身分の違いを痛感したので、これからは自分一人で学園生活をおくろうと思いました。
私はフィル様に色々助けられて、あまりの事にぼうーっと夢遊病者のようになりながら自分の部屋になんとかたどり着いたのだ。
そして、ベッドに座って、幸せに浸っていた。
あの見目麗しいフィル様に抱きしめられたのだ。ギュッと・・・・。まさか、モブにすらなれなかった平民なのに、こんな事があるなんて予想だにしていなかった。
そして、エルダが訪ねに来てくれたのだが、色々聞かれたが、あまりの事に何か頓珍漢なことしか答えていなかった。
「アン、ドーソンらに襲われたんですって」
息せき切ってイングリッドが飛び込んできた。
「大丈夫なの?」
「はああ」
イングリッドの心配する声にも盛大に溜息をついた。
「ど、どうしたの?」
イングリッドが私じゃ、話にならないと思ったのか、隣のエルダに聞いていた。
「何でも、白馬に乗った王子様に助けてもらったんですって」
「えっ、白馬に乗った王子様? 誰、それ?」
「フィルよ! フィル」
「ああ、まあ、王子は王子だけど。なにかされたの」
イングリッドが怒って聞く。
「ううん、ぎゅって抱きしめてくれたの・・・・」
「それでのぼせあがっているの?」
「上着も貸してくれたし」
「なんかもうずうーっとこの調子なのよ。アンは男に免疫無いからね」
「あのくそフィル。もう許さないわ」
そう言うとイングリッドは飛び出していった。
「あっ、イングリッド!」
私が呼び止めようとしたがもうイングリッドはいなかった。
そう私はこの時まではとても幸せだったのだ。次のエルダに一言言われるまでは・・・・。
「で、アン、あなたはどうしたいの?」
「どうしたいって?」
「王子とよ」
「フィル様と? フィル様は王子様よ。この国の。だから、私は遠くから眺めているだけ・・・・」
私はそう言ってからがっかりした。
そうだ、彼はこの国の王子様なのだ。それも未来の王様だ。
そんな彼に私がなにか出来ることなんてないのだ。期待なんてしてもダメなのだ。彼との事を夢見てはいけないのだ。
隣の席に座っていられることを喜んでいるだけしか出来ないのだ。
私はエルダの一言で一度に現実に連れ戻されてしまった。
「ああん、エルダの意地悪。もう少し夢を見たかったのに」
そう言いながら、私は席を立った。
「これも洗って返さないと」
フィル様のジャケットを愛おしそうに撫でてハンガーにかける。
そう、私はモブにもなれなかった、平民のアンだった。
フィル様に庇われて思いっきり喜んで舞っていたけど、現実は平民のアンでしか無いのだ。絶対にフィル様の横に立つことなんて出来ないのだ。
そう思うと、目が熱くなった。
そっと押さえると涙が、流れていた。
「あ、アン」
エルダが驚いて私の側に来た。
「ご、ごめん、あなたを傷つけるつもりはなくて」
エルダが私の方をすまなそうに見る。
「ううん。私はあなたと違ってモブにすらなれなかった平民のアンだから」
「モブ?」
「ううん、何でも無い」
「アン!」
私は手で覆って泣き出した。
「ごめん、アン」
でも、エルダの言葉は痛かった。エルダは公爵令嬢で私は単なる平民のアンでしか無いのだ。本来ならば到底彼女と話も出来ないのだ。それに彼女ならば、普通に王太子のフィル様の横に立っていられるのだ。私とは立場が違いすぎるのだ。
でも、彼女達が普通に接してくれていたから、私は勘違いしていたのだ。
あのドーソンらの言う通りだった。
私はエルダらに甘えすぎていたのだ。本来はもっと、距離をあけたお付き合いをしなければいけないのだ。
「ごめん、エルダ、少し一人にしてくれるかな」
私は鏡を見て言った。
「えっ、アン! 大丈夫なの?」
「少し、一人になりたいの」
「ごめん、アン、決してそんなつもりじゃなくて」
「じゃあどういうつもりなのよ!」
私はきっとしてエルダを見てしまった。
「私はあなたと違って普通の平民なのよ。そう、ドーソンとも違って、お貴族様ではないの。だから願っても絶対にフィル様の横には立てないのよ。そう、絶対に」
「あ、アン」
「ごめん、本当に。一人になりたいの」
私は下を向いていた。
しばらく、どうしようかと迷っていたエルダだが、私の決意が固いと見たのか、出ていってくれた。
さようなら、エルダ・・・・
私は心の中で呟いた。
終わった。そう、せっかく出来た学園での友達だったのに。
そう思うと後から後から涙が、流れてきて止まらなかった。
私はベッドに突っ伏して、そのまま泣き疲れて寝てしまうまで泣いていたのだ。
フィル様を諦めて、友達までなくしてしまった傷心のアン。
そこにピンク頭が来襲します。
今夜更新予定です。
 





