領都の屋敷に乗り込みました
「ガーブリエル様。どちらに行けば良いでしょうか?」
私は領都がブルーノの軍に襲われていると知って、どこから手をつければよいかすぐには思いつかなかった。
「まずは、領都の屋敷じゃろうて。反乱を起こした家令も、まさか、ブルーノに裏切られるとは思ってもいなかったろうて。それを知って今頃恐慌を来しているじゃろう。そこを突けば良かろう」
「判りました」
あの家令、私を邪魔者のように見ていたけれど、この状況なら私の言うことも聞くだろう。
その上でみんなと協力して戦えば、なんとかなるかもしれない。
私達が転移しようとした時だ。
「待て、アン、俺も連れて行ってくれ」
フィル様が行ってきたけれど、
「しかし、このような場に一国の王太子を連れて行くわけには行きません」
私はきっぱりと言った。
「しかし、ガーブリエルは我が国の大魔術師ではないか」
「儂は『アンを見捨てて隣国の王女と婚約した王太子のいるこんな国にはいられない』と陛下に辞表を叩きつけてきているのです」
「俺はアンと婚約破棄していない!」
ガーブリエル様の声にフィル様は反論しているけれど、
「はてさて、それはどうしたことでしょうな。クリスティーンが見つけ次第串刺しの刑だとか怒り狂っておりましたが・・・・」
何かフィル様の顔が真っ青だ。
「だから俺は何も知らなかったんだ」
「ふんっ、それで済む問題ですかな」
ガーブリエル様が更にフィル様に塩を塗り込んでいるんだけど。
「まあ、一緒に来たければご自身の立場を儂のようにスッキリさせてから来るんですな」
そう言うとガーブリエル様は何か言いたそうにしていたフィル様を置いて転移した。
転移した先は謁見の間で領主席の前でヤルモらが喧々諤々やっていた。
「どうなっている。何故国軍は我らを攻撃してきたのだ」
「不明です。問答無用で攻撃してきて、現場は大混乱です」
報告している兵士も混乱していた。
「ブルーノは元々、疫病にかかったこの地をお前らもろとも見せしめに皆殺しするつもりだったのじゃ」
後ろからガーブリエル様が声を上げた。
「貴様何奴だ」
「儂か、聖女アン様のお付きのガーブリエルという者じゃ」
「あっ、アン様だ」
後ろの私を見て兵士が叫ぶ。
「ガーブリエルってオースティンの大魔術師だ」
知っていた兵士の1人が言った。
「ブルーノ様の師匠でもあるぞ」
「そこのもの。ブルーノは勘当した。二度とその名前を出すではないわ」
冷たい冷気をまとった声でガーブリエル様が吐き捨てた。
言った兵士が息を飲む。
「ヤルモさん。あなた達はブルーノに良いように操られたのです。元々ブルーノはこの領地の者を許すつもりはないと」
「ああああ、だからお館様にはブルーノ様には逆らってはいけないとあれ程申し上げたのに。なのに、お館様はお前を見捨てるに忍びないと匿ったのだ」
ヤルモが言う。
「何を言うのじゃ。疫病を治してもらって、その言い草、貴様は人の心がないのか」
ガーブリエル様が怒りの声で杖で指した。
「ガーブリエル様、お待ちを」
私は魔術を射出しようとするガーブリエル様を止めた。今は中で揉めている時ではない。
「しかし、アン」
「ヤルモさん。今は仲違いをしているときではありません。生き残るためには捕まえている人々を全員開放して国軍に当たらないと」
「しかし、」
「生き延びたいのでしょう。直ちにそうしなさい」
私は思わず叫んでいた。
私とヤルモは睨み合った。
二人の間で火花が散るが、先にヤルモさんが視線を反らした。
「判りました。直ちにお館様達を開放しましょう」
「ヤルモ様。それでは俺たちの立場が」
兵士の一人が不安そうに言った。
「仕方がない。今のままでは全員ブルーノに殺される。少しでも生き残れる可能性にかけないと」
「あなた方の処罰は下らないように私からも伯爵にお願いします。だから急いで」
私が言うと
「判りました。聖女様」
兵士たちは諦めたように言うや、慌てて駆け出した。
「アンも甘いのう」
私の後ろでガーブリエル様がボソリと言われた。
けれど私は聞こえないふりをして、ヤルモさんに現状の戦況を確認しだした。





