027:狼少女と暗殺少年
刹那、距離が一気に近づき、お互いの間合いまで接近する。
相手はその曲がった剣を横に振り、俺を狙って斬りかかる。
俺はすぐに前のめりになっていた体の軸を横へ捻り、ギリギリの間合いでそれを回避しながら横へと跳ぶ。
しかし、回避し切ったと思ったが、脹ら脛には痛みがあった。
そこは服の上から横に切れ、血が出ていた。
あの剣の形状は回避を難しくする為のものだとすぐに分かる。
あれは間違いなく、軽い身のこなしと格闘術で戦う俺対策だ。
「あら、もっと深く切れると思ってたのです」
剣に付着した少しの血を指で拭き取る彼女は牙をむき出しにして悪態をついた。
俺は久々についた体の傷に少しだけ戸惑いつつ、だがすぐに立ち上がる。
痛みはあるが所詮かすり傷だ、戦いに支障はない。
「まぁ仕方ありません、傷は多い方が綺麗で栄えるのです」
「お前にとっての綺麗は悪趣味だな…!」
俺は上へと跳び、天井の木の梁を蹴って急接近、体を回して振り上げた足をアモンへ叩き落とす。
彼女は持っている剣で俺の踵落としを受け流し、衝撃を下へと逃がす。
俺はすぐさま地面に受け流された足を軸足に、もう片方の足で流れるように相手の腹へ蹴りあげる。
俺の踵落としを受け流したせいで剣での防御がかろうじて間に合わず、衝撃を和らげることは出来たがそれでも衝撃で後ろへ吹き飛ぶ。
「くッ」
アモンは剣を床に刺して受身をする。
その隙を見逃さない、俺は更に接近して銃底で上から相手を打つ。
彼女は突き刺した剣をそのまま上へと上げ、俺の攻撃を防御する。
ガンっと銃底と剣がぶつかり合い鈍く火花を散らす。
急に防御姿勢へ移行した故に彼女は衝撃を逃がしきれずに片膝をつく。
攻撃の手はまだ緩めない、俺は銃を向けてすぐに3回引き金を引いた。
銃口から魔弾が発射される。
学院で使っていたものよりも更に威力を増したものだ、勿論殺傷能力がある。
当たれば怪我じゃ済まない魔術を、彼女は片膝をつきつつももう片方の足で体を横に回転させ、剣を回すことによって弾き、後退する。
「なかなかやるのです…!」
「あぁ、簡単に殺せると思ったら大間違いだ」
銃口を再び向ける。
彼女との距離は大股で2歩ほど、接近戦の間合いではない。
故に後追いしない、彼女があの程度の剣術のみで俺を殺せる算段だとは思えないからだ。
距離をとるのはそのためだ、相手の手の内はまだ分からない、だからこそ距離を開けて回避をしやすくしている。
「正直甘く見てたのです。ですが、今からはそうはいかないのですよ!」
彼女の目付きが変わった。
まるで光を放つが如く迸る殺意と共に、彼女の姿が霞むほどの速度で俺の目の前まで接近していた。
速い、さっきまでの彼女の速度に慣れた故に目が追いつかなかった。
腰から顔まで一直線に相手に剣が振り上げられる、体を後ろへ逸らし何とか避けるが、彼女の攻撃は止まらない。
今度は剣を振り下ろし、その勢いのままに体の軸を大きく動かして剣ごと体を回転させ、縦横無尽に剣戟が襲いかかる。
それらを後方へのステップで回避する。
それで攻撃が終われば良かったが、彼女は更に腕を上げ、詠唱をした。
「爆炎波動ッ!」
扇状に広がる爆熱が俺へと襲いかかる。
回避は不可能、すぐに近くの椅子に隠れつつ魔力壁を発動して耐え凌ぐ。
椅子が数秒で黒く焼け焦げ、石のタイルでできた床は赤く熱を帯びている。
「恐ろしい火力だな…」
「まだ終わらないのですよ」
彼女が両腕を広げる、火球が5つ広がり陽炎が彼女を包み込む。
その火球がその場に存在するだけで温度が上昇するほどの熱だ、俺の頬を汗が伝った。
赤熱した床を回避のために少しでも踏めば足裏を負傷するだろう、なので上へと跳び、床が踏めるようになるまで天井の梁を掴み回避しようとするが、急に目が眩んだ。
「……ッ!?」
何かがおかしい、足に力が入らない。
視界がぼやけるし、頭が回らない。
汗をかいていると分かるが、その汗の量が尋常ではない。
回らない頭ですぐに原因を探すが分からない。
「やっと効果が出たのです」
「…ッ! お前、何をした!?」
「いや勿論、ただの毒なのです。神経毒を剣に致死量よりも多めに塗っておいたのですよ」
成程、毒か。
失念していた、かつては自分も愛用した物だった故に自分を恥じる。
まさか使われると思っていなかったからこそ、その可能性を思考から排除していた。
「にしたって、まだ動けるのですか。貴方の生命力は凄まじいのです。普通なら掠るだけの傷でも死んでると思うのですが」
「…まぁ、体を支えるのがやっとだがな…」
壁まで後退り、壁に手を付き体を支え立ち上がる。
毒が体に回ってきたのか、もう既に体調は非常にまずい、他人の体をタコ糸で動かそうとしているような気分だ。
吐き気と頭痛に、更に目が眩む。
銃を向けるために腕を上げようとするがまともに腕に力が入らない。
ついには銃を持つ握力も失い銃を落とした。
「では、そろそろ終わりにするのですよ。貴方の死体はちゃんと洗ってから主にお渡しするのです」
「…まだ、死体になるつもりはないんだがな……」
「最後の言葉にしては諦めが悪いのですね」
「当たり前だ、実際死ぬつもりもない」
アモンは俺の言葉を鼻で笑って、手の上で浮かぶ火球を俺へと撃ち出された。
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