聖女視点1 ヒロインに転生したのに、モブにもなれない平民風情に邪魔されていいるのでそいつを弾き飛ばすことにしました
私はパウラ・ベックマン、両親は街で働いている、しがない平民だった。
そう、4月の初旬にあった教会での魔力測定があるまでは。
その測定の水晶に触れた瞬間、私に凄まじい記憶の奔流が流れ込んできたのだ。それは私の前世の記憶だった。
私は氷河期に大学を卒業したので、就職先がなくて、ブラック企業に就職。最後はオレオレ詐欺みたいなことをして、過労で死んでいたのだ。
私は頭に蘇ったその莫大な記憶のために意識を失ってしまった。
次に気付いた時は教会のベッドの上にいた。
そして、一緒にいたシスターから、私が聖女認定されたことを知らされたのだ。
聖女という言葉に私は更にいろんな記憶が蘇った。
そうだ、この世界は私が昔やっていた『オースティンの聖女』のゲームの世界だった。
そして、私はなんと、そのゲームのヒロイン役の聖女に転生していたのだ。そして、この国の王太子と結婚し、王妃になるのだ。名実ともにナンバーワンになるのだ。転生できて良かった。
私の敵は王太子の婚約者で隣国の王女アンネローゼだ。彼女が悪役令嬢としてこのゲームには君臨している。
平民の私はこの悪役令嬢を中心としたお貴族様に虐められまくるのだ。
でも、そんな私を王太子のフィリップ様は優しく助けてくれて、最後はクリスマスパーティーでアンネローゼを断罪。断罪されたアンネローゼは隣国に戻り、隣国で政変が起こって処刑されるのだ。
このゲームは何度もした。全てをクリアした。余程大きな間違いをしない限り、私が王妃になるのは決まりなのだ。別にイケメンで優しい侯爵令息でも良いのだが、やはり王妃として一番になるのが良いだろう。
私はワクワクしてこのゲーム、改め新学園生活を楽しむことにしたのだ。
しかし、最初に王宮に行った時に、王太子から私がBクラスになったと聞いて驚いた。ゲームの中では王太子と同じAクラスで、隣の座席になる予定だったのだ。
ええええ!
違う!
ゲームの開始が本来夏休み明けの9月だから、今はBクラスなのだろうか?
また、まだ4月だからか、王太子もやたらと愛想がない。
これはおかしい。でも、すぐにうまくいくようになるはずだ。何しろ私はヒロインなのだから。
Bクラスは、男爵令息とか子爵令嬢とか低位貴族と親が金持ちの平民の集まりだった。
王妃の部下の女官長の娘もいて、皆、早速、私を聖女様聖女様と崇めてくれた。
まあ、ここは良い。
問題はどうやって王太子と仲良くなるかだ。
ここは、電話セールスの要領で、もう何回も王太子にアタックするしか無い。
私は早速王太子に会いに行ったのだ。
「殿下!」
私は他の女の子らと話している王太子の腕に縋り付いたのだ。接触作戦だ。
他の女共が唖然としている。あれ、アンネローゼがいない?
「ああ、君たちに紹介するよ」
王太子はせっかくくっついた私の手を剥がしてくれた。まあ、こうされるのは当然のことだ。これから何度もして仲良くなればいいだろう。
ここにいたのは、エルダ・オールソン公爵令嬢とイングリッド・バーマン侯爵令嬢で、二人は私を助けてくれる令嬢だ。これは仲良くなっておかないといけない。でも、もう一人いたアン・シャーリーって誰だ? このゲームは赤毛のアンの世界ではないのに。単なるモブ以下だと思うけれど、絶対にバグか何かではないのか?
私もその子の名前に唖然とした。
驚いているうちにイングリッドら女性陣は他で食べると先に歩き出した。
えっ、味方キャラに嫌われた? いや、まだ初めなのだ。最初に喧嘩して雨降って地固まるということもある。
男の側近連中の中で女は私一人だ。これは王太子にアプローチするのに、絶対的なチャンスだ。
でも、せっかく一緒に食べだした王太子は全然こちらを向いてくれないのだ。
別行動した女達の方ばかり見ている。
何故だ? ヒロインは私なのに!
そうこうしているうちに、突然、王太子が止める間もなく、赤毛のアンの方に行ってしまったのだ。
ええええ! 何この私の扱い。私が、ヒロインの私が、全くもモブ以下の扱いになってしまったんだけど・・・・
「な、何なの!」
私は他の側近たちと呆然としてしまった。
よく聞くと、この世界にはアンネローゼなんていないそうなのだ。
15年前の隣国の政変で行方不明になっていると。
ええええ! そうなの? じゃあ悪役令嬢がいないということ。
ということは赤毛のアンさえ、沈めれば、私の天下ではないか。
私は俄然やる気を出した。
しかし、何回か王太子にアプローチするんだけど、あれ以来、王太子と一緒に食事さえ出来ない。
なんか、王太子が赤毛のアンに付きっきりなんだけど。
絶対におかしい! 王太子は赤毛のアンのギルバートじゃないのだ。
私は情報収集も兼ねて、Aクラスの不満分子になりそうなドーソンとかディオーナと夕食等を一緒に食べた。
彼女らの不満は相当溜まっているみたいだ。
何故か赤毛のアンは席も王太子の隣、これは絶対に私の席だったはずだ。昼食も私が邪魔した一回以外はすべて一緒。クラス委員までアンに取られたそうだ。
「そんな、あなたのような伯爵令嬢様を袖にするなんて、なんて世間知らずな者なんでしょう。きちんと指導してやれば良いのではないのですか。ドーソン様が」
「まあ、パウラ様。そうしたいのだけど、何の間違いかエルダ様とイングリッド様がアンの傍についているのよ」
ドーソンをそそのかそうとすると、Aクラスの2トップ、エルダとイングリッドが平民モブ以下の赤毛のアンの味方をしているのだと言う。
なんなのだ。赤毛のアンは本来の私の位置にいるではないか。
ここは赤毛のアンの世界ではないのだ。この世界ではモブ以下の平民風情が何を邪魔してくれているのだ!
「やはり、ここは、ドーソン様が平民と貴族の格の違いを見せつけてやらないといけなのではありませんか」
私は悪魔のささやきをドーソンにしていた。
「そうよね。平民と伯爵の違いを判らせてやるわ」
ドーソンは不敵な笑みを浮かべていたのだ。
これで少しは思い知れと赤毛のアンに私は思ったのだが、ドーソンでは太刀打ちできなかった。
馬鹿なドーソンは殿下からアンが借りていたペンを取り上げようとして、王太子に邪魔されたらしい。
いやっ、ちょっと待て、それ私のイベントじゃん。
ゲームの中で、私はアンネローゼの取り巻きに筆入れを隠されて困っている所を、ペンを太子殿下から借りて、それをも取り上げようと怒り狂ったアンネローゼから王太子に助けられる場面があるのだ。
それによってヒロインは、益々殿下と仲良くなるのだ。仲良くなるためのイベントなのだ。
何故、モブにもなれなかった平民がそれを、私のイベントを取るのよ。
絶対におかしい!
もう許さない。ブラック企業でライバルを弾き飛ばしまくったこのパウラ様に逆らうとは。
私はいかに赤毛のアンを弾き飛ばすか、全精力を傾けることにしたのだった。
ピンク頭は不滅です。ピンク頭の猛攻の前に平民モブ以下のアンが果たして対抗できるのか。
次回明朝、乞うご期待!
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