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星と月と太陽  作者: 水無月
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誰かの悪意

 太陽のクラスの営業が再開するまで、星良は警護の巡回を兼ねて樹を探して歩いた。好奇心旺盛な樹が、太陽を殴った相手を追跡している可能性も考えられたからだ。


 とりあえず校舎を一回りしてみたが見当たらなかったので、靴に履き替えて外に出ると、ヤキソバを売る屋台から漂ういい匂いに、空腹の胃袋が刺激される。太陽のクラスでは甘味だけ食べることにして、ここで昼食を食べてしまおうかと思ったが、一人ご飯の侘しさと天秤にかけると、空腹よりも侘しさが勝った。


 小さく溜息をついて屋台を通り過ぎると、その隣に用意されたベンチで、女子が男子にヤキソバを食べさせている後ろ姿が目に入った。普段は気にならないのに、イラっとしてしまう。この賑やかな中で一人ぼっちなことと、好きな人が他の人と見つめ合っている姿が頭から離れないのが原因だろう。


 小さく頭を振り、人の幸せを妬む気持ちを追い払おうとする星良。が、食べさせてもらっている男子の顔が見えた瞬間、そんな気持ちは吹き飛び、顔が引きつってしまった。


「あれ、星良さん?」


 目があった月也がきょとんとすると、ヤキソバを食べさせていたかおるも振り向いた。二人の時間を邪魔されてむっとしているが、月也は彼女の不機嫌に気づかずに星良のもとまでやってくる。


