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グレース~エレノアの手記~  作者: 栗橋真縫
第一章
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28話 エルセース教~2~

「あの、さっきの石棺って。」

私は教皇様の後をついていきながら尋ねた。


「初代教皇様の棺ですよ。

今は別の場所に安置してあるので、中は空っぽですけど。」

「そうですか。」


階段を降りて、薄暗い分かれ道だらけの廊下を歩いて。どれくらいの時間がたっただろうか。薄暗いのでどれくらいの距離を歩いたのかはよくわからない、でも、もうかなりの距離を歩いた気がする。


「着きましたよ。」

教皇様は突き当たりにある扉に手をかけた。扉を開けるとそこには天井の一部から日の光が差し込んでいた。


「ここはどこですか?」

「それはお答えできかねます。」

部屋を見渡すと壁にはいくつもの石板があった。


「では、審査を始めます。あなたがグレースであるならば神からのお告げを読めるはずです。貴女へのお告げはこの石板のどれかに書かれています。」


真剣な雰囲気で教皇様は話した。


「別に制限時間があったりするわけではないので、そんな顔をなさらんでも。」


私の顔がそんなに強ばっていたのか……


私は石板を見始めた。見たことのない言語で書かれた石板が並んでいた。端から順番に眺めていく。私の予想が正しければ……


あった!!日本語の石板。醤油や味噌という言葉がそのまま存在していることを知ったときから、日本人のグレースも過去にいたであろうことに予想はついていた。

でも、書かれていることは……


『自由に、生きたいように。』


私は困ってしまって、つい教皇様の方を見た。これは自分の使命は自分で決めろということなのか…


「読めたのは、その石板ですか?」

教皇様に話しかけられた。どう返答するのが正解なのかわからなくて慌ててしまった。

「えっ…と」


「そのご様子だと、読めたようですね。書いてあるものをそのまま読んでいただいていいですよ。」


「『自由に。生きたいように。』」

「エレノア様、貴女をグレースとして承認いたします。」


そのまま読むので正解だったらしい。


「少し話しましょうか。気になっていらっしゃることもあるでしょうし。」


私は教皇様に促されるまま、テーブルを挟んで座った。


「何もお出しできずに申し訳ない。」


「いえ!お構いなく…

それにしても、使命があれというのは…」

「おそらく、貴女が考えなさっている通りです。我らがエルセース教は宗教というよりも、グレースの方々の生活を保証している組織です。グレースを過剰なほど、神聖化しているのもそういう理由からです。エレノア様は『悪魔を宿した子』というおとぎ話はご存知ですよね?」


『悪魔を宿した子』、悪魔が宿ってしまった少年の話。

ある村の少年がある年の誕生日を迎えると悪魔に見いられてしまう。少年は訳のわからないことを言うようになり、次第に過去の少年の面影がなくなってしまう。ある程度成長した少年は悪魔の武器を使い、略奪行為すら行うようになってしまう。

人々はそれに困っていた。そこへある集団がやって来て、彼を説得しに行こうとする。もちろん、人々は反対するが、その集団は頑として行こうとする。人々はその集団に祈りを捧げ、その集団は説得に向かう。結局その集団は帰ってこなかった。ただ、それと同時に略奪行為やそれに類する行為もなくなった。結局心配した人々が彼がアジトにしていた場所に行った。しかし、そこには争った後はあり、荒れ放題になっていたものの死体などはなかった。

人々は再び平和になり、悪魔に見いられた少年はそのまま消息不明のまま物語は幕を閉じる。

人に優しく、倫理観は大事みたいなフワッとした教訓しかない話だった気がする。


「はい、知っていますけど。」


「あの話には語られていない部分と続きがあるのですよ。悪魔に見いられた少年はずっと周りの人、親すらからも気味悪がられ、まともな生活を送れませんでした。誰一人彼を助けようともせず、盗み、略奪をしなければ彼は生きていくことすら出来ませんでした。そのまま、成長してしまったわけです。彼を説得しに向かった集団は彼のこれまでの行動を咎めることはしませんでした。それが正しかったのかはわかりません。ただ、これからはしないように。しなくていいようになるからと説得しました。そうして彼はその集団とともに旅立ちました。

そして、彼が歴史上最初のグレースでした。」


「……!!」

流石に驚きを隠せなかった。この場でそんな童話の話を始めるなら流石に何かあるのだろうと思ったが、そういうことだったとは。

私が私をグレースだと決めきれなかった理由、世間一般的に語られている夢の中でお告げを受けるというグレース像がやけに真実から外れているのは、この話と結びつけないためでもあるのだろうか。


「集団とともに旅をし、彼は様々なものを見聞きしました。彼にとってはその全てが彼がかつて見たものよりも遥かに劣っています。発展していません。彼は今までの略奪行為の贖罪とでも言うように、旅先で自身が知っている様々なことを教えました。次第にそれは大きな信仰となりました。そもそも、その集団自体、旅をしている地方宗教の一つでした。その名残は今の収穫祭など、ちょっとしたところにのこっていますけどね。信仰が信仰を呼び今のエルセース教となったのです。

彼は初代教皇になるように勧められますが、自分には資格がないと断り、教皇補佐として生きました。そして、彼の唯一の願いは自分と同じ境遇の人間が生まれないこと。今でも『悪魔の子』の話が残っていることからもお分かりになるでしょうが、自分のせいで余計に自分と同じ境遇の人間に対する偏見が生まれ、迫害されることを嫌いました。そういうわけで、エルセース教はグレースを保護、または生活を保証する機関となっているわけです。そこの石板も多くのグレースの方が現れ、次のグレースが平和に生きれるように、そう願って自分のかつていた世界の言葉で書き連ねられているのです。」

教皇様はそう言って口を閉じた。



今までのグレースの願いの形……

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