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003:5人の特待生



「···とりあえず、特待生って何なんだ?」


「え? 貴方特待生を知らないの? 特待生なのに?」


「あぁ···気がついたらその、特待生だったって感じでな。さっぱりだ」


「何その羨ましい話···いいよ、教えてあげるね。特待生って言うのは、学院が毎年優秀な実績を持ってる5人が選ばれる特待生制度の事よ」


 聞いた話も長かったので要約すると、どうやら5人の優秀実績者を勧誘し、特待生として迎え入れる制度らしい。


 特待生には受験の免除、義務的な授業の免除、課題提出の必要はなく、更に学院施設を許可なく使用することができるという破格の待遇だ。

 それ程になると学院の受験生の間ではひっきりなしに噂になるし、学院内の問題ならば多少は融通してくれるらしい。優遇され過ぎていて逆にドン引きだ。


 受験ではなく実力調査として普通の受験と同じく筆記試験と実技試験がある事は変わらないが、実技試験は必ず特待生とあたるらしい。

 つまり俺が昨日から勉強してきた意味はほとんどないという事だ。


 今年の特待生も例年通り5人。

 1人目はアルケイディア帝国の第二王子にして攻撃魔術の天才、実力は戦闘のプロにも及ぶと噂される。

 氷魔術を扱うことから呼ばれた二つ名は"氷結王子"。

 二つ名が絶妙にダサい、本人は文句を言わなかったのだろうか。


 2人目は数々の実績を残した有名貴族。

 どんな時も本気を出さず、口癖は「まだ本気じゃねーし」らしい。

 こんなセリフを何も恥ずかしがらずに言える人間と関わってロクな事になったことがないので、本音を言えば仲良くなれそうにない人だ。


 3人目は平民だが選ばれた優秀な才能の持ち主らしい。

 身分や人柄関係なしに誰でも平等に接する人格に、得意な魔術が治癒魔術という事でついた二つ名は"聖女"。王子よりもまともな二つ名で良かった。


 4人目は学問の天才。

 魔術化学において優秀な成績を残し、新技術を多数発明した。

 たった16歳でこれ程の事を行うような人間だ。余程凄い頭脳の持ち主なのだろう。

 戦闘以外の事はよく分からないため小学生レベルの事しか言えないが凄いという事はわかる。


 そして最後の5人目。

 何の実績もない、だけど特待生に選ばれた隠れた実力者。

 名前以外は情報がないせいで呼ばれた二つ名は"謎多き魔術師"。

 二つ名がまぁなんと言ってもダサい、多分王子の二つ名をつけた人と同じ人間がつけてるだろうと思ってしまった。


 過大評価にも程がある、特待生とはそんなに他者から夢を見られるようなものなのだろうか。


「はぁ~···」


 話を聞き終わった俺は大きな溜息を吐いた。

 まさかここまでの事が俺の知らないところで話が事前に進んでいたとは。

 ハフリーには後でみっちりと聞き出さなければいけないな。


「どう? 特待生ってどんなものかわかった? 特待生って噂されるくらい凄いのよ。誇っていい事だと思うけど」


「そんな変な二つ名をつけられるくらいならば普通に受験したかったというのが今の本音だ」


「うーん、まぁ確かに二つ名は···なんと言うかダサいよね、謎多き魔術師って安直すぎるもんね」


「そのフォローは少し刺さるものがあるな···」


 頭痛は無いのだが頭を押さえずにはいられない。

 呆れてただひたすらに溜め息が出る。


「···とりあえず、俺は今日来た理由は受験ではなく実力調査という訳か、勉強して損したな」


「まぁ実力調査で良い成績残すのも悪くないでしょ? 頑張りなよ」


「そうだな、来たからには全力であたるつもりだ」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 あの後受付を済ませてから、フェリスと別れて別の試験会場へ向かう。

