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026:作戦決行


 すぐに紅蓮に頼んでハフリーへその事を伝える。

 共振魔術器越しに彼の声がノイズ混じりに聞こえた。

 「市場から離れた噴水広場にて集合」との事だ。

 俺達は市場の人混みを避ける為に路地裏に入り、急いで指定された場所まで向かった。


 ハフリーは既にその場所に到着しており、俺達の到着を待っている。

 今来たところらしい、彼の息がいつもよりも上がっていた。


「来たね」


 俺達の姿を確認し、彼は胸を撫で下ろし息を吐く。

 この噴水広場には人は少ないが、いないわけではない。俺達はこっそりと路地裏に移動しながら、作戦会議を始めた。


「紅蓮、今のところは生命探知だけにしか引っかかってないんだね?」


「そうっす、魔力を感じないので魔術を使った痕跡はないっす」


「そうかい、今日は紅蓮の探知魔術に引っかかる範囲には人を入れないように手配しておいた。つまり目的の人間が来たって事で良さそうだ」


 紅蓮はオドオドと、どうすればいいか分からないと目を交互にキョロキョロと動かしているが、それと比べハフリーは冷静だ。

 彼は胸ポケットからメモ帳ほどの大きさの街の地図を取り出し俺達に見せる。


「今から作戦通り、僕とヴェルトで様子を見てくる。紅蓮はこの場所から監視を続行、何かあればすぐに共振魔術器で伝えてくれ」


 そう言って地図のとある場所を指さす。

 愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)が保管されている建物の向かい側の建物、今は空き倉庫となっている場所だ。

 所有は軍にあり、軍の人間なら誰でも使うことが出来る施設、紅蓮の階級は少尉なのでまぁまぁの待遇で施設を利用出来るだろう。


「そしてヴェルト、君は僕と一緒に来てもらうよ。万が一、相手と戦闘になった場合に君の力が必要になるからね」


「了解した。相手はどうする?」


「どうするって…あぁ、出来れば生け捕り。無理ならば殺してしまおう」


「分かった、じゃあ決行しよう」


 3人で持っている魔術器を軽くぶつけ合う。

 軍の人間がよくやる「健闘を祈る」みたいなものだ。

 ただのおまじないだが、ある方が気分が落ち着くだろうと俺が提案した。

 ハフリーと俺は大丈夫だが、紅蓮はこのような荒事に慣れていなさそうだったので、気を紛らわせてやろうと思っての行動だった。



 作戦を決行する。


 魔術器は上着の下にホルスターで留めて隠し、愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)の保管されている施設に接近する。

 そこはアルヴェンツェ伯爵が所有する魔術器工房だった場所だ。

 今は誰も工房として使わなくなり、記念館という名目で観光施設となっている。


 愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)は記念館の目玉だ。

 改造されたとはいえ元はこの国にしかない古代魔術の1つ、他の古代魔術は全て政府が独占している為に名前しか知らないような物が沢山だが、この魔術は一般人にまで公開されている。

 しかもこの古代魔術は未完成で誰も使用できない、記念館に飾り、例え盗まれたとしても誰も使えないので意味もない。

 国宝級の価値はあっても使えなければ意味もない骨董品だ、記念館の目玉としてはもってこいだろう。


 だからこそ意味が分からないのだ。

 何故愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)を譲ると手紙が届いたのか。

 勿論この手紙にアルヴェンツェ伯爵は関わっていない。自分の領の財産を見ず知らずの男に譲るような人間でもないことはリッカの話を聞いてわかる。

 ならば、一体誰がこんな事をやったのだろうか。


 そう思いつつ、記念館の戸を開けた。

 ガラス製の開き戸はキイと年季を感じる音を立てて開く。

 中は真っ暗で、蝋燭のみで照らされている。

 光量が足りないので不気味さを感じた。

 1部を除き蝋燭が故意に消されているのを確認した。どうやら先に来た何者かが、これらの蝋燭を準備したらしい。


「ハフリー、蝋燭以外の明かりはないのか?」


「あぁ、これを渡すのを忘れていたね」


 ハフリーにガス式のカンテラを渡される。

 俺はすぐにそれを開け、火をつけた。

 炎の明かりが周囲をよく照らす。蝋燭よりも明るいが、それでの先を見るには少し足りない。

 廊下を歩き、目指すは突き当たりの部屋。

 そこは旧工房。かつてヴェルンハルトが魔術器を制作していた部屋であり、今は愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)を保管している部屋だ。


