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星と月と太陽  作者: 水無月
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トラブル

 着替えや片付けをすませた星良と月也は、先に向かわせた樹と合流するために、太陽のクラスへと向かっていた。文化祭はなかなか盛況で、廊下も賑やかだ。


「星良さん、何食べる?」


「草団子」


 星良の即答に、月也は目を細めてくくっと笑う。星良は横目で軽く睨んだ。


「何よ、文句ある?」


「いやいや、全然ないよ? ちなみに肉巻きおにぎりも太陽の発案だって」


「じゃあ、それも食べる」


 月也は再び可笑しそうに笑うと、星良の肩をぽんぽんと叩く。


「星良さん、わかりやすくていいなぁ」


「別にいいでしょ」


 太陽が関わったことに、自分も少しでも関わりたい。


 自分のこの気持ちが『恋』だと気づいてから、星良はそんな気持ちが強くなった気がしていた。


「悪いなんて言ってないよ。そんな乙女な星良さんは、珍しくて面白くていいなって」


「人で面白がらないでくれる⁉︎」


 足を止めて月也を睨みつけた時、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐった。


「月也くん」


 涼しげな声が月也の背後、香りがした方から響く。


 月也を見上げていた星良は、少し幼さの残る月也の無邪気な笑みが消え、星良の知らない落ち着きを帯びた表情に変わるのを見た。


 星良が驚いて目をぱちぱちと瞬いている間に、月也はゆっくりと振り返り、涼やかな声の持ち主を見つめた。


「かおるさん、仕事はいいの?」


「月也くんと一緒にご飯食べたくて、休憩時間もらってきたの」


 人ごみをすり抜けて月也の目の前まで来た人を見て、星良は息をのんだ。


 ゆるく巻いた長い髪、大きな胸に細い腰、少し垂れ目がちな大きな瞳、愛らしい唇。あまり情報通ではない星良も知っている、新生徒会副会長、2年生の土屋かおる先輩。美人で名高く、男子の間では高嶺の花と言われている人だ。


 まさかと思いながら、星良はこそっと月也の服の背中を引っ張った。


「つ、月也?」


「あら、あなたが神崎さん?」


 月也が反応する前に美人の先輩に笑顔を向けられ、星良は月也から一歩離れて頷いた。


 かおるはするりと月也の腕に自分の腕をからませる。


「いつも月也くんと遊んでくれてありがとう。月也くんの彼女の土屋かおるです」


「あ、ど、どうも。神崎です」


 まさかの事実に動揺しながら、星良はぺこりと頭を下げた。月也に艶然として寄り添うかおるには、妙な迫力がある。言外に、自分の方が月也に近しい存在だと訴えているようだ。


「生徒会の仕事であまり自由な時間がないから、今から月也くんゆずってもらえる?」


「あ、もちろんです。どうぞどうぞ」


 ただの友人として、断る理由もない。彼女を優先するのは当然だ。


「じゃあ、いこ、月也くん」


 月也を見上げ、嬉しそうに微笑むかおる。その横顔から、月也に恋しているのだとわかる。


 月也はそんなかおるに笑顔を向けてから、心配そうに星良を見た。


「星良さん、不審者見かけても無茶しないでね」


「わかってるわよ。いいから、こっちは気にしないでゆっくり楽しんできて」


「うん。じゃ、行こうか、かおるさん」


 大人びた笑みを浮かべ、踵を返してかおると去っていく月也。


 まるで知らない人みたいだと思いながら、星良はしばしその背中を見送る。


 なんだか、すごく妙な気分だった。



 一人になった星良は、ぼんやりとしながら太陽のクラスに向かった。


 月也とかおるの後ろ姿が頭から離れない。友達とは明らかに違う親しげな雰囲気。見た事のない表情。あれが、恋人というものなのだろうか……。


 もし自分が太陽とつきあうことになったら、あんな風になるのだろうか。


 もしくは、太陽がひかりとつきあったら……。


 嫌な想像をしかけ、星良はそれを振り払うようにぶんぶんと頭を振った。


 月也とかおるの後ろ姿を、太陽とひかりに置き換えようとしただけで、息が止まりそうなほど胸が痛かった。


 実際にそうなったら、耐えられない気がする。


「考えるのはやめよう」


 ぼそりと一人呟く。今は一人、気分を変えてくれる相手もいない。


 ふぅっと溜息を吐いたところで、廊下の先が騒がしい事に気付いた。見れば、廊下に人だかりができている。太陽のクラスだ。


 そんなに盛況なのかと思ったが、もう少し近付いてどうやら事情が違う事に気づく。


 怯えた顔のものや、興味津々な野次馬めいた表情のものが多い。教室から飛び出した生徒の足は、職員室に向かったようだ。トラブルが起きているらしい。


 星良が足早に人ごみを抜けると、太陽の教室の入り口近くに樹が立っていた。手にはカメラを持っている。


「樹くん、どうしたの?」


「あ、神崎先輩。月也先輩は?」


「彼女とデート中」


 樹はなるほどと頷くと、教室の中を指さした。


 中を覗くと、大学生くらいの男性二人が、太陽を睨みつけていた。太陽の後ろではひかりが泣きじゃくっている女生徒の肩を抱いている。


「何あいつら」


 教室に乗り込もうとした星良だが、樹に服を掴まれて止められた。


「まだ神崎先輩の出番じゃないっすよ」


「まだって、何よ」


 事情がわからないので一度ひくと、どうやら動画を撮り続けているらしい樹は声をひそめて説明をはじめた。


「もともとは、あの泣いてる人があの客にコーヒーこぼしたのが原因っす。服汚した責任とれって騒ぎだした所をひかり先輩が助けに入ったんっすけど、そしたらひかり先輩にかわりに責任とって学校案内しろとか言いだして、そこを朝宮先輩がフォローに入ったっす」


