言い訳をしたが、
「はいはい、今日は私がアンを連れて行きますから」
俺達はイングリッドにあっさりとアンを連れ去られてしまったのだった・・・・
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次は聖女視点です。
今夜更新予定です。