 そこの扉に手をかけ、彼は1度だけ息を吸った。

 そしてアイコンタクトで俺に合図を送る。

 俺はそれに頷き返事をした。


 一気にノブを捻り、扉を開けて2人同時に室内へと入る。

 木材とレンガで出来た温かみのある部屋だ。

 窓からは優しい光が差し込み、真っ暗だった廊下とは比べ物にならないほどに明るい。

 俺達はその明かりで一瞬目を細める。


 部屋の奥には愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)がガラスケースに収納され安置されている。

 篭手(こて)と大きめの短剣、2つで1つの古代魔術だ。その両方がしっかりと収納されているのを確認し、俺達はそれに近づいた。


「うん、ガラスケースが開けられたような跡もないね」


 ガラスケースに躊躇なく接近し、それらを細かく見てハフリーは言う。

 確かに、近くで見ても遠くから見ても、異変と呼べるようなものは確認出来なかった。


 そう思った瞬間だった。


「やっと来たのです。待ちくたびれたのですよ?」


 不意に後ろから声が聞こえた。

 すぐに上着の内に手を入れ、銃型魔術器をその声の主へと向ける。

 そこに居たのは1人の少女だった。


 白い獣皮のケープを肩から纏い、狼のような耳がデザインされているフードを被っている金髪の女性。

 ケープの中から覗く服装は露出度が高く、肌色が至る所から見えた。

 だが人間ではないとすぐに分かる。

 彼女の腰からは蛇がはえていた、蛇自体にも意思があるように、腰周りをくねくねと動き、こちらを威嚇している。


「お前は何者だ」


 銃を向けたまま俺は目の前の彼女に問う。

 彼女は特徴的な尖った八重歯を覗かせて此方に微笑んだ。


「私はアモン、我が主の命に従って、黎黒を殺しに来たのですよ」


 その言葉を聞いて、いっそう俺は敵意を向ける。

 あの手紙はやはり俺を誘い出すためのものだったのだとすぐに気づいた。


「なので、できるだけ1人で来て欲しかったのです。まさか黎黒の仲介人まで一緒に居るとは思ってなかったのですよ」


「…お前、何処まで知っている?」


「勿論、企業秘密なのです」


 俺は後ろに居るハフリーの方を見る。

 ハフリーは彼女を見て小さく溜息を吐いた。


「……そうかい、なら君を捕まえて洗いざらい吐いてもらおうかな。2対1だ、君に勝ち目はないしこちらにも余裕があるからね」


「誰が私1人と言ったのです?」


「……ほう?」


 アモンと名乗る少女は笑ったまま手を振る。

 その瞬間だった、ガラスケースに金属が触れる音と、重い物が乗ったような音が。

 思わず彼女から目を離し、そちらの方を見る。


 そこには、(からす)を象ったような黒い羽毛のマントを纏った、ペストマスクにシルクハットの、全身を綺麗なスーツで着飾った男が立っていた。

 両手には短い短剣が両手合わせ4本握られている。


「マルファスさん、遅いのです。もう始まってるですよ」


「失礼ィ、祭りには遅れて来る主義なのだよォ」


 アモンにマルファスと呼ばれた男は(しゃが)れ濁った声を出しつつガラスケースから飛び降りる。

 いつの間に出現したか、どうやって紅蓮の探知魔術を掻い潜ったのかは不明だ。


「ヴェルト、この鴉男は任せてくれ。君はアモンを」


「分かった」


 お互い相手へと向き合い、武器を引き抜く。

 アモンはケープの内側から巨大な爪のような剣を取り出した。

 珍しい形であり、それが市販のものでは無い事も見ればすぐに分かる。

 故にどのように攻めてくるのかも不明だ。


 だからこそ、俺はすぐに地面を蹴り、一気に目の前の少女へと突撃した。




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