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007:担任と自称最強


 それから数分後、担任であろう教授が教室に入ってくる。

 優しい顔をした初老の男性だ。

 白髪をオールバックにして可愛らしい装飾の髪留めで髪を後ろに束ねている。

 少し太っていて、常に笑顔。人柄はとても良さそうだ。


「皆さん、初めまして。私はバルトール・ヴァサゴです。どうぞよろしく」


 低めの声はなんとも聞き心地がいい、だが優しさの中にも威厳があり、バルトールの教員としての経験が伺える。

 特待生が2人居るクラスに配属されたのだ、経験のある教授でなければ一筋縄ではいかないと思われているのだろうか。


 別に俺は暴れたり癇癪持ちだったりしないのだが、学院側にとっても俺の存在は謎が多いのだろう。

 下手したら親のコネで特待生になったとさえ思われてそうだ。

 別に気にしないが、だって実際にハフリーのコネで特待生になったのだから。


「お、おい。バルトールって…あのバルトール教授か!!?」


 近くで小声でそう言っているのが聞こえた。

 彼は有名人なのだろうかと、隣に座っているフィリスに「彼は有名人なのか?」と聞いてみると、彼女も驚いた様子で頷いた。


「知らないの? バルトール・ヴァサゴ。魔術工学の第一人者にして、魔道タービンの制作者よ!?」


「魔導タービン……あぁ、この国での主流なエンジンの事か」


 成程、彼がそうだったのかと納得する。

 確かにそれだけの功績があるならば有名人にもなるだろう。

 特にこの学院ではさらに驚くことに、彼が講義をするだけでも教室が満員になるのだとか。

 すごい話だ。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 あの後バルトール教授の話が長々と続いたので適当に聞き流し、終わってから教室を出る。

 正直もう既に疲れた、体がでは無く精神的に。

 本音を言えば休憩時間が待ち遠しかった。

 人と話すのにも慣れなければいけないなと感じつつも、休憩時間に1人で廊下を抜け中庭の方へと行く。


 ゆったりと風にあたる時間が欲しかったのだが、中庭は悲惨な状況だった。

 辺りを見渡して早々に、足元には他の生徒が倒れていた。

 他にも複数、数えると4人ほどだろうか。


 全員の喉に手を当て、脈と呼吸の確認をする。

 全員息をしているし心臓も正常に動いている、軽く気絶しているだけらしい。

 制服に着いている記章を見る限り彼らは上級生だ。


 一体誰がこんな事をと思い中庭へと再び目を移すと、真ん中にある噴水に誰かが座っている。


 制服を乱雑(らんざつ)着崩(きくず)した茶髪で紅の瞳の中性的な顔立ちの人が足を組みながら座っていた。

 顔だけでは性別がわからなかったが、ズボンを履いているので男性だろうその人は、小柄な体には不似合いな金属製の大剣を握りしめて肩に乗せ、不敵な笑みを浮かべている。


 彼の足元にはもう1人、人が転がっている。

 どうやらこの惨状は彼が作り上げたようだ。


「どうした、オレはまだ本気じゃねーぞ?」


 足元に倒れる男性を蹴り飛ばし、彼は高笑いをする。

 声も高く、少し幼く感じる、声変わりがまだなのだろうか。

 しかもあの台詞(セリフ)、聞き覚えがある。

 確か、フィリスが言っていた——自分と同じ特待生だっただろうか。


「…ア? オイてめぇ、何ガン飛ばしてんだ?」


 彼もこちらに気づいたようで、俺を横目に睨みつけ指を()す。

 別に睨みつけたつもりは無かったのだが、俺の目付きが悪かったから彼に誤解させてしまったようだ。

 仕方がなく彼の方へと向かう。


「てめぇ、オレを睨みつけるったぁいい度胸じゃねぇか…アァ? それ相応の覚悟(かくご)あるんか?」


「覚悟…この周りに転がってる奴らみたいになる覚悟か? すまないが無いな」


 別に殴られにきたのではないし斬られるために来たのではない、ただ空気を吸いに来ただけなのだ、わざわざ相手に付き合うつもりもない。

 でもその発言が彼の逆鱗の触れてしまったらしい。


 肩に背負っている大剣を力強く地面に突き刺し、地面を抉る。

 その衝撃で地面が揺れる、魔術かとも考えたがあれは力のみの衝撃だった。


「そんなクチ効けるっつぅことはいい度胸じゃねぇか。おいお前、オレと戦えよ」


「そんなつもりは無いと言っただろ」


 だが返答虚しく、彼は大剣を引き抜き俺へと投げつける。

 恐ろしく素早く飛んでくる大剣を、俺は体の軸を軽く逸らして避ける。

 風圧で地面の芝生が吹き飛び、大剣は後ろにあった彫刻に突き刺さり、彫刻が粉々(こなごな)に砕け散る。


「その動き…てめぇ謎多き魔術師だな? 氷結王子を倒したっつぅ」


「そうだ、お前も特待生だろ?」


「わかってるなら話ははえぇ。てめぇを倒せば、オレが1年の最強っつぅことだよなぁ!?」


 彼が地面に手を叩きつけ「聖剣よ、我が(かいな)に宿れ」と唱えると、地面が十字形に抉れると同時に彼の手には大きな十字剣(クレイモア)が握られていた。

 錬金魔術、魔術器はどうやら人差し指にはまっている指輪らしい。

 あんなに小さな魔術器で魔術を発動できるのだ、彼の腕は本物らしい。


「オレはボンド・フェルナード。さぁ! とっとと始めようぜ!!」


「 ……仕方がない」


 俺もケープローブの中から愛用している回転式拳銃(リボルバー)型の魔術器を取り出し、相手へと向けた。


 けれどその場所には既に彼の姿はない。

 消えた? 幻惑魔術の透明化(インビジブル)を疑うがすぐに違うとわかる。


 彼はいつの間にか俺の懐へ入り込んでいた。

 油断していた、戦いの無かった1ヶ月で俺も訛っていたらしい。


 彼の大剣が俺の顔へ向かい振り抜かれる。

 俺は銃床(じゅうしょう)でそれを寸のところで塞ぎ切る。


 ガキンッと、鈍く耳障りな音が中庭中に響き渡った。



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