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024:ハフリーとの試合


 最初の踏み込み、後手に回れば負けると確信した俺は一気にナイフを振り上げ、彼の顎を狙う。

 狙うは短期戦、相手に参ったと言わせるだけならば急所に当てればすぐだ。


 そう考えて放った一撃は彼を肉薄にしただけで、綺麗な程に空を斬る。

 完璧な一撃、だが故に体を逸らすだけで回避が可能な一撃。

 最初に首を狙うと彼に読まれていた。


 すぐさま足の踏み込みを変え、次の攻撃へ派生する。

 足による回し蹴り、先程踏み込んだ右足を軸に左足を大きく回して彼の顔へと打つ。

 それを彼は簡単そうに腕を真っ直ぐにしていなし、衝撃を殺しきってからすぐに俺の左足をいなした腕で押す。


 格闘技を得意とする相手に有効な姿勢を崩す技だ。それを警戒して俺は体重を後ろへと逸らし、右足だけで後方へ飛び距離を離す。


「ヴェルト、ハイキックは決定打のある強い技だが、如何(いかん)せん別の技で合わせやすい。僕のような訓練された相手には通用しないよ」


「あぁ、少しは訛っている事を祈ったよ」


 焦りを表情に浮かべる俺に対し彼は余裕の笑みを浮かべている。

 だが違う、俺の攻撃はここからだ。

 いちいち不利な格闘を挑む為に突っ込んだんじゃない。相手を油断させるからこそ刺さる技もある。


「ハフリー、上を見てみろ」


 焦りから表情を変えて、勝ち誇った表情を俺は浮かべてやる。

 勿論演技だが、その意味を理解するまで相手に表情の意味を探らせるこちができる。


「…ふーむ、成程。君のその表情、さっきの一瞬で小手先を披露したということはわかったよ。さぁ、君の引き出しのどれを使ったかだが…今から答え合わせをしていこう」


 彼はその場で1歩足踏みをした。

 彼が魔術を使うには何かしらの動作が必要になる。

 あの足踏みはつまり彼が魔術を使った証だ。

 反応はない、なんせ地面には何も仕掛けていない。


「…解析(アナライズ)に反応しない。なら地雷や罠ではない。では次だ」


 俺はその隙を突くために地面を蹴り、ナイフを前に構え彼に急接近する。

 今度は彼が右手を此方に向ける。遠距離攻撃を警戒し一気に横へと跳び、相手の射程範囲から抜ける。


「接近してきて、かつ解析(アナライズ)に反応しない。なら残りは3択だ。まず———」


 彼は腰を捻る。格闘戦における基本的な構えだ。

 俺は更にそれを警戒し、接近すフェイントを目の前でかける。

 だがそのフェイントを無視して、彼は踏み込み俺への距離を一気に詰めてきた。


「そこでフェイントをかけるのならば、答えはこうか」


 もう既に拳の届く範囲、だが彼は拳を右に向け、指の組み方を変えて指を鳴らした。

 それによって先程まで解析(アナライズ)の効果範囲外より、彼の目の前まで接近していた自動迎撃魔術、通称地雷魔術が一瞬にして彼の変性魔術によって花と紙吹雪へと変化してしまう。


 花吹雪が彼の視界を一瞬塞ぐ、その隙を突こうと下段からナイフの持ち手で殴打しようとするも、彼の体には1歩届かない。

 俺の攻撃よりも、彼の回避の方が早いからだ。

 読まれていた、一挙一動全てだ。


「うん、僕の教えた技をここまで出来るんだ。普通の相手ならば今ので死んでたね」


「ならお前は普通から逸脱し過ぎだ」


「アハハ、そうとも言うねぇ」


 手首を軽く振っているハフリーに軽い嫌気がさす。

 なんせ俺にとって非殺傷で済む限界の小手先ですら、彼の表情を変えるに至らないからだ。

 最初から必殺技をした、なのに彼はそれらを余裕で対処してみせた。

 これ程に暗殺者として嫌だと感じることは無い。


 だが手を緩める訳にもいかない。

 次の一手の為に銃口を向ける。

 しかし、気がつけば目の前に彼の姿があった。


「次は僕の番だよ」


 反射神経で引き金を引き、魔弾(バレッド)を撃つ。

 それはハフリーの額を貫通し、彼の体が後ろに逸れる。

 傷口からは花が溢れる、撃った相手は彼の幻覚だと気づく時には、俺の腹に彼の手が触れられていた。


「やっぱり、君は幻惑魔術に対しての耐性が低いね」


「お前の幻覚魔術がおかしいんだろうが…!」


 腹に手を触れる、それはやろうと思えば殺せていると言っているようなものだ。

 素直に手を挙げて降参する。

 満足そうに彼は頷き、俺の腹に添えられた手を退かした。


 そもそも俺は幻惑魔術に対する耐性は高い方の筈なのだ。

 だが彼レベルになると幻惑を幻惑で隠す、変性魔術によって幻惑を事実にする等、1回の動きで数十の魔術を発動し、それによって1つの魔術を覆い隠す。

 故にたとえ誰が見たとしても、彼の魔術を見破る事は難しいし、戦闘中の一瞬一瞬でそれらを見破ることなんて不可能なのだ。


「まぁ、この数ヶ月で君の腕が落ちていないようで良かったよ」


「腕は落ちてなくても、試合は一瞬で決着したがな。お前は強すぎる」


「これでも君の師匠なんだ。善戦されてたら困っちゃうよ」


 形式上、彼が握手を求めてきたのでそれに返す。

 今まで勝ったことは無かったが故に、負けは当たり前なのだが悔しいものだ。

 幼少期から彼の技術をこの身に叩き込んだ、黎黒として命の奪い合いをして実戦経験も詰んだ。

 なのに勝てない、しかも負けは一瞬だ。


 紅蓮は俺達の戦いを見て目をキラキラと輝かせていたが、俺にとっては惨敗で、見せるに耐えない試合だった。


 だから次は勝ちたいと、漠然とだがそう思った。




 試合の後、久々にハフリーに稽古をつけてもらった。

 稽古をつけてもらうといっても彼は見ているだけで、俺が一方的に格闘の技等をサンドバッグに叩き込み、彼が悪い所を指摘する。

 ただそれだけの簡単な練習だ。


 それを2時間ほど続け、時刻は7時。

 市場の方から活気のある声が少しずつ聞こえ始めた。

 どうやら出店が開店し始めたらしい。


「それじゃあ、市場の方に行きますかぁ」


 自分勝手に歩いていくハフリーに、紅蓮と俺はついて行った。



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