王太子が私を抱きしめてくれました。
ま、まさか、ここにフィル様が現れるなんて!
嘘ーーー! これってひょっとしてフィル様が聖女を助ける場面じゃないの?
モブでもない私が、ひょっとしてヒロインポジションにいるの?
「大丈夫か」
フィル様は私を抱き起こしてくれた。
そして、そのまま抱きかかえるようにしてくれているんだけど、な、なんで!
「は、はい」
もう私は真っ赤だった。し、心臓がもたない。ちょっ、ちょっと麗しのフィル様に抱かれている。もう死んでも良い!
「そ、そんな」
ドーソン達はこんな私達を見て固まっていた。
私が抱きかかえられているのにショックを受けたようだった。
いやいやいや、私にもショックだからね。
「ドーソンさん。これはどういう事だ」
フィル様の発する声は抑えていたが、怒り狂っているのは私にも判った。
「い、いえ、私はその子が殿下のペンを持っているのを見たので」
「私が、アンさんに貸したペンだが、それがどうかしたのか?」
「い、いえ、殿下はそのペンをとても大切にされていると存じていたものですから」
「俺が自分のペンを貸すのに、わざわざ貴様の了解を得なければいけないのか?」
「い、いえ、そのような」
フィル様の機嫌がどんどん悪くなっていき、もうドーソンは死にそうなほど震えていた。
「ドーソン伯爵令嬢。お前は、前もアンの教科書をビリビリに破いたそうだな」
「いえ、それは私ではありません」
もうドーソンも必死だ。
「お前が取り巻き令嬢に命じたのであろう。その様に報告を受けているが」
「そ、そんな」
「違うのか。ディオーナ伯爵令嬢。貴様が主導してやったのか。それならば貴様を鉱山送りにするが」
「えっ、鉱山送りって、フィル!」
ルーカスが慌てて訂正しようとしたが、
真っ青になったディオーナはもうドーソンの方を気にもしていなかった。
「いいえ、ドーソン様に命じられました」
「な、何を言うのよ。あなたもいい気味だって言っていたじゃない」
「あなた、人に言っておいて、何もしなかったじゃない」
「今回のペンはちゃんと隠したわよ」
そう言ってドーソンはしまったという顔をした。
「アンの筆箱をどこに隠したのだ」
「いえ、その」
「鉱山送りにされたいようだな」
「いえ、私の机の中に」
「アルフ、見てきてくれ」
可哀想にアルフは見に行かされたのだ。
「さて、前回、アンの教科書がビリビリに破られていたことを聞いた俺は、お前らに言ったはずだ。次にやったら鉱山送りにすると」
「いやいやいや、ちょっとまて、フィル。それは俺らも今、初めて聞いたぞ」
「そうだ。それにこんな虐めで鉱山送りなんて聞いたこと無いぞ」
バートとルーカスが必死に言い募る。
「何だと、言ったはずだ」
「聞いていないぞ」
「それにイングリッドが言っていたのは1週間の女トイレ掃除だ」
「何! たったの1週間だと。1ヶ月だ。そもそもトイレ掃除など生やさしすぎるだろう。最低でも、修道院送りだ」
「そんな訳あるか」
「トイレ掃除でも嫌だって言うと思うぞ」
「そうなのか。ドーソン」
おーーい。もう呼び捨てになってますけど。私は余程言おうと思った。
「い、いえ、トイレ掃除で結構です」
「じゃあ、一ヶ月だ。それで許してやる」
「わ、判りました。一ヶ月やります」
「いや、あの殿下。それはきつすぎるのでは。たかだか筆箱を隠されたくらいですし、今回は被害がありませんし」
「何言っている。君の制服のポケットが破れているではないか」
「きゃっ」
そうだ。忘れていた。胸ポケットが破かれてちょっとブラウスが見えていのだ。私は慌てて胸を隠した。まあ、日本人の感覚ではブラウスがあるから良いかな なのだが、この世界の感覚ではあまり良くないようだ。
私は、もう真っ赤だった。
「これでも羽織っていると良い」
殿下が上着を脱いで私にかけてくれた。嘘ーーー! フィル様の上着、上から着せてもらえた。
もう私は死んでも良かった。
そのまま、私はフィル様に寮の前まで抱き抱えられるように送ってもらったのだった。
それはもう本当の恋人のように。皆の注目を一身に浴びて、本当のヒロインになった気分だった。
これがいつまでも続けばいいと神様に祈ったのだった。
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で、続きは今夜
ついにピンク頭登場です。





