王太子視点1 行方不明の婚約者に似た人に会いました
俺はこの国の王太子、フィリップ・オースティンだ。
今は16歳になっているが、今もまだ婚約者はいない。いや形式上はいるにはいるのだ。アンネローゼ・スカンディーナという婚約者が。彼女は隣国の元王女で、彼女の母の王妃アンネが我が国に留学していた縁で仲の良い両親同士が、俺たちが生まれてすぐに婚約が決まったのだ。何しろ彼女の名前には彼女の母のアンネと我が母ローズマリーの二人から取られているほど二人は仲が良かったのだ。
しかし、隣国のスカンディーナ王国で魔術師で王女の配偶者だったブルーノが反逆した時、彼女も行方不明になったのだ。それ以来、行方は判っていない。
小さい頃は、婚約者なんて何の事か、よく知らなかった。でも、乳母が赤毛の赤ちゃんの絵姿をよく見せてくれたのだ。小さい時はアンネローゼの母がいかにお転婆だったか、母も話してくれたりもした。
でも、しばらくするとアンネローゼの話は母もしなくなるし、乳母は家庭教師に代わって、誰からも聞くことは無くなった。教師の何人かがたまにこの国に留学していたアンネ様の話をするくらいだった。
そして、俺が10才の時に新たに婚約者を決めることになった。
「でも、お母様、私にはアンネローゼがいるのでは」
俺は思わず言ってしまっていた。それまであまり考えていなかったが、頭の片隅では覚えていた。
「何を言うの! フィリップ。アンネローゼの事はもう忘れなさい。生きているかどうかも判らないし、亡国の王女なんて王太子の貴方の婚約者でいられるわけ無いじゃない!」
「そんなのその子がかわいそうじゃないですか! 反逆されて追放されたのはその子のせいじゃないでしょ。どこかで震えているかもしれない可哀相な子を捨てるなんて僕にはできない!」
「貴方まで何を言うの! オールソン公爵もバーマン侯爵も好きなこと言って! 貴方の婚約者をいつまでも行方不明の子にしておくなんて出来ないでしょ!」
そう言うと母は怒って出て行った。
強引に開かれた俺の婚約者を決める母のお茶会で、怒った俺はブスッとしていた。でも、そんな俺の周りにも女の子たちがいっぱい群がって来たのだ。俺は更に不機嫌になった。でも、それにもめげずに次から次に女の子が来るのだ。
さすがに頭にきて怒鳴りそうになった時だ。
ダンッ
俺の顔面にハンカチを集めて丸めたボールが直撃したのだ。
「ごめんなさい!」
見た目は可愛らしい女の子が、こちらに走ってきた。でも、絶対にこいつはわざとだ。
目が笑っていやがる。
そもそも、今日は俺の婚約者候補を決めるのと側近候補を決めるためのお茶会なのだ。
たくさんの子供達が集まっていたのだが、そこでボール遊びをしているなんてどういう事だ!
その男女は母が文句を言っていたオールソン公爵家とバーマン侯爵家の兄妹だった。むしゃくしゃしていた俺は、女の子たちを放っておいて、強引にその中に入らせてもらった。
ボール遊びはむしゃくしゃしていた俺の気分転換になった。
俺は俺にボールをぶつけてきたそのイングリッドとかいうおてんば娘が気に入ったのだが、イングリッドは全く俺の方は向いておらず、オールソンの兄の方ばかり向いていたのだ。そして、そのオールソンの妹の方は、はたまた、バーマンの兄の方ばかり見ているのだ。彼女らの両親は仲がいいらしい。その縁でよく一緒に遊んでいるそうだ。
俺はそれを羨ましいと思った。
「あなた、今回のお茶会、ひどくない? あなたには行方不明のアンネローゼ様がいるじゃない。今もどこかで苦労しているのよ。その子は。飢えているかもしれないし、死にそうになっているかもしれない。なのに、こんなお茶会なんて開いて! その子が落ちぶれたからって、その子を捨てるの? そんな薄情な王太子に誰がついていくのよ」
そのイングリッドの言葉には俺は言葉もなかった。
「おいおい、イングリッド、王太子殿下にも立場というものがあるんだ。ご自身のお考えだけでは行動できないだろう」
イングリッドの兄が俺を庇ってくれた。
「何言っているのよ。お兄様。王太子はこの国で二番目に偉いのよ。自分の意志で何ととでも出来るわよ。不機嫌な顔してても、この会を開いた事自体が、アンネローゼ様に対する裏切りよ。お父さんもお母さんも殺されて、逃げている女の子を捨てる超薄情な王太子じゃない。男として最低よ」
イングリッドの言葉はグサグサとオレの心に突き刺さった。
そうだ。俺は王太子なんだ。俺がこの国を背負っていくのだ。その俺が両親を殺されて身分を剥奪されて行方不明になっている女の子を見捨てて良いのか? それが未来の王として、国民に対して誇れるのか?
俺はお茶会の後に両親にその旨をはっきりと言い切った。
母は、怒り狂ったが、俺は頑として考えを変えなかった。
父は困り果てて俺たち二人を見ていたが、何も言わなかった。
以来、俺は必死に勉強に剣術に魔術に力を入れて頑張った。
いつ、アンネローゼが見つかっても恥ずかしくないように。
でも、アンネローゼは依然見つからなかった。
俺は彼女がこの国に逃げてきているかもしれないと、いろんなつてを使って探させたが、彼女は見つからなかった。
彼女の母は魔力が大きかったから、魔力検査で見つかるかもしれないと期待していたが、学園の魔力検査でもそれらしきものはいなかった。俺の隣の席の赤毛の女の子が、全属性持ちなのが判って、驚きはしたが、肖像画のアンネ王妃はもっと落ち着いた感じだったし、顔貌も違うと思ったのだ。
まあ、この子もお転婆で、俺の嫌いな人参を俺の口に突っ込んでくれたりしたが・・・・
でも、近代史の教師の一言に、俺は目を見開いてアンを見たのだ。
「アンネ様!」
近代史の教師はなんとアンを見て、アンネローゼの母の名前を言ったのだった。
お忙しいところここまで読んで頂いてありがとうございます。
アンは果たしてアンネローゼなのか?
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