聖女を虐めていたことにされました
嘘ーーー。まただ。
この筆入れは思い入れがあったのに。ふ、2つに割れている!
私は涙目になった。
「だ、誰だ! またアンさんの筆入れに酷いことをしたのは」
フィル様の怒声が響いた。
「フィル」
バートがフィル様を抑えてくれた。フィル様に庇ってもらったとなったら絶対に逆効果だ。それにまた鉱山送りとか言いそうだし。
「そう、バートはどうしようも無いフィルを押さえておいてね」
言うや、イングリッドは周りを見回した。
「あれっ、メリーはどうしたの?」
イングリッドは目ざとく見つけた。一人メリーだけがいなかったのだ。
「なんか泣きながら部屋を出ていったわよ」
「目にくまをつけていたわ」
「そう、この前の殿下みたいに」
「なるほど犯人はメリーね」
その言葉を聞いてイングリッドが頷いた。
「メリーが犯人って?」
「うーん、アンの物にちょっとした仕掛けを作ったのよね」
「アンさん、その割れた筆入れ、直してあげるよ」
言うや、フィル様が筆入れに触ってくれた。
筆入れは何もなかったようにもとに戻っていた。凄い、風魔術の応用だろうか? 私も出来るようになりたい。
「ありがとうございます。えっ」
私はお礼を言ってフィル様を見るとフィル様の目がまた片目パンダになっていのだ。
「えっ、どうかした?」
「フィル」
「お前」
側近たちが吹き出した。
「そう、アンの物に勝手に触ると片目パンダになるようにしたのよね」
イングリッドが得意げに言った。
「おい、イングリッド、早く直せ」
フィル様が怒って言った。
そうか、それで私の筆入れに触ろうとしたメリーさんは片目パンダになって慌てて、筆入れを取り落として、部屋を出ていったのだ。
授業が始まってもメリーさんは帰って来なかった。
結局メリーさんはあの片目パンダを皆に見られるのが嫌でそのまま家に帰ってしまったらしい。でも、この魔術はなかなか特殊で基本はかけたイングリッドしか直せないらしい。
「本当に馬鹿よね。その場で謝れば直せたのに」
イングリッドは私の部屋でブツブツ文句を言っている。
「でも、あの子が単独でアンに意地悪するのっておかしくない?」
「同じ平民なのに、アンだけ優遇されているのがムカついたんじゃないの」
「いや、あの、メリーさんってメリー商会の娘でしょう。私とは天地雲泥なほど地位は違うわよ。私を妬むなんてありえないんだけど」
エルダとイングリッドが好き勝手言うのに、私が意見を述べた。
「何言っているのよ。ドーソンとかでさえあなたを妬んでいたのよ。十二分にありえると思うけど」
「まあ、そうよね。その可能性はあるわ」
「そ、そうかな」
王都で大商いをしているメリー商会の娘が、私を妬むだなんて、何か信じられなかった。
私って本当に、この学園の最底辺だと思うのよね。その私が妬まれるって何?
それもこれも全部この二人のせいのような気がするんだけど
「ほうら、アンまた変なこと考えているでしょ」
「私達から逃げようったってそうは問屋が卸さないからね」
エルダとイングリッドが笑ってきた。
「アン、明日はガーブリエル様の訓練は午前中で終わるのよね。その後、街へ遊びに行きましょう」
「酷い、私を置いていくつもり」
「そうは言っていないでしょ。エルダも来なさいよ。それでアンを魔術の塔まで迎えに行くわ」
「でも、私お金は殆どないし」
「大丈夫。庶民的な店知っているのよ。そこでお昼食べましょう」
「えっ、じゃあ私も行く」
「じゃあね。アン。また明日」
二人が屋敷に帰って行った。
私は「お出かけか!」と声に出してみた。
王都に来て初めてだ。少し楽しみでもあった。
そして、翌日は制服でなくてエルダにセンスがいいって言われた私服で王宮に行ったのだ。
でも、入り口を入ると、いきなり女官長に捕まってしまったのだ。
「あのう、すいません。ガーブリエル様のところに行かないといけないのですが」
「つべこべ言わずにこちらに来るのです。あなたが聖女様を虐めているという疑惑で、教会から抗議が入っているのです」
「はいっ? そんな、私は聖女様に何もしていないですよ」
そうだ、されているのは絶対に私だ。
「それは大司教様の前で懺悔しなさい」
ええええ! 大司教様って教会のトップじゃないの。私から見たらはるか雲の上の人だ。そんな人の前に出るなんて・・・・。私は逃げたかったが、女官長は聞く耳持たずで、私はそのまま、行きたくもない王妃様の部屋に連れ込まれてしまったのだ。
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