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028:鴉紳士と幻惑紳士


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ヴェルトッ!!」


 俺を心配し、此方のピンチに駆けつけようとハフリーは移動しようとするが、すぐさま敵によって道を阻まれる。


「そうは行かないなァ、我が役目は黎黒を殺すこと、故にアモンの邪魔はさせぬぞォ!」


「くッ!」


 マルファスの短剣がハフリーを肉薄にする。

 恐ろしく素早い短剣の攻撃には型はなく、また訓練されたような洗練さもない。

 だがしかし、回避はできてもいつもの魔術が使えないのだ。

 幻惑魔術で自分の位置を誤魔化そうにも、何故か幻惑がすぐに解除されてしまう。


「君、その短剣は…」


「無論、幻惑喰らい(ファントムイーター)だァ。幻惑魔術を喰らう魔道具、我が主からの(たまわ)り物よォ」


「そうかい、君の主はどうやら僕達の事をよく知っているようだね…!」


 勿論幻惑魔術が使えないだけではこれほどに苦戦しない、だがしかし幻惑喰らい(ファントムイーター)には恐ろしい性能がある。

 それは、喰らった幻惑魔術を使い、己の存在を幻惑魔術によって大きく変えることだ。

 実際の大きさや形は不明、今は4本の短剣を象ってはいるものの実際はもっと大きいかもしれないし数も4本じゃない可能性だってある。


 故に近づき難く、迂闊に近づけば奴の攻撃で此方が危ない。

 幻惑魔術と変性魔術に天賦の才を持ちつつも、ハフリーは攻撃魔術と防御魔術は苦手だ。

 遠距離攻撃をしかけてもあまりいい打点にはならないだろう。


「考えても仕方がないか…!」


 すぐさま手を薙ぎ払うように動かし、魔術を発動する。

 変性魔術、空気剣(エアブレイド)

 空気を変質させ、己の武器として扱うことができる魔術だ。

 変質させた空気は質量はないが物を斬る等のことができるが、術者の手から離すことは出来ない。


 すぐに接近し、相手の腹を狙う。

 目の前の鴉男の間合いは常に不明、故に分かるまで内側に入り込み続けるしか方法がない。

 相手の右腕が振り上げられる。攻撃は右から来る。

 そう思い武器を右に構えるが、すぐに違和感に気づき姿勢を低くした。

 左からの風圧、ハフリーが被っていたソフトハットが切り刻まれ右へと飛ぶ。


 右手を振り上げていたのに、攻撃は左から来た。相手の動きでさえ幻惑喰らい(ファントムイーター)は隠し通す。

 ハフリーの十八番(おはこ)だからこそ回避出来たものの、あんな技を使われればひとたまりもない。

 だが危険を(おか)したお陰で相手の懐へ接近できた、ハフリーは空気剣(エアブレイド)を振り上げる。


 ガキンっと、変質した金属のような空気とマルファスの武器がぶつかり合い鍔迫り合いになる。

 間合いでさえ分からない攻撃を放つ相手だ、この気を逃せばまた1から攻め直す必要がある。

 この気を逃さまいと、ハフリーはもう片方の手で奴の喉元を鷲掴みにした。


「ぬぁッ!?」


「とっとと、退けろ!!」


 そのまま奴を喉から地面に叩きつける。

 幻惑喰らい(ファントムイーター)の幻惑も介する暇も与えない、勢いと力だけの一撃。

 奴は受け身もとれずに背中を強打する。


 そして喉を掴んだからこそ、ハフリーは奴の違和感に更に気づいた。

 喉を掴んでいる筈なのに、人を触っているような感覚がないのだ。

 体温どころか感触でさえ、それは人ではないのだ。


「君は、一体…?」


「やっと気づいたかァ」


 ハフリーの喉を握り返しつつ立ち上がる。

 驚き脱力するハフリーを他所に、奴は顔の仮面を外して見せた。

 そこにはただの空洞が広がっていた。

 幻惑魔術等で隠せるようなものでは無い、本当の空洞。

 顔だけではなく、腕や足、胴までもが全て空洞なのだ。


「我が体はもう既に朽ち果て死んでいるのだよォ。故に我は体を持たぬ、幽霊(ゴースト)というものだ。その意味が分かるかねェ?」


「死なないとでも言いたいのかい…?」


「ご名答、我が体は失せようとも魂は不滅。元より貴様に勝ち目などないのだよォ」


 奴は仮面を付け直し、武器を取り直す。

 幽霊だと分かった瞬間、ハフリーは目の前の相手が自分の(ことわり)から外れた存在であるように映った。


 この世界には死霊(アンデッド)という概念はある。

 だがそれはただ死体を魔力で動かしたものに過ぎない。幽霊なんて存在しないのだ。

 だからこそその異質さが不気味で仕方がない、自分の知り得ない存在が目の前で(うごめ)いているのだ。

 ハフリーは素直に表情を歪めた。


 その瞬間だった、マルファスの後ろで巨大な爆発が起きた。

 アモン使った魔術による広範囲の攻撃魔術だ。

 爆発によって空間が揺れ、窓ガラスが尽く砕け散る。

 そして爆風の中から1つの黒い人影が吹き飛んできた。


 それはガラスケース激突し、中にあった愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)を巻き込んで後方の壁にぶつかる。


「…! ヴェルトッ!!」


 ハフリーはすぐにその人影に急いで駆け寄った。

 黒いコートに黒い髪、間違いなくそれはヴェルトで、ハフリーはすぐにヴェルトの横にしゃがみこむ。

 装備のお陰で致命傷には至っていないが、火傷が酷い。すぐに処置しなければ間に合わない。


 しかし、どうやら処置をする暇もない。


「そろそろ終わりなのです。黎黒」


 アモンが武器を向け、マルファスと共に此方を囲むように陣形を組む。

 もう既にヴェルトは動けない、ハフリーはそんな彼を守るように立ち塞がった。


「まだ僕が居るだろう、君達の目は節穴かな?」


 軽い挑発をハフリーは相手へと向ける。


「2対1で何ができるゥ? 先代黎黒とて、我らを相手にして生きて帰る事は不可能だ」


「やらなきゃ分からないだろ?」


 ハフリーは歴戦を潜り抜けてきた暗殺者でもあった。しかしもう現役ではないし、これ以上ないほどに黎黒とハフリーに対する対策がされている。

 勝てないことは分かっている、でもせめて隙を作り、ヴェルトと共に逃げきる可能性はある。


 ハフリーは覚悟と共に息を吐き、相手へ突撃した。



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