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021:到着


 俺が目を覚ますと、そこは霧の立ち込める森の中だった。

 車は止まっている、運転席を見るが、ハフリーの姿はなかった。


 扉を開けて外に出る。

 自分の位置情報が地図に映し出される魔道具を取り出して現在位置を確認するが、どうやら王都とアルヴェンツェ領の間にある大森林の出口付近、アルヴェンツェ領から数十キロメートルほどの場所だ。

 霧でよく見えないが、持っている懐中時計が壊れていない限り今は次の日の早朝3時だ。


 多分ハフリーの眠気に限界が来て運転を中止したのだろう。

 彼はというと車の後部座席でソフトハットをアイマスク代わりにして眠っている彼を見つけた。

 まるで死んだように、最小限まで息を殺して眠っていたので、まだ寝起きで集中力に欠けていたからさっきは気づけなかった。


「……腹が減った」


 持っている鞄に何か入っていないかと探り、奥の方に放置されていた保存食の乾パンを齧る。

 最近は味のある物ばかり好んで食べていたので味気ない。まぁ腹が膨れるので文句も言えないが。

 せめてチーズや燻製肉が欲しい。


 食べ終わると、今度は服を着替える。

 車の中のシートで寝ていたし、馬鹿みたいなエンジンを使っていたせいで車の中も暑い。

 おかげで着ていた制服が汗でとんでもない事になっていた。


 なので適度に体を濡れタオルで拭いてから、仕事の時に使っていた全身黒の装備を着る。

 マジックポーチに入れて置いて良かったとしみじみ思った。

 汗だくの制服をマジックポーチに入れ直し、愛用している銃型魔術器を腰にぶら下がったホルスターにしまう。


 身支度を終えて時間は3時10分、後部座席に寝ているハフリーを叩き起した。


「起きろ」


 彼に遠慮は要らないだろうと思い頭に手を振って叩こうとする。

 すると彼の体が超速で反応し、俺の腕を払い除けてから一瞬で俺の首に胸ポケットに入っていた果物ナイフを突きつけた。


「おはよう、目覚めの気分はどうだ?」


「…あぁ、ごめんね。つい癖が出ちゃったよ」


 ナイフを胸ポケットにしまい直して、彼は後部座席に腰掛ける。

 先程の行動は軍の中でも一部のエージェントのみが修得させられる"寝込みを襲われた時の動き"だ。無意識にあの動きが叩き込まれており、自分に対する視線や行動に対してあの行動が自然に出るようになっている。

 ちなみに俺は出来ない、師匠であるハフリーが教えるのを拒んだ結果らしい。


「今は何時だい?」


「3時11分だ」


「マジかい。僕まだ3時間しか寝てないじゃないか。お肌が荒れちゃうよぅ」


「別に男に肌質なんて関係ないだろ」


 彼が3時間しか寝ていないと言うことは、昨日はずっと車を走らせてくれていたらしい。

 彼には頭が上がらないが、彼からの誘いだったので自業自得でもある。


「それで、そろそろ目的を話してくれてもいいんじゃないのか?」


「目的かい? あぁいいとも。僕の準備が終わったら話そう」


「…そうしてくれ」


 彼の朝の準備は長い。

 俺は10分ほどで準備できるが、彼は服装準備や髪型を整えるだけで30分はかかる。

 一般的に見れば彼の方が普通なのかもしれないが、俺にとっては長い。

 気長に待つことにした。


 それから50分後、彼の準備が終わり車を再発進させる。

 速度は昨日よりも遅めで、それでも表定速度なんぞ余裕で無視した速度で走っている。


「そういえば目的を話さなきゃいけないんだったね」


 ハフリーは思い出したように彼のチェスターコートの内ポケットから1通の手紙を取り出す。

 宛名や住所は全て空欄、5年ほど前にメジャーに使われていた旧版の紙だ。

 封蝋に紋様は刻まれておらず、事前にハフリーによって開封されている。

 中にある手紙にはたった1行だけ、繋げ字で読みづらい言葉でこう書いてあった。


愛憎に穿つ毒(ギフト・ゼクス)を親愛なる黎黒に(ゆず)る』


 それだけしか書かれていない。

 それが昨日、王城の給仕室から見つかったらしいのだ。

 発見したのは第一王子の世話をしている一般メイドで、彼女はこの手紙の存在を知らなかった。


 ただ、妙な事に給仕室にあるメイドの勤務時間を記した紙と一緒に置かれていたのだという。

 昨日までメイド全員が確認しており、そんな手紙は今日まで無かったと証言を得ている。

 故に誰がそこに置いたのか不明なのだ。


「だから、僕達で簡単に調査しようってわけだよ。少なくとも差出人は黎黒の存在を知っていて、なおかつ王城内部の人間——もしくは王城にバレずに侵入できる人物だ」


「王城にバレずに侵入はよく見積もっても不可能だ。あそこは常に壁や天井までもが生体認証魔術と魔力感知が目を光らせている。俺が本気を出しても給仕室まで辿り着くのは無理だろう」


「君の意見は正しいよ、まぁそれでも昨日、一応僕も試しにやったけど無理だった。だから城の内部に元からこの手紙を置いた奴がいるのさ。罠なのか、それとも本当に古代魔術なんて代物を黎黒に譲ってくれるのか。今日僕たちがここに来た目的はそれを調べることだよ」


 確かに、こんな不確定な事象で軍や騎士団は動かせない。

 ハフリーのような仕事もほとんどない人間にはピッタリの調査依頼だ。

 依頼元は多分七つの楽園(セブンスガーデン)の誰かからだろう。


「さて、今日の目的はあらかた話し終わったね。アルヴェンツェには僕の部下がいる。先行して調査して貰っているから先にそっちに向かうよ」


 話が終わってちょうど、アルヴェンツェ寮最大の都市、港街トレンストに着く。

 ここのとある宿屋にいるハフリーの部下と合流する手筈のようだ。

 今は朝の5時。日が昇り朝日が街を照らす。

 眩しくて目が見えにくいのでスピードを落とし、通常車ほどの速度でその宿屋に向かった。



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