隣国伯爵令嬢視点 特効薬だと思って疫病の素を飲まされていました
私はロヴィーサ・レイブ、スカンディーナ王国の伯爵令嬢だ。
今回テレーサ様についていくことになって、父母らは泣いて喜んでいた。
「あなたに、伯爵家の命運がかかっているのよ」と。
16年前、我が伯爵家はバリバリのアンネ派だった。
今のマティルダ女王陛下のことなど歯牙にもかけていなかった。というか、その時、ほとんどの貴族は王妃のアンネ様を崇拝していたのだ。赤毛をなびかせて歩かれるさまを皆崇拝し、アンネ様が着られる衣装が流行の最先端になっていたそうだ。
側妃も王女も見向きもされなていなかった。
それがブルーノが反逆して国王とアンネ様を手にかけてから180度変わったのだそうだ。
それまで、相手にもされていなかった女王陛下は自分を無視した貴族たちを許さなかった。
次々に反逆の心ありと冤罪をでっち上げて処刑していったのだ。そして、その後釜に自分のお気に入りの侍従などを入れていったのだ。女王の周りにはおべっか使いしか残らなかった。
我が家が16年間、生き残れたのは奇跡に近かったそうだ。
しかし、いつ何時、女王陛下の逆鱗に触れるか判らず、我が家は細心の注意を払っていた。
そんな中、私が女王陛下の娘の王女殿下の側近に選ばれたのだ。
父母の嬉しがり様は凄まじかった。
一緒に留学することになって、更に期待が深まった。
「いいな、オースティン王国には前国王の娘が生きているそうだが、一顧だにするな! テレーサ様がその女をいじめられるなら、その前に、お前が手を下すのだぞ」
「そうよ。テレーサ様の言われることは何でもよく聞くのよ。やっと手に入れたチャンスなんだから。絶対にものにするのよ」
父母の期待は半端ではなかった。
留学先のオースティン王国は、復興途上のスカンディーナとは比べられぬほど街も発展していた。スカンディーナで買えるもので買えない物は何もなかったし、スカンディーナに無いものも多く出回っていた。それにとても垢抜けた街だったのだ。これに比べれば、スカンディーナの王都なんて寂れた田舎街だった。そんな事は殿下の前では口が裂けても言えなかったが。
前国王の娘も見たが、見た感じはパッとしない娘だった。見た目は赤毛で髪だけは目立っていたが。
しかし、彼女はなんとこの国の王太子と取り巻きを引き連れていたのだ。見た感じは大人しそうな娘なのに。どう見ても傍の金髪の侯爵令嬢の方が目立つし、言うこともきつい。こちらの方がこの国の王妃にはふさわしいだろう。でも、何故か王太子は赤毛に首ったけだった。
それを見て、頭にきた我が王女殿下が喧嘩をふっかけても周りの取り巻きが次々に対処していくのだ。
テレーサ様は出来たら王太子と婚約したいみたいだったが、全く付け入る隙きは見つけられなかった。
そんな中、私は国境地帯の視察と言う仕事を任されたのだ。何でも、反体制派と目されているスカンディーナの伯爵領で、疫病が流行りだしたらしい。我がスカンディーナはその特効薬をブルーノ様を中心とした魔術師達が開発したのだと言う。さすが世界一の魔術師と言われるブルーノ様だ。
心優しいテレーサ様は私にその薬の一部を与えられて、その伯爵領と国境を接する街に視察名目で私を派遣されたのだ。その病が流行っていたら、とりあえず、その薬を与えていいと言われていた。判り易い、点数稼ぎだ。なんとしても前王妃の娘を王太子の婚約者から引きずり下ろして、あわよくばテレーサ様自身がその位置に立たれるための。私はその尖兵という訳だった。
「ロヴィーサもその街に入る前に、この薬を飲んで良いわ」
心優しいテレーサ様は私にもその薬を飲むことを認めて下さったのだ。私は街に入る前にその薬を飲んだ。そして、聖女が紹介してくれた教会に入ったのだった。
そこの司教は私の来訪をとても喜んでくれた。
彼らも隣国で流行りだした疫病をとても気にしているらしい。伝え聞く所によると疫病は高熱を発して10日ほど寝込むのだそうだ。運悪いとそのまま死んでしまうそうだ。
この街は取り敢えず、隣国との国境は警戒を強めており、熱のあるものは中に入れていないようだった。
しかし、領内では既に熱のあるものもチラホラと出ており、司教はとても気にしていた。
そして、私が特効薬を持っていると聞くと目の色が変わった。
「レーブ様。よろしければその特効薬、我々にも分けて頂く訳には参りますまいか?」
その街の司教が頼んできたのだ。
そのように頼られることが殆どなかった私は舞い上がっていた。
「この薬は1ヶ月は予防効果もあるそうです。それでは司教様には特別に1粒お分けしましょう」
「おお、ありがとうございます」
司教は大喜びだった。
その日の歓迎の夕食会ではこの街の領主もやってきて、薬を所望したので、分け与えた。
結局その側近やら色んな人の為に持ってきた半数50粒ほど分け与えたのだ。
私はいい気分だった。
街の色んなところを領主や司教が案内してくれた。
そんな時だ。私が高熱で倒れたのは。
私は直ちに隔離されたのだ。
特効薬を前もって飲んでいたのに、何故倒れたのだろう?
意識の朦朧とする中で私は思った。
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次は学園祭です。今夜更新予定です。





