王太子視点13 兵士に追われて濁流の中に飛び込みました
俺たちは意気揚々と歩き出した。
警戒している騎士達から見つからないようにやり過ごし、そのまま山道に入る。
しかし、ヴィルマルに、教えてもらった道はとても大変な獣道だった。いや、兵士達を避けるために道すら途中から外れたのだが。
山の中の藪の中をただひたすら突き進む。木の枝が、次々に現れて俺たちの進むのを邪魔した。時には枝が口の中に入る。顔中傷だらけになった。
藪漕ぎは本当に大変だった。
しかし、そんな事は言ってられないので、先頭を交代しながらただひたすら突き進んだのだ。
しかし、言葉にすると大したことはないが、これが結構大変だった。
「ギャ」
俺は思わず悲鳴を上げた
アルフの後ろを歩いているときにアルフが跳ねた木がモロに俺の顔面に直撃したのだ。
「あっ、すまん」
アルフが謝って来る。
「いや、気にするな」
顔を押さえつつ俺が言う。
「フィル、お前、顔中傷だらけだぞ」
「お前もな」
俺たち二人は顔を見合わせた。
本来笑いたかったが、そんな元気もなかった。
「少し休憩にしないか」
ルーカスが俺たちに声を掛けてきた。
「そうしよう」
俺たちはその場に適当に座り込んだ。
水筒から水を口の中に流し込む。
既に歩き出しててから10時間が経過していた。
足も結構疲れていた。
「どれくらい来た」
「まだ半分も来ていないんじゃないか」
「恐らく今いるのはここらへんじゃないかな」
ルーカスが示した地図ではまだ3分の1も来ていなかった。
「まだここかよ」
アルフが嘆いた。
「先は長いな」
バートもうんざりする。
「お前たちは無理してついてこなくても良かったんだぞ」
俺は疲れ切った感じの二人に言った。
「何言っているんだよ」
「お前一人に行かせられるかよ」
「そもそもフィル1人だと道に迷っていたろう」
アルフとバートの言葉にルーカスが追い打ちをかけるように言う。
「そんな事は無いぞ」
「地図も良く読めないくせに」
「それは慣れていなだけだ」
「はいはい」
「本当に無謀だよな」
ルーカスらにバカにされるが、こんな道なき山道を行動することは今まで無かったのだ。いつもは
街道を馬で飛ばしていて、地形を見て今いる位置を知るなんて事をした事もなかったのだ。
それに街道にはもっと地図の目印とかが色々あるのだ。
まあ、今後は軍を率いて山の中を行軍する事もあるだろう。もう少し読図にも慣れた方が良い。もっとも地図がきちんとあるかどうかは別の話だが。
その日はその後3時間歩いて、疲れ切った所でバートが土魔術で簡易の小屋を作ってくれた。
固形のスープのもとに食べられそうな周りの草と干し肉を放り込んでシチューにする。
火はアルフが魔術で調整してくれた。こういう時には二人がいてくれて便利だった。
結界は俺とルーカスで張る。
それだけやると、俺たちは疲れ切って寝てしまっていた。
翌朝は暗いうちから起き出して行動を開始する。
うまく行けば今日中に伯爵領の領都に着くはずだ。
俺はやっとアンに会えるかもしれないとの思いだけで惰性で歩いていた。
それが良くなかったのだろう。
何気なく出た広場でスカンディーナの兵士たちに出くわしたのだ。
こんな山の中にまで兵士たちがいるとは思ってもいなかったのだ。
「お前たち何者だ」
「いやあ、道に迷ってしまって」
兵士の誰何に俺は思わず言っていた。
「迷い人か。しかし、背中に背負っているのは何だ」
考えたらオースティンの背嚢を背負ってきたのだ。服装は庶民の着る平服だったが、背嚢は見るやつが見たら判ってしまう。
こいつらは伯爵の兵だろうか? それならばよかったが、しかし、襟につけているのはスカンディーナの国軍のマークだった。疫病が流行っているので閉鎖している兵なのだろう。
「いやあ、死んだ父のを勝手に持ち出してきたんですよ」
ルーカスが後ろから笑っていってきた。
「お前たち、どこから来たんだ」
兵士はそんな言葉に騙されてはくれなかった。ますます怪しいとこちらを睨みだしたのだ。
もうここまで来たら仕方がなかった。
「風よ、吹け」
俺は風魔術を兵士たちに叩きつけていた。
「ギャ」
兵士たちは弾き飛ばされていた。しかし、こんなのは少しの気休めにしかならない
俺たちは慌ててかけ出した。
「おい、待て!」
兵士たちが駆け出して追ってきた。
俺たちは必死に逃げた。
そして、開けた所に出たと思ったのだ。
しかし、目の前には轟々とうねりを立てた濁流が流れていたのだ。
俺は慌てて落ちそうになったので、近くの木に捕まった。
濁流は俺を飲み込もうと所々渦巻いて流れていた。
「おい、どうする?」
ルーカスが聞いてきた。
「飛び込むしかあるまい」
「この中にか?」
アルフが聞く。
「おい、いたぞ」
兵士たちが迫ってきた。
「ええい、ままよ」
俺は崖の上からダイブして濁流の中に飛び込んだのだった。





