聖女アンとして、伯爵領に迎え入れられました
「アンネローゼ様!」
私は会いたくない所でメルケルらに会ってしまったのだ。
私は言葉もなかった。
「アンネローゼ様だと」
伯爵はメルケルらの声に私を改めて見てきた。
「アンネローゼ様。わざわざ我が領地にお越しいただけたのですか」
感激して伯爵が声を上げた。
「いや、伯爵様。私は単なる旅人のアンで」
「いやいやいや、まさかこの地にアンネ様の忘れ形見の御身がいらして頂けるとは」
伯爵は感激していた。
「え?」
みんな、伯爵の言葉に固まっていた。
「あ、アンネローゼ様って、誰だ?」
ハッリらは頭が疑問符だらけになっていた。
「ば、馬鹿者、前王妃殿下の娘子じゃ」
「えっ、じゃあ、王女殿下?」
みんな驚いて慌てて頭を私に下げだしたんだけど。
「いや、皆さん、止めてください。私は単なる平民のアンで」
「何をおっしゃいます。御身はアンネローゼ王女殿下ではありませんか」
伯爵が言い切るんだけど。私は今は平民のアンだ。
「伯爵様。私はあくまでも平民のアンなのです」
私は伯爵に再度言い聞かせたのだ。
「なるほど、左様でございますな。流石に今名乗られるのは良くはないですな」
やっと伯爵は納得してくれたみたいだけど、本当だろうか。
「だから、皆さんにも平民のアンでお願いしますね」
私は皆に言った。
「と言うことだ。村長。判ったな」
「はい、私は問題ございませんが」
村長も周りを見た。
皆もこくこく頷いてくれた。
「まならば、聖女アン様。取り急ぎ我が館にお越しいただけますか」
聖女ってあんまり王女と変わらないような気がするんだけど・・・・
「でも」
私は慌ててヒルッカさんを見た。
「聖女アン様。本当にありがとうございました」
ヒルッカさんが頭を下げてきた。
「いえ、私こそ、生き倒れた私を助けて頂いて本当にありがとうございました」
私はヒルッカさんに頭を下げた。
「いえ、アン様には疫病に苦しむ私達を助けていただいたのです。私たちはどんな時も貴方様を絶対に支持いたします」
ヒルッカさんは言ってくれるけれど、本当に良いのだろうか?
私は曖昧に頷いた。少なくともアンネローゼ王女への支持ではないはずだ。聖女アンに対する支持でしかない。
「ヒルッカさん。また来ますから」
「アン姉ちゃん」
「アンさん」
私はヒルッカさんの家族と別れを惜しんだ。
そのまま、私は乗りたくないのだが、伯爵の馬車に乗せられのだ。
そんなに広くない馬車に伯爵と二人きりだ。これほど気まずいものはなかった。
何故、せめてメルケルでも一緒に乗ってくれたら良いのに、と思ったが、彼らは馬だった。
まあ、私が馬に乗る訳にはいかないが。
「アンネローゼ様。まさかあなた様がこの地にお越し頂けるとは思ってもおりませんでした。取り敢えず、ムオニオの村にて治療を行って頂いた事感謝いたします」
伯爵が頭を下げてきた。
「伯爵様。そのような礼はやめてください。私は人として当然のことをしたまでです」
「さすが、アンネ様のお子様ですな。ブルーノとは大変な違いです。彼奴ならば村人を治すよりも村ごと焼き払えと言いかねませんからな」
伯爵が言ったが、この時はまだ、私もブルーノがそこまでやるとは思ってもいなかったのだ。
「やはりブルーノは冷酷無比ですか」
私は尋ねた。
「左様でございます」
「そのような者に面と向かって逆らって良いのですか」
「いえいえ、そのような面と向かっては逆らっておりませんよ。私たちはアンネローゼ様を援助したいと申しただけで」
私は伯爵の頭の中がどうなっているのかよく判らなかった。
「しかし、私を援助すると表明すること自体が反逆の意思表示なのではありませんか」
「そのようなことはありますまい。私も正確に支持したいといったのではなくて、隣国で貧しい生活をしていらっしゃるアンネローゼ様に、少しばかりの援助をしたいと申しただけですからな。遠い親戚としては当然のことです」
伯爵は当然のごとく言うのだが、それを反逆するというのではないのだろうか?
少なくともブルーノは良い気はしないだろう。
「しかし、今、ブルーノを刺激するのは良くはないのではないですか」
「まあ、左様でございますな。だから、申し訳ないですが、アンネローゼ様のことは聖女アンと呼ばせていただきましょう」
うーん、それも、アンという名がアンネローゼに直結するのではないだろうかと私は一抹の不安を感じたのだが、それは的中することになるのだ。





