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星と月と太陽  作者: 水無月
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文化祭準備2

 文化祭の練習は思ったよりも早く終わった。


 アクション担当の男子達は運動神経がよく、体力自慢でもある。その前提で稽古をしたつもりだったのだが、星良は自分の常識が少々ずれていたと途中で気づいた。太陽を基準にすると少しキツいと思い、月也の体力で練習量を考えていたのだが、彼らは予定の半分を過ぎた辺りから動きが鈍くなり、星良の計画したアクションについていける気配がなくなった。


 それぞれが得意とするスポーツと、慣れないアクションでは、疲労度合いが違うらしい。


 仕方なく今日の稽古を終わりにし、月也とアクションシーンを練り直しながら、一時間ほどひかりたちを待った。そして、四人でひかりの見つけたお店に向かった。



「皆、途中からついてこれなくなってさー、体力なさすぎ――美味しー!!」


 愚痴っていた星良は、ようやく運ばれてきたパンケーキを口にした瞬間、ぱぁっと顔を輝かせた。


 ふんわりとした生地、すぅっととろけるクリーム、数種類のベリーの心地よい甘酸っぱさ。それが口の中で絶妙なハーモニーを奏でて、自然と笑みが浮かんだ。


「んーー、本当に美味しい!! 星良ちゃん、こっちのも味見する?」


 同じように幸せな笑みを浮かべたひかりに勧められ、ひかりが頼んだマンゴーののったパンケーキも一口もらう。同じくひかりも星良のパンケーキを一口食べ、二人は同時に至福の笑みを浮かべた。


「あー、こっちも美味しい!」


「でしょ! 星良ちゃんのもすごく美味しい。っていうか、全部美味しそうだよね」


「うん。全部制覇するには何回くればいいんだろ?」


 ひかりへの微妙な気持ちはすっかり忘れ、目の前のスイーツに夢中の星良。女子二人で、盛り上がる。


「ねぇ、太陽のもちょっとちょうだい!」


 答えが返ってくる前に、太陽が頼んだバナナチョコパンケーキのお皿に手を伸ばす星良。太陽はクスクス笑いながら、お皿をすっと星良の方にすべらせた。


「お好きなだけどうぞ」


「星良さん、僕のも食べていいよー」


 バニラアイスとクリームチーズののったパンケーキのお皿も差し出され、星良はキラキラと目を輝かせた。


「ありがと、月也! ひかりももらいなよ」


 男子二人のパンケーキも味見し、その感想で再び盛り上がる女子二人。そんな二人を、太陽と月也は微笑ましく見守っている。


 どれが一番美味しいか話し合った結果、最終的に全部美味しくて選べないという結果に落ち着くと、もうこらえきれないというように男子二人がククッとっ笑う。


「何よ」


 星良が二人を軽く睨むと、太陽は柔らかく目を細めた。


「いや、女の子は甘い物が本当に好きだなーって思って」


「ホントだよね。怖い顔で愚痴ってた人が、一口食べた瞬間、頭の中が目の前のスイーツでいっぱいになって他のこと全部頭から抜けちゃうんだから、美味しいものって偉大だよ」


 男子二人の言葉に、星良とひかりは目を合わせる。そして、確かに、と頷いた。


「甘い物っていうか、美味しい物食べると幸せな気持ちで満たされるよね」


「そうそう。嫌な事とか忘れちゃう」


 言って、星良は自分の心の棘を思い出したが、痛みは感じなかった。


 ひかりとこうやって、余計なことを考えずに話せる時間がすごく楽しかったからだ。


 こんな時間をくれたひかりを、星良はやっぱり好きだと思った。


 他の女子では、ここまで楽しくならない。騒いでいても、どこか冷静な自分が残っている。相手に合わせようとしている自分を、感じてしまう。相手が悪いわけでは無く、女子だとどうしても気をつかってしまうのは、男臭い中で育ったせいかもしれなかった。


「星良は、昔から花より団子だからな」


「そう?」


 アイスカフェオレを飲む太陽の横顔を見つめると、太陽は横目でちらりと星良を見て、ストローから口をはなしてクスッと笑う。


「そうだよ。花見に行っても、動物園に行っても、遠足に行っても、周りを見るよりお弁当のことしか考えてなかっただろ」


「そんなこと! ……あるかも」


 反論しようとした星良だが、思い返したら反論する余地がなかった。全部、事実である。


「星良ちゃん、人より運動量が多いから、身体が栄養欲しちゃうのかもね」


 幼なじみ同士のやりとりを微笑ましく見守っていたひかりの苦しいフォローに、太陽と月也が笑う。


「それもあるし、おばさん、料理うまいからな」


「運動量多すぎて、普通の人の体力がどんなもんかわからないくらいだもんね」


「あれはー……」


 何気なく今日の一件を掘り起こされ、唇を尖らせる星良。隣の太陽は苦笑を浮かべた。


「体力無いって言ってたけど、大下とか結構体力あるだろ。いったいどんな稽古やったんだよ」


 アクション担当の中には、太陽と同じ中学出身の男子がいる。


 仕方なく星良の考えたアクションの原案と稽古の計画を書いたノートを見せると、頬杖をついてノートをのぞいた太陽は、がくっと顔を落とした。


「やっぱ、無理かな?」


 その反応に星良が首をかしげると、苦笑を通り越して溜息をつく太陽。


「無理だろ。いくら運動神経よくても、たかが三週間の稽古でハリウッド級のアクションができるわけないって」


「そんな難しいかなぁ、これ」


 不服そうに呟く星良に、太陽は再び嘆息する。


「ちょっと練習してできるの、星良ぐらいだから。というか、月也。わかってたら止めてやれよ。大下たちが可哀想だろ」


「いやあ。口で言っても星良さんはわかってくれないから、一度やらせた方が早いと思って。あいつらには可哀想なことしたと思うけど」


「せめて、俺に相談してくれたら先に止めたのに」


「えー、そんなにひどい?」


「やりすぎ」


 新たに練った計画表も出すように命じられ、太陽による一般人ができるものとできないもの講座がはじまる。月也も加わり、かっこよく見えるが、そこまで難しくないアクションを考えはじめた。


 つい熱く語りはじめた3人だったが、途中で星良がはっと気づく。


 見れば、1人だけまだ残っていたはずのパンケーキのお皿はもちろん、飲み物までが空になったひかりが、星良たちを温かな眼差しで見つめていた。


「ごめん、ひかり。話についてこれないよね」


「あ、ゴメン。つい熱くなってた。つまんないよな」


 謝る星良と太陽に、ひかりは小さく首をふる。綺麗な髪が、さらさらと揺れた。


「ううん。好きな事に夢中になってる人見るの好きだから大丈夫。いいよね、熱くなれるもの持ってる人って」


 ひかりの嘘のない笑みに、太陽の瞳が柔らかく細められた。


 特別なものがその瞳の奥に輝いているのが見えて、忘れていた痛みが星良を襲う。


「ところで、そのアクションってそんなに難しいの?」


 訊くタイミングを失っていたが、ようやく訊けたというように微笑んだひかりに、太陽がわかりやすく説明しはじめる。それを、興味深そうに、とても楽しそうにきくひかり。説明する太陽も楽しげだ。


 星良は、氷がとけて少し薄くなったオレンジジュースを飲む。


 幸せな気持ちも、ジュースのように薄まった気がしていた。

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