030:愛憎に穿つ毒
篭手から強大な力を感じる。
俺の魔力に応え、紫の光を累乗させていく。
「所詮は未完成の骨董品なのです…! 爆炎波動ッ!!」
アモンが火球を放つ。
先程よりも火力が高い、彼女の本気の一撃だ。
喰らえばまた瀕死になるだろう、だが今は余裕だと心の底から感じた。
これは未完成の骨董品なんかじゃない。使い方を理解されなかった完璧な武器だ。
ヴェルンハルトの作った物を使ってきた俺にとって、これは彼の癖がよく出た作品でしかない。
飛んでくる火球に手を向ける。
そして心の中で不意に思い浮かんだ、愛憎に穿つ毒が俺に伝える言葉を詠唱する。
「第一現象・蝕毒」
火球が俺へと迫る。
しかしゆっくりとそれは動きを止め、黒く変色し始めた。
変色はすぐに火球全てを包み込み、やがて朽ちて消え失せる。
これが古代魔術、愛憎に穿つ毒の力。
何者だろうと侵食し、塗り替え、外からも内側からも蝕み喰らう毒の力だ。
「馬鹿な……アモンの爆炎波動を止めるだとォ……!?」
「…すごいな、これは」
驚く相手を無視して、俺は篭手をまじまじと見る。
これほどまでに強大な力を見たのは初めてだったからこそ物珍しい。
それでも今は戦闘中だ。すぐに向き直り、相手を見た。
「…素晴らしいなァ! その力、是非とも欲しくなったぞォ!!」
マルファスが雄叫びをあげ、俺へと突進する。
両手に握られた2対の剣、あれは確か幻惑喰らいだったか。
———面白い、試してみるか。
「幻惑喰らい・限界解除ッ!!」
周囲を暗闇が覆い尽くす。
幻惑喰らいの限界解除だ。
今まで溜め込んだ幻惑を全て吐き出し、相手の五感全てを奪う技。
前が見えない、何も聞こえない。
しかし焦る必要なんてなかった。
俺は手を掲げ、再び詠唱する。
「第二現象・支配毒」
篭手が眩く光る。
周囲に広がる暗闇を溶かし、さっきの火球のように朽ち果てさせていく。
五感が戻る、目の前までマルファスが接近しているのを目視で発見した。
「なっ!?」
「どうやら幻惑喰らいでもこれを無力化することは不可能らしいな」
目の前で驚きたじろぐ相手の心臓を狙い、胸へ拳を突き刺す。
服が破れる音と共に拳は貫通し、マルファスを穿った。
「馬鹿なァ!?」
「驚くにはまだ早いぞ?」
そう、先程朽ちさせた魔力が、俺の周囲に集まり、無数の紫の長剣へと姿を変えていく。
どれも魔力で出来た毒の力を帯びている、支配毒の力による、相手の魔力を支配する力だ。
周囲に浮く剣が、一斉にマルファスへと向き、勢いよく射出される。
「ああぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁァ———!!」
マルファスは声にもならないような叫び声にも近い悲鳴を上げる。
剣が彼の体を貫き、切り刻み、体をどんどんと散り散りに朽ちさせていく。
「マルファスさんッ!」
アモンが止めようと足を動かした時にはもう遅い、彼の体は既に顔の仮面とシルクハットのみとなっていた。
俺は顔だけになったそれを地面に投げ捨てた。
「う…ぐゥ……!」
「それだけ切り刻んでも、まだ生きてるのか」
幽霊とは便利な体をしていると関心しつつ、心に浮かぶ最後の言葉を詠唱しようとする。
すると篭手の装甲が開き、より一層輝きを増した。
凄まじい魔力が溢れ出す、魔力のみが暴走するように周囲ごと飲み込み蝕んでいく。
「一時撤退するのです、マルファスさんッ! あれは不味いのですよ!!」
「了解したァ…」
撤退すると相手は言っているが、逃がさまいと俺はすぐに魔術を発動した。
「第三現象・帰結毒ッ!!」
光が、篭手から一斉に前方扇状に放出される。
周囲一体を飲み込み、溢れ出した光と毒は建物ごと飲み込み、蝕み喰らい尽くしていく。
やがてそれらは黒く染まり、朽ちて消えていった。
光の放出が止む。
愛憎に穿つ毒の力のせいで、展示室は黒く染まり、足の踏み場もないほどに壊れ果てていた。
屋根は溶けて半分以上が無くなり、壁に限ってはほとんどが消え失せている。
「…やりすぎちゃったね」
後ろからハフリーが俺の肩を叩く。
ハフリーの言い方的にも、敵には逃げられてしまったらしい。
一足遅かった、この技を撃った意味がないし、建物を酷く崩壊させているのでデメリットしかない。
やっと冷静になって俺は頭を抑える、それと同時に酷い立ち眩みに襲われ、俺は地面に膝をついた。
「ヴェルトっ」
「いや、大丈夫だ。魔力を使いすぎた…」
しばらく休憩すれば治ると付け加え、近くの瓦礫にもたれ掛かる。
なんせ古代魔術をお世辞にも魔力が多いと言えない俺が使ったのだ、こうなることも予想はできていた。
しばらく休憩していると、紅蓮が展示室へ駆けてきた。
どうやら展示室から急に紫の光が溢れだしてきたので、心配になって駆けつけてくれたようだ。
それの原因は俺だと伝え、右手の篭手を見せてやったら彼女が心底驚いていた。
俺はその様子を見て笑ってやり、手についていた篭手を外そうとした。
でも、ここでひとつ問題が発生した。
「……これ、外せないんだが」
俺の言葉に、ハフリーと紅蓮は驚き絶叫した。
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