 別に特待生だけで受けるという訳では無い。

 たまたま筆記試験の会場が受験番号が離れていたから別れただけだ。

 それでも特待生は全員同じ会場に集められているらしいのだが、特に目立った人間は見つからなかった。


 筆記試験は全教科合わせて4時間。

ちなみに案外余裕があった。

 暗記能力と計算にはもとより自信があった為、暗記問題も計算問題も8割は埋まった。

 魔術式等の問題も、普段自分が使っている物の応用だ。分からないものもあるが分かるものはすぐに埋まる。むしろ初歩的な部分が多くて良かったとさえ思えた。

 だいたい埋まった解答用紙を見てやり直しもしたが、埋まっているところは完璧だ。

 この学院のレベルがどれほどのものかも知らないのだが、普通に受験していたとしても合格範囲だろう。


 筆記試験が終わり昼食を食べた後はすぐに移動が始まる。

 移動先は魔術競技場、その名の通り魔術に関する競技を行う為に整備された競技場だ。

 この学院が持つ広大な土地の3分の1はこの魔術競技場で、なんと競技場だけでもこの学院には4つあり、それぞれA、B、C、Dと振り分けられている。

 天井の開けた競技場はまるで古代の闘技場のようだ。


 その客席に受験生達は通され、順番待ちをする。

 順番が呼ばれれば競技エリアへ向かい、対戦相手と戦っていくといったシステムだ。


 俺は適当な客席に座って適当に試合を見る。

 同年代の戦闘能力が見たかったというのもあるが、期待はずれだった。

 ただ魔術を撃ち合うだけの試合風景、回避やブラフは存在せず、ただ棒立ちで魔術を撃ち合うだけの物だ。集団戦においての典型的な戦術ではあるのだが、あれでは魔力を無駄に使う。1対1では尚更だ。


「国立の魔術学院と聞いていたから期待していたのだが、やっぱり受験生は初心者ばかりなんだな···」


 少しは自分の技術向上の参考になるかと思っていたが、宛が外れた。

 そう思いつつも見続けていると、聞き覚えのある声が話しかけてきた。

 声の方向を向けばフェリスが笑いながら立っていた。


「筆記試験どうだった?」


「自信はある。そっちは?」


「私はヤバいかも、埋まらなさすぎて顔が引きつっちゃった」


「それは大変そうだ」


 では今の笑みも話を聞いている限り焦りから来る物だろう。

 自分の心配は特待生の話を聞いてから一切していなかったが、今はむしろ彼女が心配だ。


「そんな調子で合格できるのか?」


 そう聞いてみると、フェリスは今までとは別の、自信に溢れた笑みで「まぁ大丈夫かな」と言った。

 実技試験には自信があるらしい。


「特待生には及ばないかもだけど、私田舎で鍛えてたから、実は戦闘経験も豊富な方なんだよ? 今見てるレベルの人達なんて余裕で倒しちゃうんだから!」


「その調子なら本当に大丈夫そうだな」


 実技試験で優秀な成績を残すことが出来れば筆記試験が酷かったとしても入学できる可能性は高いだろう。

 もし負けるような事がない限りは。

 まぁ彼女も余裕と言っているのだから、多分大丈夫だ。それで不合格だったのならその程度だったというだけだ。


「まぁ頑張ってくれ」


「うん、頑張るよ。絶対合格してみせるんだから!!」


 たわいもない会話を続けていると、競技場上部に付いている共振魔術を使用したスピーカーから放送が鳴る。


『特待生ヴェルト・クローウェル、同じく特待生サイラス・アルケイディア。競技場Bにて試験を行いますので、至急集合してください』


「招集がかかったな、じゃあ行ってくる」


 アルケイディア、王家の持つ苗字だ。

 ていうことは相手は攻撃魔術の天才と謳われている氷結王子らしい。


「うん、いってらっしゃい。相手はあの氷結王子だよ? 大丈夫?」


「氷結王子? あぁ、どうにかなるとは思うが」


「気をつけてね、氷結王子はプロより強いって噂なんだからね?」


「じゃあ、多少は参考になりそうだ」


 俺は椅子から立ち上がり、早歩きで競技場Bへと向かった。

 相手に怪我させない程度にやろう。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 競技場Bの客席にはもう既に沢山の人が集まっていた。

 椅子だけでは足りず、立って見ようとしている人もちらほら居た。

 受験者だけではない、魔術学院の制服を着た人も沢山居る。どうやら特待生の試合を見に来たようだ。


「······やっぱり慣れないな」


 人目を浴びる事に少し抵抗があるので、今のこの状況はあまり好ましくない。

 何故こんな目立つ事をしなければいけないのか疑問だ。


 競技場の中央には2人の人物が待つように立っていた。

 1人はこの学院の教員、多分審判だろうが、もう1人は違う。


 白銀のストレートヘアーを少し遊ばせた髪型にエメラルドグリーンの瞳。

 整った顔立ちは彼の爽やかな表情によくあう。

 自信家のように微笑んではいるが、その微笑みにさえ王族としての血筋の良さを感じられる。

 あれがアルケイディア王国第二王子、サイラス・アルケイディアだろう。


「君がヴェルト君?」


 サイラスは俺に微笑みながら聞いてくる。

 

