クラス委員を王太子と一緒にやることになってしまいました
そして、ホームルームの時間が来た。今日のホームルームは委員決めだそうだ。
正副クラス委員長に体育委員、図書委員、保健委員を決める。日本みたいに規律に厳しい生活委員がないのはゲーム制作者が嫌だったからだろうか?
チャイムの音とともに担任のエレオノーラ・ルンド先生が入ってこられた。本当にこの先生は時間に正確だ。
「では、皆さん。今日はこの前お話していたように、各委員決めをします。まずは正副クラス委員を決めて、その後はクラス委員にやってもらおうと思います。まずクラス委員長ですが、立候補、推薦等はありますか」
先生の声にさっと手が上がった。
「はい、先生」
「ドーソンさん」
「私は王太子殿下が良いと思います」
ヒルデガルド・ドーソン伯爵令嬢が推薦した。まあ、このクラスにいらっしゃる最高位だ。当然と言えば当然だろう。
「異議なし」
令嬢方の声がする。すさまじい人気だ。やっぱりフィル様は人気があるのだ。
そんなフィル様を昼食の時に独占している私は絶対に恨まれていると思う。いやエルダとイングリッドも一緒にいるし、二人だけで食べているわけではないのたが、この二人はクラス内いや学校内でもトップのヒエラルキーにいるので、誰も文句を言えない。でも、フィル様の横に座っているのは授業中も食事中も私だ。
しかし、平民の私には誰でも文句が言えるはずだ。絶対に私は恨まれていると思う。出来たら今後の食事は私だけ別のところで食べた方が良いのかも・・・・。
このままいると殺されかねないほどの恐怖を感じるのだけれど。
「ほかは推薦、立候補はありませんか」
先生の声に
「ありません」
女性陣が一斉に声をあげた。これは本当にやばいんじゃ・・・・。私はそう思ったのだ。
「では、オースティンさんで決定します」
先生の声に拍手が起こった。
「では副委員長ですが」
女生徒たちは皆なりたいんだろうな、だって憧れのフィル様と一緒に仕事が出来るんだから。私はモブですらない平民だからなれるわけないし、なって皆の嫉妬を一身に受けるつもりもなかったのだ。
「ハイハイハイ」
イングリッドの大声が聞こえたのだ。へええええ、珍しくイングリッドがしたいんだ。私はあくまでも他人事だった。イングリッドの声を聴くまでは。
「バーマンさん。ハイは一回でお願いします」
ビシリとルンド先生が注意する。
「はい! 私は末尾がeのシャーリーさんが良いと思います」
「はっ?」
私は思わず声が漏れてしまった。イングリッドは何を言ってくれるのよ。止めて! 私まだ死にたくない! それに末尾がeって言うな。シャーリーの末尾はeじゃない!
しかし、私の心の声は全くイングリッドに届かなかった。
「理由は、シャーリーさんの名前は既に学園中に広まっています」
それ絶対に火の玉で一撃で倉庫を壊したっていうやつだ。私は頭が痛くなった。
「それに、彼女は王太子殿下の横に座っていながら、授業中は全く殿下の方を見ようとせずに、外を見ています」
ええええ! ルンド先生の前で何てことバラすのよ。厳しいんだから、注意されるじゃない!
「副委員長が殿下の方ばかり見とれていたら仕事になりません」
イングリッドは笑みを浮かべて女性陣を見回した。
「でも、貴族の多いこのクラスをまとめていくのは彼女では荷が重いのでは」
ドーソンが一抹の希望を持って言った。いや、もっと言って! 私やりたくないから。前世も含めた今までの人生で、そんな大それたことやったことないから。
「何を言っているのよ。ドーソンさん。シャーリーさんは、最初からオールソンさんのことも呼び捨てなのよ。公爵令嬢ですら呼び捨てに出来る度胸があるんだから、誰に対しても物怖じなんかしないし、大丈夫よ」
止めて、私の黒歴史をバラすな! それに誰でも呼び捨てにするみたいに言うな!
