もう一人でやって行こうと食堂に行ったら、聖女に虐められそうになりましだか、友人たちが助けてくれました
私は翌日お腹が減って目が覚めた。
いや、さすがにそれは無いだろう!
昨夜は最初は憧れのフィル様に抱かれて舞い上がっていた。それをエルダの指摘で現実に戻された。そう、私はモブですら無い平民で、本来お貴族様と話さえ出来ない身分なのだと。フィル様の横にいることなど、絶対に許されないのだと。
クラスでの席は仕方がないけれど、お昼一緒に食べるのはもう止めよう。
そして、エルダもイングリッドも高位貴族、お貴族様だ。
もう、呼び捨てにするのは止めよう。
彼女たちに対する私の態度からして間違っていたのだ。ドーソンらの言う通りだ。できる限り一緒に行動するのも止めよう。
せっかく出来た学園での友達だったけれど、平民の私と高位貴族の二人ではそもそも釣り合わないのだ。
まだ、朝は早いみたいだ。食堂は朝練の生徒もいるので6時から開いているみたいだし、私はエルダらと鉢合わせするのが気まずかったので、早めに行くことにした。
早朝の食堂は空いていた。私は昨日の夕食も抜いていたので、山盛り取って、席についたのだ。
さて、食べよう。
「頂きます」
私は元気を出すために朝食を食べようとした。
「前の席、宜しくて?」
「えっ?」
何で一杯空いているのに、私の前に来るのだと相手を見ると何と、ピンク頭のヒロインの聖女と、たしか女官長の娘だった。
「あんた、何なのその食事の量は?」
ピンク頭が驚いて聞いてきた。
余計なお世話だ。こちらは昨日の夜も抜いてお腹が空いているのだ。
「本当に、豚の餌のようですね」
私はその女官長の娘の言葉にピキッとキレた。
「煩いわね!あなた達に関係ないでしょ!」
ムッとして言う。
「あなた。昨日、王太子殿下に助けて頂いたからって、良い気になっているんじゃないの!」
女官長の娘が食って掛かってきた。フィル様のことは忘れようとした矢先だったのに、何を蒸し返してくれるんだ。
「殿下はたまたま私を助けていただいただけよ」
「でも、クラスでも、委員会でも、お昼時もずうーっと殿下の側に張り付いているようじゃない。平民のあなた風情がして良いところじゃないわ」
「煩いわね。あなたに関係ないでしょ」
私は横から指摘してきた聖女を睨み返していた。
「なんですって! あなた聖女様になんてこと言うのよ」
女官長の娘がぎゃあぎゃあ煩い。
「この学園の規則を知らないの? 学園にいる間はすべての生徒は平等であると」
「そんなの建前に決まっているでしょ。そんな事もわからないから皆に嫌われるのよ」
「そうよ。現実にあんたは今日は一人じゃない。オールソン様にもバーマン様にも嫌われたんでしょ」
ピンク頭が痛いところをついてきた。
そうだ。私は今日からもう一人なのだ。
エルダもイングリッドももう助けてくれないのだ。これからはコイツラも私が対処しないといけない。
私は今までいかにエルダとイングリッドに守られていたか、判った。でも、これが現実なのだ。モブにすらなれなかった平民の私は一人でやっていくしか無いのだ。王太子の横の席だから、皆に嫉妬されて、もう友達なんて出来ないだろう。前世と同じでもうボッチ決定だった。昨日みたいに皆に虐められて学園に来るのも嫌になるかもしれない。前世みたいにまた、ボッチ人生に戻ってしまったのだ。
私はメチャクチャ悲しくなってきた。
せっかく転生できたのに!
本来ならばこのピンク頭の位置に私がなりたかった。でも、現実は私は平民のアンなのだ。
「どうしたの。黙りこくって。今頃現実が判ったのかしら」
聖女がニタリと笑った。
「私、王妃様から言われたの。王太子殿下を宜しくって」
嬉しそうにピンク頭が言ってくれた。
えっ、嘘だ。こいつも平民なのに! でも聖女か。
私はそばに近寄るなって言われたのに!
「そう、単なる平民のあんたと違ってね」
ピンク頭の言葉は私に決定的なショックを与えてくれた。そう、こいつはゲームのヒロインの聖女で私はモブにすらなれなかった平民のアンなのだ。
「だから、昼食の時の殿下の隣の席は私に譲りなさい」
そう、本来はフィル様の隣の席はこいつのものなのだ。弱気になっていた私は思わず頷いてしまいそうになっていた。
「あーーら。聖女様。早速、女官長の娘と一緒になっていじめをしているの?」
弱気になって頷こうとした時に、食堂に響いたその声は、あまりに聞き慣れた声だった。
「嫌だわ。今度の聖女様は王太子殿下に必要もないのにイチャイチャくっついているし、その殿下と親しい私の友だちが一人でいると見たら、早速虐めようとしているのね。本当に聖女としての適性を疑うわ」
それはエルダの声だった。
「あなたが、性格の悪さで、殿下に相手にされないからって、純粋培養の私の友達に当たるのは止めて頂ける」
「な、なんですって」
聖女がきっとして二人を睨みつけた。
「あーら、アンには貴族社会のルールを守れと言っておきながら、私には守らないわけ」
イングリッドが胸をそらして見下した。嘘ーーー。完全な侯爵令嬢がそこにいたのだ。
「な、な、何を」
「ぱ、パウラ様。相手が悪いです」
女官長の娘が必死になって聖女を引っ張って行こうとする。
「あんた達覚えていなさいよ」
聖女は捨てセリフを吐いて引っ張られて席を移っていった。
「はいはい、あなたがアンを虐めていたってことは、はっきりと覚えておくわ」
呆れてエルダが言ってくれた。
「ちょっと、アン、私達を置いて一人で食堂に行くってひどくない」
聖女を見送るとイングリッドが怒って言ってきた。
「本当に、いくらお腹が空いていたからって」
そう言いながら、私の特盛のお皿を見てエルダの目が点になっていた。
「いや、これは令嬢のトレイじゃなくて、何か騎士たちのトレイとおんなじなんだけど」
イングリッドが朝練終えた、騎士を目指している人達のトレイと私のを比べている。
「えっ、そんな事はないわよ」
でもよく見ると彼らのお皿も山盛りだ。私のお皿と同じくらいに。
「まあ、少しは元気になったみたいじゃない」
そう言うとイングリッドは私の筆入れを差し出してきた。昨日もらってきてくれたらしい。
「あっ、ありがとうご」
そう敬語で言おうとしたら口の中にスプーンを突っ込まれた。
「アン、敬語は厳禁だからね!」
「うううう」
でも、私は平民だ。そう言おうとしたけれど言えなかった。
「グチグチ言うと、アンがフィルのジャケットに頬をスリスリしていたって皆に言いふらすわよ」
「えっ、ちょっとそれだけはやめて」
私は慌てた。そんな事したらフィル様命のお貴族様に殺される。
「そうそう、判れば良いのよ。私に逆らったらアンのいろんな事を皆にバラすからね」
「そ、そんな」
そう言えば結構イングリッドには、色々皆に知られたらまずいことを話していたように思う。
私は呆然とするしか無かった。
私のボッチで行こう作戦は、強引なイングリッドらの前にあっさりと朝の数分で終わってしまったのだ・・・・
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