「···えぇ、俺がヴェルトです。そう言う貴方はサイラス様とお見受けしますが?」


 俺も慣れない敬語で相手に軽くお辞儀をする。

 今から戦う相手だとしても、相手は王族だ。

 国に仕える者として彼は敬うべき相手だと教えられてきた、いつもの口調なんて使えない。


「敬語はやめてくれ、君の本来の口調で話してくれないか?」


「失礼しました。ですが王子、王子に対する無礼を働く事は俺には出来ませんが故、お許しいただけませんか?」


 そう言うと彼は頬を掻きつつ表情を少し崩す。

 どうやら機嫌を害してしまったらしい。


(へりくだ)ってくる相手が嫌いなんだ。敬語をやめてくれ、今すぐに」


「······了解した。敬語は疲れるから助かる」


 肩を回しつつ、俺は息を吐く。

 敬語を話していると妙に気が落ち着かなくてどうにも嫌になるので助かった。


「それでいいよ。僕が王子だったとしても、今はただの受験生だからね」


「成程、校則は守れと。すまなかった」


「そういう訳ではないんだけどね···?」

 

 俺が正しく規則を守れていなかったから怒っていたのか。

 身分は関係ないと校則にあったのに守れていなかった、これではルールを守る事が当たり前と言える立場ではないな。

 次からは気をつけなければ。


「···そろそろ準備があるから、君もちゃんと準備をしておくんだよ」


「わかった」


 なんだか脱力しきって肩を落とすサイラスを後にして、彼に言われた通り準備室に向かう。

 競技場の入口付近にある準備室には競技用の魔術器が複数種類置かれていた。


 魔術器には大きく分けて種類が3種類ある。

 1つは近接武器型、主に剣や篭手、槍型がこれにあたる。

 近接武器型の特徴は近距離戦と魔術戦を同時に行えるという点だ。

 対応する距離は中近距離魔術戦、最もオーソドックスな形だ。


 次に杖型。

 特徴は近接武器よりも圧倒的に劣る近接戦闘性能と、中遠距離の戦闘能力の高さだ。

 扱い勝手は少し悪いが、相手と距離のある戦闘においては最も高い性能を示すだろう。


 最後に回転式弾倉型、俺が使っていた回転式拳銃(リボルバー)等がこれにあたる。

 特徴は他の魔術器と違い回転式弾倉1つ1つに魔術を記憶させ、詠唱無しでそれを引き金1つで発動できる点だ。

 ただし1度撃てばもう1度撃つ為に魔力を充填する必要があり、弾倉を使い切った際の隙が大きい。

 扱いが難しいし、長期戦には向かない、最も人を選ぶ形だ。


 今回の競技は1対1の総合魔術戦。

 魔術の殺傷能力を大幅に減らす付呪(エンチャント)が施された競技用の魔術器を使用する。


 双方に魔術が3回当たれば壊れるシールドが張られている。魔術を撃ち合い、相手に3発当ててシールドを破壊した方が勝ちとなるルールだ。

 禁止事項は物理攻撃の禁止、万が一物理攻撃を行えば反則負けとなる。

 今回は使える魔術に制限はない、最も簡単なルールで行われる。


 俺はポケットに入っている回転式拳銃(リボルバー)型魔術器をロッカーに起き、競技用魔術器から杖型の物を1つ取る。

 理由は簡単、このルールにおいて物理攻撃が行えないからだ。


 物理攻撃が行えないのならばいつもの身体強化(フィジカルブースト)を使った物理戦闘は行えない。

 近接武器型は物理攻撃が使えないのならばおまけ程度の中距離戦闘能力のみで戦うハメになる、それでは不利になる一方だ。


 よって杖型が最も適した戦闘だろうと思いこれを選んだ。

 使ったことは数回しかないが、多分大丈夫だろう。


 相手を待たせてはいけない。

 俺はすぐにそれを持ったまま競技場へと戻った。


 俺が戻ると同時にサイラスも向こう側から競技場へと来た。

 手に持っているのは意外にも俺が選ばなかった剣型だ。


「さぁ、早く始めようじゃないか」


 彼は挑発的に手招きをする。

 余程自信があるらしい、俺は1メートル程の長さの杖を適当に振り回し、軽く準備運動をする。


「ああ、わかった」


 その勢いで杖をサイラスに、挑発への返しとして向けた。


 審判が「準備はいいですか?」と聞いてきたので、双方相槌を打ち「はい」と返事をした。

 それを見て、審判も頷いて腕を上げた。


 雰囲気は軽いが、観客から見れば凄まじい緊張感だ。

 両者引かず、ただ最初の一撃を今か今かと待つガンマンのように構えているだけ。

 それが熱と静けさを生み出していた。


 審判の腕が振り下ろされる。

 その瞬間に、軽い雰囲気は1秒もかからずに氷のように凍てついた。


 試合が、腕が振り下ろされる音と共に始まった。


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