「どうしたの? 太陽のところでご飯じゃなかった?」


「それが……」


 かおるの突き刺さる視線を気にしつつ、状況を説明する。話を聞き終え、月也は「そっか」と短く呟いた。そして、かおるのもとに戻る。


「かおるさん。申し訳ないけど、星良さんと行かせてもらうね」


「なに、それ」


「ちょっ、月也っ⁉︎」


 星良は慌てて止めようとしたが、月也は拗ねた彼女の視線を笑顔で受けとめる。


「ごめんね。でも、かおるさんは一人でも心配ないけど、星良さん一人にしておくと心配だから」


「それって、私よりその子の方が大事だってこと?」


「月也っ、あたしは一人で大丈夫だからっ‼︎」


 かおるに恨みがましい視線を向けられ、星良はそう言い残してその場を去ろうとする。が、すぐに月也に手を掴まれた。


「ダメだよ、星良さん。一人だと危ない。――相手が」


「あたしの心配じゃないじゃん! っていうか、その注意聞きあきたから‼︎」


 怒鳴りつけると、月也は三日月のように目を細めた。


「うん。まぁ、その元気があれば大丈夫かな」


「え……」


 ぽつりと呟くような月也の声の思わぬ優しさに、戸惑う星良。


 その間に、月也はかおるの方を振り向いて、小さく手を振った。


「じゃ、ごめんね、かおるさん。お仕事頑張って」


「もう、埋め合わせはちゃんとしてよね」


「はーい」


 かおるに笑顔を返し、月也は星良の手を掴んだまま歩きだした。


「ちょっと月也、いいの? 彼女」


「いいよ、別に」


「振られてもしらないよ」


「別に、いいよ」


「はぁっ⁉︎ あんな素敵な彼女にたいして、何それ!」


 思わず声を荒げると、月也はおかしそうにくくっと笑う。星良はむっと唇を尖らせた。


「何よ、笑うとこ?」


「しょぼんとした星良さんはどこに消えたかなと思って」


「べ、別にしょぼんとしてなんか!」


 一人を寂しく感じていたことを気づかれていた事に、星良は思わず顔が赤くなる。月也は再びくくっと笑った。


「星良さんは、怒鳴ってるくらいがちょうどいいよね」


「そんなちょうどよさはいらない!」


 怒りつつも、どこかでほっとしている自分に気づく。月也に引っ張られる手を振りほどけないのも、さっきの寂しさを忘れさせてくれるからだ。


 今までは、太陽がいたから寂しくなかった。一人の時でも、心の中の太陽の存在が寂しさを感じさせなかった。いつだって、一人じゃない気がしていた。


 太陽の一番身近な存在は自分なのだという自信を、気づかずに持っていた。でも、太陽の気持ちが他の人に向き始めていると気づいて、それを失った。


 一人は、こんなにも寂しい。


 たとえ月也でも、一緒にいてくれるのは有難かった。


「お、樹、発見」


 適当に歩いていたようで、ちゃんと樹のいる場所に見当をつけていたらしい。月也はすぐに樹を見つけた。


「月也先輩」


 大好きな月也を見つけ、樹は笑顔で駆け寄ってきた。一緒にいるのが星良だと気づき、きょとんと月也を見上げる。


「あれ、デートじゃなかったっすか?」


「野獣保護のため、もう終了」


「誰が野獣よ!」


「なんだー、月也先輩の彼女、見たかったのに残念っす」


 自分の突っ込みを二人揃ってスルーされ、星良は不貞腐れて口をつぐんだ。


 月也は樹のカメラを借りると、太陽のクラスで撮った動画を確認しはじめる。


「で、こいつらはどうした?」


 動画を見ながら月也が尋ねると、樹は小さく肩をすくめた。


「追跡してみたっすけど、誰かに電話した後、さっさと帰っちゃったっす。黒幕と校内で接触してくれればよかったっすけどね」


「黒幕って、やっぱり誰かにそそのかされたって事?」


 星良が尋ねると、樹はこくんと頷いた。


「でしょうね。たぶん、ひかり先輩狙いっすよ。ひかり先輩がかばいに来た時、ニヤッとしてましたし」


「確かに」


 動画を確認している月也が同意した。星良もカメラの液晶画面を覗くと、巻き戻ししてその画面を見せてくれる。確かに、樹の言うとおりだ。


「だいたい、高校の文化祭のお店で、あんなゆすりたかりみたいなことしたって、しょうがないじゃないっすか。最初はひかり先輩が可愛いから絡んだのかと思ったっすけど、どうもそうじゃないっぽいっすよね」


「そうよね。あたしがいるなんて聞いてないって言ってたもんね」


 誰かにひかりを怯えさせるように頼まれたからこそ、そんな言葉が出たのだろう。頼まれた相手に、こんなリスクは聞いていなかったという不満がこぼれたに違いない。


「でも、ひかりにそんな嫌がらせする人っているのかな。誰からも好かれるタイプじゃない」


 誰とでも裏表なく、明るく接するひかりは、男女ともに人気がある。自分ならともかく、ガラの悪い男に絡ませるような嫌がらせを受けるようには思えない。


 星良はそう思ったが、きょとんと自分を見つめる樹と月也を見て、何だか違うらしいと察する。


「え? あたし。なんかおかしなこと言った?」


「神崎先輩って、凶悪な割に結構ピュアっすね」


「は?」


「いい人だからこそ、嫌われる事もあるんだよ、星良さん。眩し過ぎるものが苦手な人種もいるって事」


 月也の言葉に、星良の胸はツキンと痛む。その言葉が、わかる気がした。


 自分はひかりを傷つけたいとは思わない。だが、ひかり眩しさは自分の影をくっきりと映し出し、苦しくさせることがあるのは事実だ。ひかりに罪はない。でも、自分は傷つく。


 その痛みを、ひかりのせいにする人も、世の中にはいるだろう。


「全ての人に好かれるとは思ってないっていう久遠のほうが、実は星良さんより強いよね。星良さん、意外とうぶだからなぁ」


「うぶって……」


「ひかり先輩にわかりやすく悪意はなってた人、ぼくにもわかったっすけど、頭から抜け落ちてるあたり、ほんと凶悪なのにうぶっすね」


「だから、凶悪って‼︎ っていうか、それ、誰⁉︎」


 星良の叫びに、月也と樹は目を合わせる。そして、何やら目で会話したらしい二人は、同じ結論に達し、代表して月也が説明する事にしたようだ。


「それ言うと、星良さん突撃しちゃうでしょ。でも、証拠もないのにそれやるとややこしくなるから、今はナイショ。僕が気をつけておくから、星良さんは気にしないで」


「気にしないでいられるわけないでしょ! ひかりが誰かに狙われて!」


 太陽のことがあっても、ひかりは友達だ。一番心許せる女友達だ。


 誰かにあんな奴らをさし向けるような悪意を向けられていて、気にしないでいられるわけがない。


「だって、星良さんの苦手分野だよ? 星良さんは、ああいうわかりやすい悪意に対応するのは得意だと思うんだけどね」


「苦手分野って……って、ああいう?」


 月也が指差した先を視線で追うと、そこにはいつか何処かで見た男たちが数人いた。


 校舎の影で、何かこそこそやっている。目をこらすと、一人の男子が囲まれて、怯えたように財布を取り出したところだった。


「あいつら……」


「ほら、得意でしょ? 文化祭特殊警備部隊さん」


「部隊って、一人だけどね。行ってくる」


「手加減するんだよー」


 止める気はないらしい月也とカメラを構えた樹に見送られ、星良は男子を取り囲んでいた男たちを一掃しに行った。


 わかりやすい悪意を蹴散らして少しは気持ちがスッとしたが、そのごたごたでひかりの事を問いただすタイミングを失ってしまったのが、星良には気がかりだった。

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