取り巻きモブ令嬢に王太子のペンを取り上げられそうになった時に王太子が来て助けてくれました。
私はイングリッドらがあそこまで脅してくれたんだから、もう物が無くなる事は無いだろうと思ったのだ。はっきり言って浅はかだった。フィル様人気を甘く見ていたのだ。
お昼から帰ってくると今度は筆箱が無くなっていたのだ。
「えっ、嘘」
私は慌てて探したんだけど、無い。机の中も鞄の中もなかった。お気に入りの消しゴムとか入っていたのに!
それにそもそも鉛筆が無いとノートに書けない。頭の中に書けばいいとかいう訳の判んないのは私には無理なのだ。
どうしよう?
私が途方に暮れた時だ。
隣から魔導ペンが差し出されたのだ。
「えっ、フィル様」
「筆箱がないんだろう。俺の使い古しのペンをあげるよ」
え、ええええ。フィル様の使っているペンをもらえるの? 嘘っ。めちゃくちゃ欲しい。ファン垂涎の物だ。それに魔導ペンなんて高価すぎて使ったこともない。でも、さすがにそんな高価なものを貰うのはまずいだろう。
「い、いえ、そのような高価なものを頂くわけには・・・・」
私は残念そうに言った。
「いや、気にしなくていいよ。このペンは古くてもう捨てようと思っていたところだから、それで良ければ使ってくれていいから」
「えっ、でも」
「ゴミ箱に捨てるよりもアンさんに使ってもらったほうがペンも喜ぶよ」
「じゃあ、とりあえず、お借りしますね」
私は嬉々としてペン受け取った。
うーん、フィル様のペンに触れた。良い肌触りだ。いかんいかん、思わず自分の世界に入ってしまうところだった。
ここは頬ずりするのはとりあえず止めて、とりあえず、書いてみる。
嘘ーーー、ちゃんとかける。そして、ペンの後ろで消してみる。
軽くこするだけで消える。凄い! 前世のシャーペンよりも格段に使いやすい。
私はもう感動した。昔から欲しかったのだけど、鉛筆の1万倍くらいの値段がするので到底我が家では手に入らなかったのだ。それに、これ全然古くない。捨てるからあげるなんて絶対に嘘だ。
私が色々やっているさまを横からフィル様がニコニコして見ているのを知らなかったのだ。
「シャーリーさん。どうかしましたか」
先生の声がした。
「えっ、す、すいません」
どうやら心の声が漏れていたみたいだ。教室中が私を見ていたのだ。
私は真っ赤になった。
もう、フィル様も教えてくれたら良いのに。
まあ、でも、これフィル様のペン。まさか、お借り出来るなんて夢にも思っていなかった。
授業が終わって、
「フィル様。これ本当にありがとうございました」
私はちゃんとペンを返そうとしたのだ。自分でも本当に褒めてやりたい。心の悪い部分はもらっちゃえって叫んでいるのに・・・・。良心がかろうじて言わしめたのだ。
「でも、無いと不便だろう。本当に捨てるものだから、使えなくなるまでアンさんに使ってもらっていいよ」
「でも、このような高価なもの頂くわけには」
「じゃあとりあえず、明日まで、持っていていいから」
「えっ、でも」
「ごめん、少し急いでいるから」
フィル様はそう言うと出ていってしまわれた。
ええええ、本当に借りて良いの? 私は有頂天になった。ようし、これで書いて書いてかきまくるぞ。早速勉強しよう。絶対に勉強もはかどるはずだ。
イングリッドは委員会に、エルダは野暮用があるとのことで、私はとりあえず、寮に帰ろうとしたのだ。
しかし、中庭に出た途端に、ドーソン伯爵令嬢ら10名以上のお貴族様に取り囲まれてしまったのだ。
「ちょっと、そこの平民のあなた。どうやってオールソン公爵令嬢やバーマン侯爵令嬢を誑かしたか知らないけれど、ちょっとやり過ぎでないの。平民の分際で殿下に馴れ馴れしすぎるわ」
ヒルデガルド・ドーソンが言った。
確か、ゲームではアンネローゼの子分だったような気がする。こんなつり目の令嬢がいたのだ。
「本当に。殿下がお優しいからって、それに甘えすぎなんじゃないの」
「信じられませんわ」
「平民のくせに」
これこれこれ、ついに私もお貴族様のいじめに遭遇したのね。あんまり気分の良いものではないけれど、これも経験よ。転生できて良かった。
「教室だけでなくて、いつもお昼時に、殿下の横にいるなんて信じられませんわ」
「遠慮しなさいよ」
「何故、黙っているのよ。何か話しなさいよ」
えええ、人生初の、まあ前も一回あったけど、あれはエルダがいたから全然やられなかったし、お貴族様に囲まれて虐められる初体験だ。
次は引っ叩かれるのかな。うーん、でも痛いのは嫌だ。私がヒロインならば、ここでフィル様が颯爽と現れて助けてくれるのだ。
確かゲームでは、ヒロインの聖女が悪役令嬢のアンネローゼ一派に囲まれて、フィル様から借りたペンを取り上げられそうになるのだ。そこにどこからともなく、フィル様が現れて、ヒロインを助けてくれるのだ。
「ちょっと、あなた、その胸に挿しているペン。殿下のでなくて」
少し妄想していた私の胸元を見て、吊り目が目ざとく見つけてくれた。
えっ? そう言えば私、殿下に借りた魔導ペンを胸ポケットに入れていたんだ。
「ちょっと、見せてご覧なさいよ」
ドーソンが私の胸に手を伸ばしてきた。私はポケットごと押さえた。
「これは殿下からお借りしたのです」
「嘘おっしゃい。これは殿下がとても大切にされているペンなのよ。あなたごときにお貸しになる訳はないわ」
「ちょっ、ちょっと、止めて、破けるから」
ビリっと言う音とともに胸ポケットが裂けて、殿下からお借りしたペンが取り上げられた。
私はそのまま勢い余って地面に叩きつけられた。
「ほら、やっぱり、これは殿下の大切になさってるペンよ」
勝ち誇ったようにドーソンが言う。
「ちょっと返してください」
私がドーソンからペンを取り戻そうとするが、ドーソンの取り巻き達に邪魔されて近づけない。
「これは私から殿下にお返しするわ」
こ、こいつ何を言っているのだ。私が殿下からお借りしてた物を取り上げられる訳にはいかない。
私が必死に取り巻き達をどけようとした時だ。
「何をしている!」
そこに怒声が響いた。
その声に全員固まった。
そこにはこの物語のヒーロー、フィル様がいらっしゃったのだ。
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