友人たちと街へ出掛けました。
私がガーブリエル様といろんな魔術を試して疲れ切ったところにイングリッドとエルダがやってきたのだ。
それもお菓子を持って来たのだ。
「ガーブリエル様、お久しぶりです」
イングリッドが頭を下げる。
「おお、バーマンの娘か。それとオールソンの娘もおるな」
ガーブリエル様は何故かごきげんになった。
この二人、ピンク頭の聖女と違って押さえるところは押さえているらしい。
「これ東洋の最中というものだそうです。甘さ控えめで、母が、ガーブリエル様のお口にも合うのではないかと申しておりました」
エルダがそう言って包を渡す。
「おお、いつもすまんの」
喜んでガーブリエル様が受け取られる。
「えっ、エルダ嬢。俺の分は無いのか」
ヴィルマル様が不満そうに言う。
「師団長の分は魔術の塔の皆さんにお渡ししましたよ」
「な、何、アイツラに渡したら俺の分が残る訳ないだろう」
慌てて魔道士団長は塔に帰って行った。
「じゃあガーブリエル様。アンは借りていきますね」
「今日はありがとうございました」
私が頭を下げるが、
「ああ、夫人にも宜しく伝えておいてくれ」
ガーブリエル様は、早速自分で緑茶を沸かしだして、もうお菓子の方しか見ていなかった。
和菓子が好物なのか。今度私も何か持って来てみようと私は思った。
「アン、聞いたわよ。またピンク頭が余計なことしてきたんですって」
イングリッドの家のおしのび用の馬車で王宮を出てからイングリツドが話してきた。
「そうなの。王妃様の部屋に強引に呼ばれたんだけど、ガーブリエル様に助けて頂いて」
「聞いたわ。あなたが来ないと怒り狂ったガーブリエル様が王妃様のお部屋で暴れられたって」
「本当に。王妃様もガーブリエル様の怒りを買うなんて」
「でも、あんな事して、ガーブリエル様は大丈夫なのかな?」
「大丈夫よ。何しろ陛下もガーブリエル様に魔術は教えてもらっているから、頭が上がらないのよね」
「そうなんだ」
一国の国王も頭が上がらないってガーブリエル様はどれだけ偉いんだろ?
「じゃあ、私の前の弟子って陛下なの?」
「と言うか、ガーブリエル様は昔は王立学園で教えていらっしゃったのよ。うちの両親も教わっているわ」
「なんでも、弟子のブルーノが隣国で反逆して以来人に教えるのは止められたそうよ」
「そうなんだ」
「だから、両親もまた教えられるようになったって聞いて驚いていたのよ」
「ふうん、そうなんだ」
私は頷くしか出来きなかった。
「まあ、それだけあなたが有望だってことだわ」
「オールマイティってアンネ様以来だそうよ」
「そうなんだ」
また、私が似ていると皆の言うアンネ様の名前が出てきたけれど、どんな人だったんだろう?
私達は街の食堂でお昼を食べた。イングリッドは庶民の店だって言ったけど、絶対に嘘だ。
それはお貴族様専用ではなかったけれど、洗練された感じで、客層もどちらかというと庶民よりもワンランク上と言った感じの店なのだ。当然値段もそれなりにして、私の2日分の食費って感じなんだけど。
やっぱりイングリッドらお貴族様と街出ると破産してしまうかもしれない・・・・
私もなんか内職でもしようかな・・・・。母さんはお小遣いは気にしなくてもいいと言うけれど、いつまでも母さんに甘えている訳にはいかない。
でも、学生のアルバイトなんてなにか出来るんだろうか?
そのまま、3人で街を散策する。
可愛い感じの文房具屋なんかもあって、さすが王都だ。
でも、値段も高い。鉛筆も私の使っているものよりも3倍もしている。可愛いのは可愛いのだが、王都は値段も高いのだ。ものも良いかもしれないけれど。
鉛筆なんて書ければ良いのだ。
そう、でも、なんか、私の目がそれに釘付けになっているのは絶対に気のせいだ。
そして、その横には魔導ペンがあった。
フィル様からはあのまま、なし崩し的に古いペンをお借りしている。それに似たペンがあったので、見ると鉛筆の1万倍もの値段がしている。
えっ、ひょっとして私の使っている鉛筆の3万倍の値段だ。王族の使っているものと考えるとひょっとして10万倍くらいしているのかもしれない。
「ねえ、エルダ。私がフィル様からお借りしているペンって高いよね」
「ああ、あれ、まあ、あのペン、おそらく特注だからこのペンの20倍くらいしているんじゃないかな」
「・・・・」
もう私は何も言えなかった。絶対に明日速攻で返そう。壊れたら私が1年位タダ働きしないと返せないかもしれない。
「何青くなっているの、アン」
「あれ、あんたにあげるって言われたんでしょ。もらっておけばいいのよ」
「そうよ。あんたが被っている迷惑料くらいに考えておけば良いのよ」
「そんな事、お気楽に言ってくれるけれど、もしなんかあった時の返す私の身になってほしいんだけど」
と言うと
「アンって本当に律儀ね」
「絶対にフィルはそんな事言わないから」
「言ったら私がまた殴ってあげるから」
二人に呆れられてしまったけれど、それは違うと思うんだよね。借りたもの壊したらちゃんと弁償しないと。
そう思って、歩いていた時だ。前から歩いてき紳士の人とぶつかりそうになった。
「失礼」
男はぶつかりそうになってつけてよろけた私を支えてくれた。
「ごめんなさい」
私は謝って離れようとしたけれど、何故か男は支えた手を離してくれない。
その上まじまじと私を見たのだ。
「どうかしたの、アン」
後ろから、イングリッドが声をかけてきた。
「失礼。あまりにも知り合いに似ていたものだから」
男は慌てて謝ると店を出ていった。
「知り合い?」
「ううん」
私は首を振った。どうしたんだろう。全く見たこともなかった気がしたけれど。
私は彼がどのような人物か全く知らなかったのだ。
でも、そんな事はすぐに忘れてしまった。乗った馬車が大きな門を潜ったのだ。
「えっ? ここって」
「うちよ。お母様があなたを連れて来いって煩くて」
イングリッドがあっさり言ってくれた。
「ちょっと、侯爵様のお宅を訪問する格好じゃないんだけど」
「何言っているのよ。そんなの気にしなくていいのよ」
「いや、ちょっと、そんな」
イングリッドらは平然としているが、私はあんた達と違って平民なのよ。やめてーーーー
私は叫びたかった。
「まあまあ、大丈夫よ。怒っているイェルド様に末尾がeのアンだって言えるんだから」
イングリッドが言ってくれるんだけど、いつまでも言ってほしくはない。たまたま言ってしまっただけなのだから。
でも、覚悟もなくて、普段着で侯爵邸にいきなり降ろされてしまった。
ど、どうしよう、と私は思って固まってしまった。
「あ、アンネ!」
でも、次の瞬間、イングリッドの母と思しき人の悲鳴で呪縛が解けた。
そこには呆然と立ち尽くす金髪の貴婦人がいたのだ。