「事情はわかったけど、私の出番まだって何? 一応、警備頼まれてるんだけど」


 声を荒げる男たちに落ち着いて対応している太陽を気にしつつ尋ねると、樹は小さく肩をすくめる。


「神崎先輩が入ると、実力行使になるじゃないっすか。服を汚した側にも責任があるのに、それはダメっすよ。たとえ、相手が理不尽な要求してても、ここは話し合いじゃないと」


「う……」


 確かに、話し合いは星良の得意とするところではない。


「せっかく朝宮先輩が大人の対応してるんっすから、ここは静観っす」


「でも……」


 服を汚されて怒るのはわかるが、男たちは言いすぎに見える。性質の悪いクレーマーのようだ。見ていて、正直腹が立つ。


 だが、確かに太陽は落ち着いて対応しており、ひかりともう一人の女生徒を守っている。教師がくるまで、太陽に任せておいた方が騒ぎが大きくならなそうなのも確かだ。


 何も出来ない自分を歯がゆく思って唇を噛んだ時、男の一人がしびれを切らしたように、机を蹴り倒した。立ち上がり、座っていた椅子を振りあげて、畳に打ちつける。


「なめてんじゃねーぞ、ガキが。殺すぞ!」


 言って太陽の胸倉をつかみ、殴り飛ばした。


「朝宮くんっ!」


 畳の上に倒れた太陽の横に、ひかりがひざまずく。泣いていた女生徒は怯えたように身をすくめて立ちすくんだ。


「大人しく言うこときけばいいんだよ! 女の前だからってカッコつけてんじゃねぇ!」


 追い打ちをかける様に太陽を怒鳴り飛ばした男を見ながら、星良はぎゅっと拳を握りしめた。


「……樹くん。さすがにもう、止めるとか言わないよね?」


「言わないっすよ。もう、あっちが悪者確定っすから」


 怒りに震える声で言った星良に、樹は大きい声でニッと笑いながら答える。その声に、男たちが振り返った。


「あ? 誰が悪者だって? 最初に俺の服汚したこいつらが悪いに決まってんだろうが!」


 怒鳴られて樹は星良の後ろに引っ込んだが、そこでニヤリと笑う。


「だからといって、あなたたちの器物損壊罪、脅迫罪、傷害罪は正当化されないっすよ? 証拠はばっちり撮ってるし」


 言って、自分のデジタルカメラを見せる樹。


「あなたたちがわざと彼女にぶつかって自分の服を汚した所も撮ってればよかったっすけどね、さすがにそこまでは録画できませんでした。残念」


 ぺろりと舌をだした樹に、男たちの顔が引きつる。その表情の変化で、樹の言う事を肯定したとわかる。


「ってことは、最初からあんたたちが悪物って事よね?」


 冷たい声に、男たちははっとしたように星良に視線を移した。浮かべる冷笑を見て、さぁっと顔が青ざめる。


「素直に謝って帰った方が得策っすよ。神崎先輩、警察より恐いっすから」


「か、神崎って、まさかあの神崎?」


「たぶん、その神崎っす」


 樹の勝手な肯定に、男たちの腰がひく。慌ただしく自分たちの荷物をつかむと、恐々と星良のいる出口に向かってきた。


「クリーニング代は貰わないでいてやるよ」


 この期に及んでの言い草に拳に力が入ったが、太陽が首を振ったのをみて何とか堪えた。


 男たちは、黙って睨みつける星良の横を通り過ぎる。


「聞いてねぇよ、神崎がいるなんて」


 すれ違いざまに小声で呟いた男の言葉がひっかかり、星良は追おうとしたが樹に服をひっぱられ、その場にとどまる。太陽の様子が気になったのも、とどまった理由の一つだ。


 教室に入り、泣きそうな顔で太陽を見つめるひかりの向かいに星良も膝をついた。


「太陽、大丈夫?」


「大したことないよ。威力殺したし、橘が撮ってたからわざと派手に転んだんだ」


 確かに、あの勢いで殴られたにしては大して赤くなっていない。


「ごめんね、私が余計話をややこしくしちゃったから……」


「久遠さんのせいじゃないよ。オレの方こそ余計な心配かけてごめん」


 互いを気遣って見つめ合う二人に、ちくりと胸が痛む。


 だがその直後、遅ればせながら駆けつけた教師たちが現れ、太陽たちに事情を聞きはじめたので、その痛みと向き合う暇はなかった。最後に威嚇しただけの星良は事情を話す程事態に詳しくなかったので、いつのまにか姿を消した樹を探しに校内を歩きまわったのだった。

 

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