聖女視点2 モブでもない平民を排除しようと色々画策しましたが、うまくいきません
翌朝、私はいい気になっている赤毛のアンをいかに叩き潰すか考えようとした。
でも、朝食を食べに食堂に行くと、なんとその赤毛が一人でいたのだ。
ボッチだ。
これはさすがに赤毛もエルダやイングリッドにまで嫌われたのか。
あんまり王太子に近づきすぎるからだ。さすがの二人も愛想をつかしたのだろう。
これはチャンスだ。
ショックを受けている崖っぷちの赤毛を更に崖から突き落とすのだ。
私は嬉々として、その赤毛に近づいて言ってやったのだ。
「クラスでも、委員会でも、お昼時もずうーっと殿下の側に張り付いているようじゃない。平民のあなた風情がして良いところじゃないわ」
しかし、この平民風情の小娘は最初は私に反抗してきたのだ。
「この学園の規則を知らないの? 学園にいる間はすべての生徒は平等であると」
でも、女官長の娘の
「そんなの建前に決まっているでしょ。そんな事もわからないから皆に嫌われるのよ」
それに私の
「そうよ。現実にあんたは今日は一人じゃない。オールソン様にもバーマン様にも嫌われたんでしょ」
この言葉の前に赤毛は黙ってしまったのだ。
よく見ると目に涙を浮かべている。
そうそう、私の王太子に手を出そうとするからよ。
「どうしたの。黙りこくって。今頃現実が判ったのかしら」
私は更に赤毛を突き落とすことにしたのだ。
「私、王妃様から言われたの。王太子殿下を宜しくって」
そんな事は言われてもいないけど、ここで聖女と一平民の格の違いを見せつけるのだ。
「そう、単なる平民のあんたと違ってね」
私は微笑んだ。もう一息だ。
「だから、昼食の時の殿下の隣の席は私に譲りなさい」
ふふふふ、これで、この赤毛はもう王太子の傍にはいられないわ。
そう思った時なのだ。邪魔が入ったのは
「あーーら。聖女様。早速、女官長の娘と一緒になっていじめをしているの?」
えっ、なんでここに赤毛と喧嘩したはずのイングリッドがいるのだ?
「嫌だわ。今度の聖女様は王太子殿下に必要もないのにイチャイチャくっついているし、その殿下と親しい私の友だちが一人でいると見たら、早速虐めようとしているのね。本当に聖女としての適性を疑うわ」
そこには本来ならば私の味方のはずのエルダもいた。
それも、モブですらない平民の赤毛の傍に。
な、何故だ?
私はなんとかしようとしたが、どうしようもなかった。
「あなたが、性格の悪さで、殿下に相手にされないからって、純粋培養の私の友達に当たるのは止めて頂ける」
その言葉に思わず切れてしまったのだ。
「な、なんですって」
私は思わず本来ならば味方のはずの二人を睨みつけていたのだ。
「あーら、アンには貴族社会のルールを守れと言っておきながら、私には守らないわけ」
イングリッドが怒るのが見えた。ええええ、いや待って、私の味方が・・・・
「な、な、何を」
「ぱ、パウラ様。相手が悪いです」
女官長の娘が必死になって私を引っ張って行こうとする。
「あんた達覚えていなさいよ」
私は思わず捨てセリフを吐いてしまっていた。
ダメだ。もう、エルダとイングリッドは私の味方はしないだろう。
私はショックを受けてしまった。
しかし、もうこうなったら、あの二人は無視だ。
公爵令嬢だろうが侯爵令嬢だろうが関係ない。なにしろ、私はこのゲームのヒロイン、聖女様なのだ。モブでしか無い奴らに私のことは邪魔させない。それも今は悪役令嬢、隣国の王女もいないのだ。いるのはモブ以下の平民の赤毛のアンだ。
こんなのは私が弾き飛ばしてやるのだ。
お昼時、食堂でなんとかして殿下の隣に座ろうと思ったのだが、ルンドの婆婆の授業が長引いてしまったのだ。
「あなた、何なの、その姿勢は、もっと背筋を伸ばしてしっかり立って!」
徹底的にルンドに虐められたのだ。
何故だ。何故ヒロインの私がこんなに言われなければならない。
私は切れていた。
しかし、その授業もなんとか終わり、私は食堂に向かった。
しかし、神様は私に微笑んできたのだ。さすがヒロインだ。神の加護も私にあるのだ。
なんと王太子の隣が空いていた。
早速座る。他の貴族どものムッとした顔は無視する。
そこで王太子の顔を見て驚いたのだ。なんだ、この目の隈は。
聞くと誰かに殴られたらしい。
へええええ、王太子でも殴られることはあるんだ。
でも、女官長の娘がいいことを言ってくれた。私のヒールなら治せると。
それはそうだ。こんなのお茶の子さいさいだ。
「ヒール」
私は喜んでヒールをかけたのだ。
あれ、でも、王太子の目は全然変わらない。そんなバカな。
「ヒール」
もう一度やってみた。
でも、全然ダメだ。
私は焦りに焦った。
「そんな、まさか」
慌てて、
「ヒール!」「ヒール?」「ヒール??」
片っ端からやってみるが、全く効かなかったのだ。
何故だ?
「本当に今度の聖女はこんな傷も治せないなんて、どうしようもないわね」
どこかのモブの大声が聞こえた。
いや、これはおかしい。でもこれ以上やっても無理だ。
「ちょっと殿下、私急用を思い出しましたので。ちょっと失礼しますわ」
私は名誉の撤退を選んだのだ。何故出来なかったか、教会関係者に聞かないと。
くっそう、せっかくのチャンスだったのに。
私はこれがイングリッドのいたずらで、王太子の黒い痣は聖魔術が絶対に効くはずはない物だということが判らなかったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
まだまだ聖女の口撃は続きます。