辛子を突っ込んだのは王太子で、その後やたらと私に構うようになったんですけど
辛子の辛さにのたうち回っているベッティル様の横に、いつの間にか見慣れた金髪碧眼の麗しい方がいらっしゃった。
「いやあ、悪い悪い、大変そうだから水の瓶を突っ込もうとして、間違って隣の辛子のチューブをつっこんじゃったよ」
私の横にはにこやかに笑っているフィル様がいた。でも、目が笑っていないんだけど。なんか怒っている。今まで聖女と仲良くしていたのに!
私は目が点になっていた。まさか、イングリッドがやるならいざしらず、フィル様がこんな事やるなんて・・・・
「フィル、貴様、良くも・・・・水、水をくれ」
「イングリッド、水だって」
「いや、待て」
慌てるベッティル様の頭の上からイングリッドが魔術で水をぶっかけたのだった。
ベッティル様はまさしく濡れ鼠になっていた。なんか少し可愛そうだ。
「お、お前らな。先輩に対してなんて事を、しやがる」
「まあ、先輩。乾かしてあげますから」
「当たり前だ」
怒っているベッティル様にフィル様は温風を当てた。
「あちっ、熱いって」
ベッティル様が叫ばれる。
「乾かすためにはこれくらい必要なんですよ」
フィル様の目が怖いんだけど。何に怒っているんだろう?
「お前らな。どうせなら、アンちゃんにやってもらいたい」
「何か言われました」
そう言うフィル様の目が怖い。
「熱い、お前、更に温度上げているだろう!」
ベッティル様が叫んでおられる。
「あのう、ベッティル様、私、魔術を人に対して使ってはいけないってガーブリエル様に厳禁されているんです。死人が出るかもしれないからって」
「わっ、判った。いや、良い。俺もまだ死にたくない。今年の一年は本当に恐ろしいな」
「何か言われました?」
「イヤイヤ、何も言っていないよ」
イングリッドに言われて慌てて、食器を持ってベッティル様が立ち上がられた。
「イェルド、クリストフ、先に行っているぞ」
慌てて、ベッティル様は出ていかれた。
「で、殿下、ベッティルにやりすぎなのでは」
さすがに生徒会長が苦言を述べられた。
「いやあ、申し訳ない。つい、手が滑ってしまったんだ」
フィル様は全然すまなさそうには見えないんですけど。
「アンさん。それよりも全然食が進んでいないじゃないか。ベッティルさんなんかの面倒を見る必要なんて無かったのに」
フィル様はそのままベッティル様の座っていた席に座られるんだけど。聖女をほっておいて良いんだろうか?
「いえ、そう言うわけではなくて、ちょっと食欲がなくて」
「えっ、大丈夫なの」
急に心配そうに言われると私のおでこに手を当てられたのだけど・・・・私は真っ赤になって固まってしまった。ウッソー、フィル様におでこ触られた。それにやたらと近いんですけど。
もう私は沸騰しそうだった。
「ちょっとアンさん。熱あるんじゃない」
「フィル、女性のおでこに無闇に触らない」
イングリッドが注意してくれた。
「そんな事言ったって、病気なら医務室に行かないと」
「だ、大丈夫です」
手を離されて私はホッとした。
「本当に?」
いや、ちょっとフィル様の顔が近い、近すぎるんですけど!
もう私は本当にパニックだった。
「食べられないんなら、この前は俺が食べさせてもらったから、俺が食べさせようか」
「いえ、大丈夫です。自分で食べられますから」
もう私は必死だった。だってこんなところで王太子殿下に食べさせられたなんて噂が広まれば、また、王妃様から呼び出しは確実だった。
その後、フィル様は椅子を近くまで引っ張ってきて、ずうっと私の横にいて、やたらと食べさせようとするんだけど。本当に食べづらかった。
それに、エルダとイングリッドの視線も痛いんだけど。
あなた達もそんなに変わらないじゃない!
王太子に公爵兄妹、侯爵兄妹という、学園のヒエラルキーのトップの中に、一平民のモブにもなれなかった私がいるだけでも変なのに、更にそのトップの王太子に世話を焼かれるなんて絶対に変だった。
お忙しい中、ここまで読んで頂いてありがとうございます。
犯人はフィルでした。その理由は・・・・。
ちなみに、ここでは3枚目のベッティルですが、学年では3番めの人気です。軽さと気さくさが人気の秘密だとか。