友人の母にまた、亡国の王妃と間違われました
イングリッドのお母様はとても素敵な方だった。
「ごめんなさいね。あまりにも友人に似ていたから、つい言ってしまって」
お茶の席につくと早速謝ってくれた。
「本当よ。お母様、アンに失礼よ。本当に歴史の先生にしても魔道士団長にしても皆間違えるし」
「そうなんだ。私だけじゃなかったのね。間違えたの」
「そうよ、でも、アンはスカンディーナの出身ではないわよ。アベニウスの出身よ」
「そうなんだ。アベニウス男爵のところなのね」
「アベニウス男爵をご存知なんですか?」
私は驚いて聞いた。侯爵夫人が知っているなんて、あの人の良さそうなアベニウス男爵も結構有名人なんだ。
「それは、知っているわよ。彼、学園で私やアンネと同じクラスだったのよ。彼は伯爵家の次男坊で、アンネのことを本当に崇拝していたわ」
「へえええ、そうだったんですか」
私は驚いた。男爵様も、そんな時があったんだ。その後結婚されたけれど、奥様は早くに亡くされたと聞いている。
「本当にアンネはもてたのよ。彼女には婚約者がいたにも関わらずね」
「婚約者ってスカンディーナ王国の王子様だった方ですか」
エルダが聞いてきた。
「そうよ。最後の1年間はその王太子もこちらに留学に来られたの。そのアツアツぶり見て、皆アンネを諦めたのよ。うちの王太子は最後までうじうじ言っていたけれど」
「へえ、そうなんですか。陛下が」
私は驚いた。一度お会いしたけれど、それで私をあんな目で見ておられたんだ。
「あっ、今のは聞かなかったことにしてね。また煩いから。でも、ごめんなさいね。あなたの知らない人の事を話して」
「いえ、私もあまりにも間違われることが多いから、どんな人かと少しは気になっていたので」
私はそう夫人に言っていた。
「よく、アンネとエルダの母親と3人で馬鹿やったわ。寮で遅くまで話したり、いたずらしたり」
「そう、アンの筆入れにやったあの魔術、元々お母様に教わったのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうよ。その時の王太子が、アンネに夢中になっていてね。嫉妬したローズマリーがアンネの筆入れ隠そうとして、引っかかって目に隈作って、めちゃくちゃ面白かったんだから」
「そ、そうなんですか?」
昔からそういういじめはあるんだ。その対処法も。でも王妃様が虐めていた?
「ええええ! 王妃様もいじめしていたんだ」
これはいいことを聞いたという感じでイングリッドが言った。
「ちょっと、イングリッド、今のは聞かなかったことにして」
「ええええ!、折角の情報なのに」
イングリッドは残念そうに言う。
「判った! イングリッド! これは王妃様の威厳にかかわることだから、その後にちゃんとアンネとローズマリーは仲直りして仲良くなったのよ。だから、絶対に他の人に言ってはだめよ! もし言ったら、あんたが6歳の時におねしょしたのイェルド君に言うからね!」
「ちょっとお母様、今、エルダとアンにばらしたじゃない!」
イングリッドが怒って言った。
「いいじゃない。友達になら。何ならもっと一杯話そうか。例えば、8歳の時に領地の池で」
「あっ、判りました。判りましたから、止めて!」
何かイングリッドは涙目だ。元々こう言って脅すのは彼女の母から引き継いだらしい。筋金入りで、私では到底太刀打ち出来ないはずだ。
「でも、アンは虐められているのよ」
イングリッドか言う。
「それはあなた達がちゃんと守ってあげないと」
「いえ、あの、それは、やられたら基本的には自分で対処しますので」
その言葉を聞いて夫人が吹き出した。
「ど、どうしたのよ?」
イングリッドが夫人を見て聞いた。
「いや、ごめん、私がそう言ったらアンネがそう言ったのよ。それであの魔術を作り出したの。アンさんは顔貌だけでなくて性格も似ているなと思っただけ」
「そうなんだ。でも、あの魔術は使えるのよね。あれを考えたアンネさんは天才よね」
「そうね。でも、アンネの魔術自体は本当に小さかったのよ。火の玉なんて本当に小さくてね」
「そうなんだ。でも威力がもの凄く強力だとか」
「よく判ったわね」
イングリッドの言葉に夫人が驚いていた。
「だってアンもそうだもの」
「そ、そうなの?」
夫人は驚いたように私を見た。そして、少し考えてから私に聞いてきた
「あなたのお母様の名前は」
「グレタですけど」
そういった時、夫人の目が光った気がしたんだけど。
「お母様がこちらにいらっしゃる時はあるの?」
「次のクラス対抗戦は時間が合えば見に来るって言ってましたけど」
「そうなんだ。その時にお会いできるかもしれないわね」
なんか考えながら夫人は心ここにあらずという感じだった。
イングリッドのお母様は本当に気さくな方で、私は気を遣わなくて助かった。
その点は良かったんだけど、私が隣国の王妃様とあまりにも似ているところが多くて、戸惑ったのも事実だ。何故ここまで似ているんだろう。遠い親戚か何かなんだろうか? 今度母さんに聞いてみようと私は思った。
「もし、何か困ったことがあったら、何でも私に言ってね。どんな事でも力になるから」
帰り間際にイングリッドのお母様は言ってくれたんだけど、何かそれは本当の親友の娘に対するような暖かい眼差しだった。