もう私はイングリッドには黙ってほしかった。
でも、一度話しだしたイングリッドが黙るはずもなかった。
「それに入寮の時に遅刻してきたのに、あの怒り狂った生徒会長が名前を呼んだら、末尾がeのアン・シャーリーですって訂正させたのよ。あなた、そんな事できるの?」
「・・・・」
ドーソンさんはさすがに黙ってしまった。いや、そこで黙るな。出来るっていえ。
しかし、私の心の声は届かなかった。
「うーん、でも、今のバーマンさんの話を聞いていると何か問題しかないように思うのだけど」
先生が言ってくれた。そうだ。そのとおりだ。
クラスの女性達も少し希望を持ったようだ。
でも、それを更にイングリッドが潰してくれたのだ。
「痛い!」
イングリッドの傍の席のいつも一緒に食事をしているルーカス・ヘドルンドが叫んでいた。
見るとイングリッドが足を踏んだらしい。
「はい。ヘドルンドさん。何か?」
先生が聞くと、ルーカスは、足を押さえながら、イングリッドに目で促されて、
「私もアンさんでいいと思います。そう言わないと、ベッティル先輩みたいにイングリッドに水を頭からかけられそうですから」
「バーマンさん。先輩に対してそんな事をしたのですか?」
「ええええ、だって殿下に命令されて」
「えっ、いや、命令はしていないぞ」
イングリッドの声に、いきなり矛先を向けられたフィル様はシドロモドロになっておられた。
結局
「アンでいいと思うよね」
というイングリッドの声で、私が蚊帳の外のうちに、その後のイングリッドの報復が怖くて? 男子連中を中心に、皆、拍手してくれたのだ。
な、何でこうなった。
私は結果にただただ呆然としている中、壇上にフィル様と立たされたのだ。
皆の、特に女性徒達の視線が怖いんだけど。
「皆さんのご意思によりクラス委員長になったフィリップです。ただし、イングリッドさん。私はこのクラスでは王太子ではなくて、あくまで一生徒です。フィリップ、ないしフィルと呼んでください」
「フィル頑張って」
イングリッドはその言葉に答えて声援を送った。
「はい、ありがとうございます。それでは1年間宜しくお願いします」
一斉に盛大な拍手が起こった。
次は私の番だ。人前で話すのには慣れていないんだけど・・・・
「えっと、副委員長を拝命することになりましたアン・シャーリーです。フィル様の事を見ないのは畏れ多くてみれないだけで・・・・」
「よく言うよ。それでフィルの嫌いな人参口の中に放り込むか」
アルフが余計なことを言ってくれた。やめてーーーー! 女性陣の視線が怖いから。頼むから。私は泣きたくなった。
「いや、だから、それは隣の家の男の子にいつもやっているのでその癖でついやっちゃっただけで」
私は赤くなってなんとか言い訳した。もう女性陣の視線の怖いこと。
「どうだか」
アルフは納得しないみたいだった。
「1年間頑張ってね」
戸惑った私に代わってイングリッドが大声で言ってくれて拍手してくれた。
それに男子生徒たちが加わる。女性徒はパラパラだったけど、絶対に恨んているだろうな。私は後が怖かった。
「では、まず、体育委員ですが」
「はいはいはい」
またイングリッドがまた、盛大に手を挙げた。
「えっ、止めてよ」
エルダが嫌そうな顔をした。今度は自分が推薦されると思ったのだろう。
でも違った。
「オールソンさんでもいいとは思ったのですが、球技大会があるので私がやりたいです」
それ聞いて肩透かしを食ったエルダは机に突っ伏していた。
まあ、イングリッドが予想通りの行動するわけもない。それにイングリッドに逆らえる者がいるわけはなく、女生徒はイングリッドが、男子はアルフがなった。
私はフィル様の司会で書記としてそれを黒板に書いていった。
それからはサクサクと皆希望者が出たりして決まっていった。エルダは図書委員になっていた。
でも、女生徒の憧れの的、お貴族様方からしたら婚約者にしたいナンバーワンの候補のフィル様を、教室でも、食事時でも、更にクラス委員まで私に取られて、さすがに他の貴族令嬢たちが指を咥えて見ているだけなんてありえなかった。私がただで済むわけはなかったのだ・・・・
翌日の昼食の終わったあと帰ってくると、教室においておいた私の歴史の教科書が無くなっていたのだ。
ついにイジメ勃発です。どうするアン?
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次は今夜更新予定です。