隣国王女視点6 受けた屈辱を晴らすために元王女を地獄に叩き落とそうと心に決めました
「おのれ! おのれ! おのれ! おのれ!」
私は荒れに荒れまくった。自分の部屋の周りにあるものを次々に地面に叩き落として、足で踏み潰したのだ。
気づいた時には、部屋中が、持ち込んだいた花瓶やら小物やらの破片で足の踏み場もない状態になっていた。
「殿下・・・・」
それを唖然としてロヴィーサは見ていた。
しかし、私はそれどころではなかった。
あのイングリッドとか言うたかだか侯爵の娘に、私が、スカンディーナ王国の現王女の私が虚仮にされたのだ。
「何が伯爵風情よ! 舐めるな! そっちこそ、たかだか侯爵風情が生意気な!」
「左様でございます。あの女、たかだか侯爵令嬢のくせに、殿下に対して生意気な態度を取ったのです。ここは厳重に抗議して謝罪させねばなりませぬ」
ロヴィーサは、早速、担任を通して抗議してくれた。
しかし、担任は「抗議はしました」と言うだけで、侯爵令嬢からは、謝罪も何もなかった。
外務卿の息子のマックスにも文句を言ったのだが、
「いや、あそこはちょっと・・・・」
外務卿の一族にもあの侯爵家は怖れられているらしい。
更に強行に言うと、以前我が国の者が赤毛の侍女を攫おうとして間違って侯爵夫人を攫った点について、我が国からは謝罪もしていないらしいということが判った。
それは国としてはどうかと思ったので大使を呼んで聞くと、笑って誤魔化された。
侯爵夫人の怒りは尋常ではなく、到底許してもらえるものではないらしい。もっとも、その時の逆襲で我が国の大使館も壊滅状態になったそうだが。
どっちもどっちだという事だが、先に間違って攫われた方が怒るのも無理はないだろう。もっとも侯爵夫人は前王妃と親友で、父の行いを未だに許していなそうだが、それもあって、許してくれないのだろう。
まあ、所詮、侯爵家の遠吠えだ。恨みはいずれ王太子の婚約者になった時に、じっくりと晴らしてやれば良かろう。
それよりも、まずは赤毛だ。
あの女、私がわざわざ断罪に訪れてやったのに、侯爵令嬢の影に隠れて、全く話さなかったのだ。
なんなのだ。あの赤毛は!
あの侯爵令嬢がいない時に行けば良かったのか。私としたことが、失敗してしまった。
しかし、たかだか侯爵令嬢、王女の私には何も言えまいと思ったのだが、糞ーーー! 今思い返しても腹が立つ。
まあ、しかし、今すぐにやらねばいけないのは、あの赤毛を何とかすることだ。
馬鹿な聖女を使って、王太子と現地視察に行って仲良くなろうと画策したのだが、うまくいかなかった。聖女も私と同じで王太子からは忌避されていたのだ。王宮で捕まえようとして、二人で全く無視されていたし。赤毛の近くで王太子と仲良くなろうというのは難しいみたいだ。それを見越して視察に行こうとしたのだが、聖女と私では王太子を誘うこともままならなかった。
こうなったら、現地視察はとりあえず止めて、先に疫病を流行らせて、そこに慰問に行かざるを得なくさせた方が良いだろう。疫病を流行らせば、それを抑えるために聖女は行かざるを得なくなり、聖女を泣きこませて、王太子を引きずり出せば言うことはない。
なにしろ、特効薬はこちらにあるのだ。王太子を病に倒れさせれば、特効薬を餌に私との婚姻を認めさせれば良いだろう。赤毛の反対にあって、王太子との婚姻が認められなくて王太子が亡くなっても、それはそれで赤毛はこの国に居づらくなって亡命するしかなくなる。そこを襲えば良いだろう。
亡国の王女など、捨て置けば良いと思ったが、私に対する態度を見る限り生かしておく必要もあるまい。最悪、生きたまま兵士たちの慰みものにして、娼婦にしてやっても良いのだ。
生きたまま泣きわめいて命乞いをする赤毛を見るのも一興だ。あのすました顔がどうなるか、今から楽しみだ。
王太子を私に取られて泣き叫ぶ赤毛を、更に地獄に落としてやるのも良いだろう。
私はニヤリとした。
それを見てロヴィーサが顔を顰めるのが見えた。
この純情な娘もかわいそうに。今から私の代わりに国境に行くことになるのだ。特効薬と教えられた、飲めば確実に感染する疫病の元を持って。この薬を飲むと、熱は下がるのだ。
病気を直すためではない。なんでも、熱を下げて人の持つ免疫の働きを弱めるのだとか。そして、3日後に疫病が発生するのだ。娘には現地に入る前に飲めと言ってある。致死率50%の死の疫病の元を。この娘も運が良ければ助かるだろう。悪ければそれまでだ。
本当の特効薬は私自身が2錠持っている。自分の分と王太子の分を。
この薬で王太子を治して私と婚姻を結び、我がスカンディーナ王国の礎は完璧になるのだ。オースティン王国と同盟を結べれば、もう、エスカールの邪魔な新スカンディーナ王国を恐れる必要もなくなるだろう。私は救国の王女となり、やっと父に褒められるのだ。
私はその時の事を考えて一人愉悦に浸っていたのだ。





